特集2-1
【脱請負事業】老朽化する水インフラ分野の課題解決に挑む~持続可能性の向上を目指して

特集2-1 【脱請負事業】老朽化する水インフラ分野の
課題解決に挑む~持続可能性の向上を目指して

6 安全な水とトイレを世界中に

貢献するSDGsとその理由

人々の生活や産業を支える基盤である水道・工業用水道・下水道分野において、官民連携事業等を通じて管路を含むインフラの持続可能性向上に貢献します。

水道、下水道などの水インフラは市民生活及び産業を支える重要な社会基盤です。水インフラは、戦後の昭和20年代から特に高度経済成長期以降に急速に整備され、戦後の復興と発展を支える重要な役割を果たしてきました。しかし、近年、老朽化が進み更新等が必要な時期を迎えた施設の割合が急速に増えており、今後、老朽化した施設の戦略的な維持管理・更新等を行い、リスクの低減に向けた取り組みを継続的に推進していくことが求められています。

水道管路の老朽化

2021年度末時点において、法適用事業の導水管・送水管・配水管の総延長は759,252kmで、うち、法定耐用年数を経過した管路延長は169,807㎞で、前年度(156,757㎞)に比べ13,050㎞、8.3%増加しています。管路経年化率は22.4%で年々上昇しています。
また、2021年度に更新した管路延長は4,908㎞で、前年度(5,168㎞)に比べ260㎞、5.0%減少しています。管路更新率は0.6%で、前年度(0.7%)に比べ0.1ポイント低下しています。水道管路は、高度経済成長期に整備された管路の更新が進んでおらず、今後も老朽化が進むと見込まれるため、適切な維持管理や更新を行うことが求められています。

資料)厚生労働省
資料)厚生労働省
水管橋落下の状況 出典)国土交通省
水管橋落下の状況
出典)国土交通省

下水道管路の老朽化の状況

2021年度末時点において、下水道管路の総管理延長は約49万kmと膨大なストックとなっています。建設から50年以上経過している管路延長は約3万km(全体の約6%)あり、10年後には約9万km(全体の18%)、20年後には約20万km(全体の41%)とその割合は増大していく見込みです。また、下水道管路に起因する道路陥没事故は2021年度に約2,700件発生しています。今後膨大なストックを効率的に点検・調査、修繕・改築していくことが求められます。

資料)国土交通省
資料)国土交通省
道路陥没の状況 出典)土木技術資料
道路陥没の状況
出典)土木技術資料

ウォーターPPPを通じて水インフラの持続可能性向上と脱炭素社会へ貢献する

政府は2023年6月に改定した「PPP/PFI推進アクションプラン」に新たな官民連携方式「ウォーターPPP」を盛り込みました。水インフラの老朽化に加え、それを管理する地方自治体の人手不足も深刻になっている中でサービスの持続性を高めるため、政府は水分野での官民連携を一層強化する方針を打ち出しました。
当社は空港や道路等のインフラ分野においてコンセッションや包括的民間委託をはじめとする官民連携(PPP/PFI)の実績を積み上げる中で、法制度や経営に関するノウハウも蓄積され、ワンストップで対応できる体制づくりが進んでいます。水分野においても「大阪市工業用水道特定運営事業等」及び「三浦市公共下水道(東部処理区)運営事業」の2つのコンセッション事業を開始しました。これらの事業で「ウォーターPPP」が目指すモデルになるよう確実な成果を上げ、全国の自治体が抱える水インフラサービスの持続可能性向上という課題解決に対処していきます。
また、ウォーターPPPでは脱炭素社会への貢献も重視されると考えます。脱炭素に向けた社会的要請の高まりの中で、下水汚泥は有効な地域資源として脱炭素社会に貢献しうる高いポテンシャルを有しています。当社も再エネ事業の運営などから得たノウハウを活かし、下水汚泥等のバイオマス利活用など、新たな事業領域にも参画していきたいと考えております。
以下、当社が事業運営に取り組んでいる「大阪市工業用水道特定運営事業等」と「三浦市公共下水道(東部処理区)運営事業」について紹介いたします。

大阪市工業用水道特定運営事業等

民間事業者が経済産業大臣から許認可を受けて運営する国内初の事業

民間事業者が経済産業大臣から許認可を受け、工業用水道事業者として運営する国内初のコンセッション事業となる「大阪市工業用水道特定運営事業等」が、2022年4月から事業を開始しました。2032年3月までの10年間にわたり前田建設工業を筆頭株主とするSPC(特別目的会社)「みおつくし工業用水コンセッション株式会社」が管路や浄配水設備の点検・維持管理・更新や料金収受を含めて一体的な工業用水道事業の運営を担います。

事業実施方針

大阪市の工業用水道事業の課題として、節水技術の向上等による給水収益の減少、老朽化施設の更新等による費用の増加、職員の不足等を背景とした運営の難しさと捉え、次の事業実施方針を掲げています。

  • ・本事業への取り組みにおいて、①収益基盤②費用構造③運営体制の3つの分野でのサステナビリティ戦略を実践し、工業用水道事業の持続可能な仕組みとして『大阪工水モデル』を確立します。
  • ・『大阪工水モデル』を市から全国に発信し、日本全体の工業用水道事業の課題を解決に導く澪標(みおつくし)となるべく、本事業に全力で取り組みます。
事業実施方針

①『サステナブルな収益基盤』への取り組み

利用者が選択できる新しい料金プランの導入を進めています。
利用者にはアンケートやヒアリングにもご協力いただき、利用者の水利用に関する潜在的なニーズや課題を把握し、需要拡大や収益性向上を目指します。また、新規開始支援策による利用者増加の取り組みも進めていきます。

②『サステナブルな費用構造』への取り組み

管路施設と浄配水施設において各種センサーや衛星画像解析等の先端技術の導入により状態監視・予防保全を目指します。
特に管路は法定耐用年数(40年)を超過した老朽管が総延長の約80%を占めますが、老朽管すべてを更新することは現実的ではありません。漏水の早期検知と修繕により大規模な漏水事故を防止し、漏水が集中する管路を厳選して更新するなど、更新と修繕の最適な組合せにより管路のさらなる長寿命化と全体コストの低減を目指します。具体的には初年度より衛星画像解析による漏水検知や漏水音センサー、相関式漏水探知器等を導入し、検証を進めています。

③『サステナブルな運営体制』への取り組み

各社員の担当業務以外についても可能な範囲で実施できるマルチタスク型の効率的な業務実施体制を目指しています。
本事業では突発漏水の現場出動やお客さま対応等といった緊急業務に24時間365日対応しなければなりません。業務知識・ノウハウの形式知化(業務マニュアル、社内講習)とICTツール等を利用した業務改善の推進等により、緊急対応業務をマルチタスク化し社員全員が対応しています。他業務のマルチタスク化についても今後進めています。

みおつくしでの管路の状態監視保全

管路の状態監視保全手法として、図に示すとおり複数の状態監視技術を組み合わせた体系を構築しています。具体的には、各管路について漏水が発生した場合の社会的影響度と漏水発生確率を算出し、リスクマトリクスによって5段階の大規模漏水リスクに分類し、その分類に応じて最適な状態監視技術を適用します。広域探査、範囲探査、箇所探査により漏水調査範囲を段階的に絞り込む手法を設定しています。これまで他の水道事業体でも個別技術の試験的な導入はされてきましたが、大規模漏水リスクに応じて状態監視技術を体系的に構築し、適用することはみおつくしが初めてとなります。
各探査手法のうち、注目されている技術として、衛星画像解析による探査、漏水音センサーによる探査が挙げられます。衛星画像解析による探査については、衛星が発するマイクロ波が地中の水分に反射する特性を利用し、反射されたデータを分析することで地下水や下水と区別しながら漏水を検知します。その結果をもとに範囲探査、箇所探査による調査を進めています。漏水音センサーによる探査については、大規模漏水リスクが最も高い約12キロメートルの重点監視路線に対して約100個のセンサーを設置し、これにより遠隔による常時監視を行っています。
あわせて、テレメーターなどから得られた水量・水圧データの分析作業も進めており、今後は、これら広域探査の結果に基づき、順次、範囲探査、箇所探査に移行していくことで漏水を早期に発見し、必要に応じて修繕等の措置を行うこととしています。
さらに、事業実施を通じて得られた様々なデータを基に、管路の大規模漏水に係るリスク評価手法の見直しや、状態監視保全手法の改善に取り組む予定となっています。

みおつくしでの管路の状態監視保全
大阪市工業用水道特定運営事業等 事業概要
発注者 大阪市水道局
運営権者 みおつくし工業用水コンセッション株式会社
出資企業 前田建設工業(株)、日本工営(株)、西日本電信電話(株)、東芝インフラシステムズ(株)
事業期間 2022年4月~2032年3月(10年間)
対象施設
  • ・東淀川浄水場(給水能力:151,000㎥/日)
  • ・桜宮配水場、鶴見配水場、北港加圧ポンプ場
  • ・配水管路(総延長:292km

※全体の約80%が法定耐用年数40年を超過

業務内容
  • ・工業用水の供給および経営等
  • ・浄水場及び配水場の管理運営
  • ・管路の管理運営(維持管理・更新)
  • ・お客さまサービス
  • ・災害及び事故への対応
大阪市工業用水道給水区域
大阪市工業用水道給水区域
担当者の声
みおつくし工業用水コンセッション(株) 矢島 弘貴
みおつくし工業用水
コンセッション(株)
矢島 弘貴
みおつくし工業用水コンセッション(株)の担当者にお話を伺いました。

みおつくしでは、総務業務や決算等の経理業務、利用者からの問合せ対応、新規顧客開拓の営業や工業用水のPR等のお客さまセンター業務を幅広く担当しております。
2022年4月に事業が開始し、工業用水の供給から検針、料金収受までの一連の流れ、突発漏水の対応等、全てが初めて尽くしの中身の濃い初年度が終わり、水道インフラ事業を運営することの苦労を感じる一方、本事業は経済産業大臣の許認可を受けて運営するという点で多くの他事業体からも注目され、民間企業ならではの発想や小さい組織だからこそ様々なことにスピード感を持って挑戦できる点にやりがいも感じております。
人口減少による収益減や水道管の老朽化は全国どこにおいても抱える課題であり、持続可能な工業用水道を実現する「大阪工水モデル」の確立に向けて、その一翼を担えるように引き続き取り組んでいきます。

みおつくし工業用水コンセッション(株)

三浦市公共下水道(東部処理区)運営事業

処理場、ポンプ場、汚水管路を含む公共下水道施設すべての運転・維持管理・改築を含んだ“フルセット”の下水道コンセッション事業は国内初

国内で4例目となる下水道分野でのコンセッション事業「三浦市公共下水道(東部処理区)運営事業」が、2023年4月から事業を開始しました。2043年3月までの20年間にわたり前田建設工業を筆頭株主とするSPC(特別目的会社)「三浦下水道コンセッション株式会社」が東部処理区内の下水道施設の維持管理、更新等を含めて下水道事業の運営を担います。

本事業が目指す方向性

  • ・暮らしの安全と豊かな水環境を次世代につなぐため『三浦市の持続可能な下水道の実現』を目指して事業運営をおこないます。
  • ・中小自治体の小規模下水道事業に共通する課題について、官民連携により解決する『新たな下水道事業モデルの確立』を目指します。
  • 「経営の最適化」「技術の高度化」「地域との協働」という3つの重要事項を定め、それらに沿った施策を展開することで課題の解決を目指します。
本事業が目指す方向性

「経営の最適化」

運営体制の最適化

  • ・専門的な知見や増員が必要な業務には構成員が全面的に支援することで、通常時はスリムなSPC組織としつつも確実な運営管理を実現します。
  • ・災害時や緊急事態の発生時には、構成員・地元企業等との一体的な対応体制を構築し、復旧活動を支援します。

「技術の高度化」

①データに基づく運営と適切な設備投資

デジタル情報基盤を構築して、各種データを一元的なデータベースとして集約し、劣化予測を含む精度の高いストックマネジメント計画や、最適な運転管理、施設・管路等の点検・修繕に活用します。維持管理のデータやノウハウ等も含め蓄積することで、豊富な経験を有する現場従事技術者の技術・ノウハウの継承にもつながります。

「技術の高度化」
データに基づく運営イメージ
  • ・散気装置、送風機や脱水機といった主要設備を実情に見合った規模にダウンサイジングするとともに高効率の機種を導入することで、ライフサイクルコストの縮減や脱炭素化を追求します。
  • ・水処理棟の屋上に太陽光発電設備を設置し、浄化センターで使用する電力量の約20%を再生可能エネルギーにより供給し、「ゼロカーボンシティみうら」宣言の実現に貢献します。

②最適な技術導入による維持管理の高度化

  • ・新たに導入する遠隔監視システムで24時間365日運転状況をモニタリングすることで、設備の安定稼働を実現します。
  • ・既存水処理設備に計測装置や制御装置を設置し、送風量を自動制御することで、安定水質と省エネを両立します。

③下水道施設を活用した技術発展への貢献

  • ・本施設を「技術実証フィールド」として大学や民間企業等に提供し、将来の技術変化に対応した、本事業に適した新技術導入を可能とします。

「地域との協働」

①地域貢献の推進

  • ・これまで三浦市にて地元企業への発注実績がある土木・建築工事、管路工事、維持管理業務等は、引き続き地元企業と連携しながら取り組むことで、地元企業と共に技術力の向上を目指します。

②下水道資源×地元産業による価値創出

  • ・下水熱等の下水道資源を農業に活用します。東部浄化センター敷地内に設置する農業ハウスでの栽培を試みます。
  • ・作物の選定や栽培にあたっては、教育機関や市内農家などとの協働を計画しています。
下水処理水熱を活用した場合の栽培作物と栽培施設のイメージ
下水処理水熱を活用した場合の栽培作物と
栽培施設のイメージ

③地元に愛される情報発信と協働連携

  • ・「みうら市民まつり」や「三浦市桜まつり」など、市内で開催されるイベントへ参加し、事業を積極的にPRします。
  • ・下水道施設への小中学生の社会科見学や職業体験を積極的に受け入れ、三浦市下水道事業への親しみや職業としての魅力を高めます。
三浦市公共下水道(東部処理区)運営事業 
事業概要
発注者 三浦市
運営権者 三浦下水道コンセッション株式会社
出資企業 前田建設工業(株)、東芝インフラシステムズ(株)、(株)クボタ、日本水工設計(株)、(株)ウォーターエージェンシー
事業期間 2023年4月~2043年3月(20年間)
対象施設
  • ・東部浄化センター(処理能力:8,050㎥/日)
  • ・金田中継センター
  • ・管路(総延長:58km ※うち幹線延長:8.45km)
  • ・マンホールポンプ 14箇所
業務内容
  • ・公共下水道の経営
  • ・改築(土木建築、機電、管路)
  • ・処理場・ポンプ場の維持管理
  • ・管路の維持管理
  • ・各種計画(下水道事業計画等)策定支援
■三浦市公共下水道(東部処理区)区域
■三浦市公共下水道(東部処理区)区域
担当者の声
三浦下水道コンセッション(株) 吉田 純也
三浦下水道
コンセッション(株)
吉田 純也
三浦下水道コンセッション(株)の担当者にお話を伺いました。

統括部長兼技術部長として従事しています。処理場、ポンプ場、管路施設の維持管理業務を行う中で、状況を的確に把握し、課題解決を進めています。市への報告や提案、交渉と事業全体のマネジメントを円滑に実行します。住民から「排水が詰まり、マンホールから溢水している」との通報に緊急対応することもあります。計画支援業務では、設備健全度及び重要度の判定により、着手すべき優先度を決定して改築計画案を策定します。改築・更新業務においては、設計、積算、工事発注、契約、検査等を自治体に代わり実施します。下水管路、中継ポンプ場や下水処理場は、生活・事業排水を海に返していく終末処理施設として環境を保全するための重要なインフラです。人口減少、老朽化、人手不足等様々な行政の抱える課題を官民連携で解決していくことが私たちの事業活動に求められていると実感しています。

三浦下水道コンセッション(株)