前田建設ファンタジー営業部

特集「恋と土木」 理想の『恋人像』を聞かせてください 前田建設ファンタジー営業部 岩坂 照之

※月刊「土木技術」2021年9月号掲載原稿

はじめに

人は、恋人から突然「恋を凍結したい・・・」と言いだされた場合、それは『しばらく恋を中断したい』と解釈するのが一般的で、多くの方はがっかりされるでしょう。でも大丈夫。あなたの恋人が土木屋の場合、それは『凍結工法』を意味するので『あなたとの恋は時間をかけ、より安定的かつ強固なものにしていきたい』という、もはやプロポーズと言えるものだからです。おめでとうございます(わからない学生さんは早速『凍結工法』で検索!)。

しかし、もし土木技術者の恋人から「あなたは私に『原位置浄化』を選ばせてくれないのね・・・」などと思わせぶりに呟かれたら要注意、相手の選択には『掘削除去』しか残されておらず、もはや、あなたは誰かに置き換えられてしまうというシグナルです(わからない学生さんは今すぐ『汚染土壌対策』で検索!)。あなたの性格や態度を客観的に見つめ直し、即時浄化を試みて下さい。

これらの真贋はともかく、いずれの業界でも専門用語を上手く会話に織り込みながら、恋を育んでいる二人は多いことと思います。2020年公開の映画『前田建設ファンタジー営業部』(宣伝恐縮です)(写真-1)でも、同じ建設会社の職員二人が恋に落ちていく過程を見守った同僚達が、土木用語でそれを例えるシーンがあります。映画館ではそこで客席に笑いが起きるという、脚本を担当されたヨーロッパ企画、上田誠さんの面目躍如な名セリフですが、あれも典型例でしょう。気になる方は、どうぞ映画でご確認ください。

映画『前田建設ファンタジー営業部』ポスター

(写真-1)
映画『前田建設ファンタジー営業部』ポスター
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

1.恋に落ちるべき関係

今回の『土木と恋』というテーマに最初は頭を抱えました。例えば、土木や建設を舞台とする映画、『黒部の太陽』『海峡』あるいは『釣りバカ日誌』にも恋愛要素はありますから、そんな土木技術者(営業担当者)達の気持ちを解説してみようかとも思いました。しかしそれら作品の監督さんや脚本家さんの意図と異なっては申し訳ないですし、そもそも私に恋愛解説などできるわけがない・・・でも、困った時に考え続けることは大事ですね、そのうち気付いたのです。今すぐ恋に落ちるべきなのにお互い素直になれず、いたずらに時間を浪費している二人を、入社以来ずっと私も見守っていたことに。その二人の名は「発注者」と「受注者」です。

1889年の会計法制定とともに、同法24条で「政府の工事又は物件の売買賃借は全て公告して競争に付すべし」と規定して、一般競争入札が原則となったといいます。これを二人の出会いとしましょうか。すると『私は今・・・恋人・・・大募集中だぁぁ』と、選挙戦のように町内全ての人々に対し触れ回る感じでしょうか。ここまで大胆に公告する恋のプロセスは私の人生に存在しなかったので、ちょっとやってみたかった気もします。私は常に恋の「受注者」側でしたので。

続いて1900年の勅令で、指名競争入札方式が創設されたそうです。なんでも当時、不良不適格業者の排除が困難だったからだそうで、以降これが公共工事の基本になったとのこと。名家の厳格なお父さんが、娘の結婚相手をギョロっとした目で吟味している姿が浮かびます。繰り返しになりますが、必ず恋に応札があるような方はよろしいですけれど、恋の建設業許可をなかなか取得できなかった諸兄もいらっしゃると思うのです。となれば、こっちを向いてくれそうな方のみ指名しちゃう、指名競争入札方式一択になるわけです。「なら最初から随契で行けよ」といったアドバイスも聞こえてきそうですが、随契に持ち込むまでのプロセスが結果的に指名競争入札になる場合もあり、「入札合コンで抜け駆けは許されるのか」といった極めて難しい(?)議論になっていきます。

本稿は、人生において恋の「発注者」と「受注者」のどちらが良いかを論じたいのでは決してなく、「発注者」と「受注者」も恋と同じで、最後に目指すのは対等なパートナーですよね、ということを皆さんと確認するのが目的です。それが、入札・契約制度をめぐる最近の流れと言って良いのではないかと捉えています。例えば「多様な入札契約方式の活用」に関する資料を拝見すれば、そこにはしっかり「受発注者間のパートナーシップを重視する」などの文言が見られます。

すると、入札・契約制度をより良くしようと日々努力されている先生方、ならびに発注者の皆様は、結婚実績3000組を誇る『お見合いおばさん』のようなものでないか・・・と言い切る勇気を私は持ち合わせておりませんが、ちょっと最近の『お見合い=マッチング』テクニックを、恋愛映画になぞらえ眺めてみましょう。

2.お互いがベストな関係とは?

CM方式は何でしょうかね。「初心なあの子」が騙されたりしないよう、百戦錬磨の恋の魔術師がその子のボディガードのようにサポートする感じでしょうか。

そういや映画『ボディガード』ですと、ボディガード(フランク=ケビン・コスナー)とクライアント(レイチェル=ホイットニー・ヒューストン)はちょこっと恋に落ちちゃったりしますけど、その後はきちんとそれぞれの人生、立場に戻ります。

CM方式における受発注者間に、ああいう「良い感じ」はどこまで許容されるのか、今度、国交省建設業課の皆さんに聞いてみたいと思います。もちろん私はコンプライアンスを第一にしております。

PPPやコンセッション方式はどうでしょう。それまでは構造物のライフサイクルのうち、施工というひとときだけの刹那的な恋を激しく過ごした「発注者」と「受注者」が、ある大きな課題をきっかけにライフサイクル全て、いやそれ以上の永遠の結びつきという真実の愛(持続的な開発)に目覚める感じでしょうか。例えば映画『タイタニック』のローズ(ケイト・ウィンスレット)とジャック(レオナルド・ディカプリオ)・・・などと書くと「どっちがローズで、どっちがジャックなんだ。真実の愛は得られたかもしれないが、ジャックは死んでしまうじゃないか」と叱られそうです・・・そうですね、真実の愛ですか・・・『ゴースト』だと最初から片方死んでるのでもっとまずいし、では『プリティウーマン』ですかね、あれハッピーエンドです。

映画『前田建設ファンタジー営業部』トンネル試写会

(写真-2)
映画『前田建設ファンタジー営業部』トンネル試写会
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

でもエドワード(リチャード・ギア)のプロジェクトファイナンスの仕方が問題か。『ロミオとジュリエット』だと両方ダメだし・・・皆様から理想の『恋人像』を是非、お寄せいただきたいと思います。

なお、私が今のところ思いつくベストなPPP映画といえば『ローマの休日』ですね。互いに強く惹かれあったままに互いの立場をわきまえ、公式の場でもふさわしい振る舞いを続けるという。『ローマの休日』の続編をどういう物語にするかは、「発注者」および「受注者」の若い皆さんにかかっているのでしょう。よろしくお願い致します。ちなみにこの『タイタニック』という固有名詞、映画『前田建設ファンタジー営業部』のあるシーンで使われています。どうぞ、重ねてのチェックをお願い致します。(写真-2)

3.より密接な関係に

パートナーシップの継続には、密接なコミュニケーションが欠かせません。私ら入札合コン時代の主力コミュニケーションツールは、各家庭の固定電話とポケベル(学生さん、お分かりになりますかね?)でしたから、相手との対話頻度も濃度も、現代とは比べ物にならないほど楽でした。今の若い方はどんなときも、どこにいても、SNSに対する素早く適切な反応を求められるそうですから、毎日が総合評価方式みたいなものです。あるいは恋人のスマホの位置把握をされている方も、読者の中にはいらっしゃるのでしょう。いずれにせよ、互いの透明性はますます高まる方向です。

施工現場においても同様に、受発注者間で一体的かつ即時的なデータの共有および分析ができる時代に突入しています。そればかりか構造物施工後の供用期間においても、設置される各種センサーを活用しながら、今までにない多様なデータ収集および解析が可能です。透明性をどこまで高めるかは真のパートナーシップのあり方そのものと考えます。

では、そのあり方の一つ、「発注者」と「受注者」の目標と行動のベクトルを一致させる契約方式、「原価開示方式」を見てみましょう。その構成要素は三つです。

  1. ① 事前にリスク等のクッション(余裕代)を一切除いたコスト+フィーで設定する
    「ターゲットプライス」
  2. ② かかったコスト内訳を開示する「オープンブック」
  3. ③ 創意工夫の促進を図るため、事前に利益配分およびリスク分担を明確化する
    「インセンティブ/ペナルティ」

双方が事前に様々なことを決定しておくのが大事なのですね。これさえあれば「発注者」と「受注者」が、一つのこたつで熱い茶をすする時代もすぐそこですね。

しかし、本当の恋においての「原価開示方式」は適用が難しいとも思うのです。例えば「インセンティブ/ペナルティ」。今後の人生における利益&リスク配分や透明性確保の事前合意を、結婚式前日までに文章にまとめ上げる二人はまだ少ないと思います。二人に臨時収入や緊急出費があった時、そして何より病気になった時、双方の時々の状況や気持ちに依拠した方がよい気がします。「サプライズ」は嬉しいものですからね・・・そうですね、「発注者」と「受注者」においても、ワクワクドキドキの「サプライズ」があれば良いのかもしれません・・・でもそれって何でしょう・・・なお、繰り返しますが、私はコンプライアンス第一です。

「ターゲットプライス」「オープンブック」も本当の恋ではどうでしょう。恋の価値をクッションゼロで積み上げる・・・すごく打算的な印象です。なお「オープンブック」につきましては、本稿を私の配偶者が目にする事態に備え、記載を自粛させていただきます。

最後に、この「ターゲットプライス≒恋の価値の積算」についても(またまた宣伝で恐縮です)映画『前田建設ファンタジー営業部』の最後で、見事に結論がついております。そこも必ず客席から笑いが起きるという、上田さん珠玉の名セリフですので、その金額について、是非お楽しみ下さい。(写真-3)

画『前田建設ファンタジー営業部』ポスター

(写真-3)
映画『前田建設ファンタジー営業部』ポスター
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション