豊実発電所改修工事#2

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寒風と降雪の中で決行した放水口仮締切施工

 豊実発電所の改修工事は、ダムや水槽など、既存の設備を流用しつつ、水車・発電機を一新し、最大出力を6万1800kwに変更することが目的である。
 工事内容は、【1】改修する発電所基礎および水路構造物などの撤去工事、【2】残置する構造物の空洞に再生コンクリートを充填する工事、【3】新たな発電所基礎および水路構造物などの設置工事となっている。
 平成20年7月に工事用道路や電気設備などの仮設備工事が始まり、12月に本工事の難所の一つである、放水口工事の施工用の仮締切工事が始まった。
 仮締切は、まず作業構台を設置し、川底の岩盤をダウンザホールハンマーで連続削孔し、継手付H形鋼矢板を建込み、根入れ部にモルタルを充填して固定するというものである。岩盤の性質は一様でなく、固い部分と軟らかい部分があるため、各箇所の特性に応じて丁寧に作業を進めた。寒風の中で、昼夜を分かたず作業を進めたことにより、3月末、予定どおり工事を終了した。

撤去コンクリートを骨材に再利用

 80余年にわたり使われた発電所建物を撤去し、そこに新たな発電所を構築する。
 昭和初期に建設された発電所基礎は、劣化が相当に進行している。そこで、解体に使用する重機などの重量に耐えられるよう、地階に支保工によるスラブや、梁の補強を行い、細心の注意を払って建物を解体している。
 発電所基礎コンクリートおよび水路構造物の廃材は、【1】まず重機と作業員の手で鉄筋を取り除き、鉄とコンクリートガラに分別する。【2】コンクリートガラは、現場に設置した破砕機で小割りし、【3】ダンプトラックに積載して阿賀野川右岸の再生骨材プラントに運搬し、【4】プラントで3つの大きさに分別して骨材を作り、【5】その骨材を使った再生コンクリートを、既設構造物の空洞部の充填材料として活用する。
  こうして建設資材の再利用に取り組むことにより、環境保全を目指している。

既設放水路の下に新放水路を施工

 この現場の最大の難所は、既設放水路トンネルの直下に、大断面の放水路トンネルを2本新設する工事である。新設する放水路トンネルとの間の土被りが非常に小さいため、技術力が要求される。
 この難工事に備えて、強固な地山を造っている。【1】平成21年1月から2本の立坑を施工し、【2】既設放水路トンネル内部から地山に縫地ボルトを施工、【3】既設放水路トンネルに再生コンクリートを充填し、既設放水路トンネルと周囲の地山を一体化させる。
 既設放水路には、昭和初期にこの工事に携わった人々の業績が見事なまでに残っており、発電所建設への熱意が伝わってくる。
 いよいよ9月から、新設する放水路トンネルの施工に取り掛かる。まずNATM工法で掘削し、扁平大断面のドラフトトンネルの部分は、地山の緩みを測定しながら、CD工法で慎重に掘削する計画だ。

※1 NATM
NATMは「New Austrian Tunneling Method」の頭文字を取ったもの。ダイナマイトで爆破し、土砂(ズリ)を外に運び出し、鉄骨を組み立て、コンクリートを吹きつけ、ロックボルトを打つ工法。

※2 CD工法(中壁分割工法)
大断面掘削の場合に多く用いられ、トンネルの上半分の片側を先に掘削し、遅れて反対側の半断面を掘削する工法。

職員と作業員の宿舎

現場で働く職員の宿舎には、駅前にある元食堂だった民家や、町の小中学生のための宿舎を有効活用。地産地消を図りながら、地域との連携を心がけている。

 

魚道の再利用

魚道は昭和4年に造られた設備をそのまま活用する計画だ。苔むしたコンクリートが周囲の緑に溶け込んで、歴史を物語っている。

 
 

ナトリウム灯

照明には自然にやさしく、消費電力を半分程度に抑えることのできる、ナトリウム灯を採用している。

 

濁水処理

現場では建物の解体などに大量の水を使っている。現場で使用した水は、濁水処理をしたうえで排水し、阿賀野川の水質を大切に守っている。

 

豊実作業所

副所長(安全・事務担当 渡部 雅博

現場への新規参入者教育など労務面の安全と事務を担当しています。現場では、感電から身を守るための長袖着用、現場内の火災防止、地元の方々との交通事故防止といった、基本的なことに特に注意しています。協力会社のみなさんには「1つのチームとしてやっていきましょう」と伝え、ヘルメットにひらがなで名前を明記し、お互いに名前で呼び合い信頼関係を築いています。私は入社35年目で、来年 定年を迎えます。新人のときに第二豊実発電所の建設に携わり、今年3月、再びこの現場に赴任しました。前田建設の職員としての最初と最後を同じこの現場で務めることができ、光栄です。

豊実作業所

副所長 伊藤 洋一郎

JV職員の仕事の割り振りや指示、協力会社の作業の流れの決定や支払い関係まで、現場全体を見ています。予算関係については直接関わり、細かな点については担当職員に任せています。発注者様とは週に1度の工程会議と、月に1度の月間工程会議があります。会議の際は、ご質問にすぐにお答えできるよう先を読み、予算に関しては発注者様と十分に話し合いを重ねて調整しています。また、この現場には解体・再利用・建設という3の要素があるので、それぞれの担当を決めて取り組んでいます。社会基盤の整備を使命として、若者が一生懸命働いていることを多くの方に知っていただきたいと思います。

豊実作業所

主任 工藤 敏邦

技術士(建設部門)

設計業務全般と計画、再生コンクリートの施工、仮締切り関係の計画・施工を担当しています。立坑の施工については、本店で7年間やってきた設計の経験を生かして、本店と連絡を取り合って進めています。計画がうまくできれば施工が順調に進むので、計画の中に設計が含まれていると考えています。この現場の特徴は、東北電力様からご要望をいただき、私共が計画や施工のご提案をし、話し合いを重ねて、できるだけ低コストでいいものを造ろうとしている点です。私たちが80年前の先輩の仕事を見て感じたことを、数十年後に後輩にも感じてもらえるよう、誇れる仕事を残したいですね。

豊実作業所

課長 徳永 寿教

電気設備、機械の調達や管理、骨材再生プラント、給排水設備の設置など、機電を担当しています。電気設備に関しては、東北電力様の資格を取得して維持管理にあたっています。骨材再生プラントは、左岸に破砕機を設置してコンクリートを破砕し、ダンプトラックで右岸の骨材プラントに運搬する方法をとり、コンクリートガラを現場内で再利用しています。また、濁水処理設備を設置し、作業に使用した水を法令規準より厳しい50ppm以下に処理して一級河川阿賀野川に放水し、環境を守っています。現在は、トンネルを掘削するための機械の選定や、機材を立坑から搬入する方法などを検討中です。

豊実作業所
所長
 樋渡 康弘

昭和から平成へ、そして未来へ。信頼を築きたい

 豊実発電所は、前田建設創業時の大事業です。以来80年にわたり、技術を磨き、信頼を築いてまいりました。
 昭和50年に運転を開始した豊実第二発電所の建設に続いて、今回、豊実発電所の大改修にも参画でき、既存の建造物を解体することで、先人の仕事を見たことは、現在の職員にとって大変幸せなことです。
 東北電力(株)様の発電所の施工の際は、お互いに意見を出し合い、最善の方法を見いだしながら仕事を進めています。前田建設からより良いご提案をするために、現場事務所はもとより、本店も含めたオール前田体制で施工にあたっています。
 私たちが先輩から受け継いだ仕事を後輩に伝え、若手職員に責任と自覚を持たせることで、人材を育成し、より良い発電所を後世に残したいと考えています。

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