有識者意見

有識者意見

竹ケ原 啓介氏

株式会社 日本政策投資銀行
設備投資研究所 エグゼクティブフェロー

竹ケ原 啓介氏

略歴

2019年~
環境省「中央環境審議会」臨時委員
2019年~
内閣府「地方創生SDGs金融調査・研究会」委員
2020年~
国土交通省「不動産分野の社会的課題に対応するESG 投資促進検討会」座長

ESG投資家や評価機関を主たるターゲットに据えて詳細な情報開示を担うWEBサイトと、社員や一般市民など幅広いステークホルダーに向けたコミュニケーションツールである冊子とを組み合わせる貴社の新たな開示体系も3年目を迎えました。提供する情報の総量は変えずに、必要な情報にスムーズにアクセスできる優れた体系の下、サステナビリティレポート2021では、長期戦略として掲げる「総合インフラサービス企業」の姿を様々な角度から複層的に描き出すことに心を砕いていることが分かります。今回、特に印象的だったのが、戦略の前提となる考え方、理念や方向性などが、一つの流れの中で語られ、読み進むにつれて、「総合インフラサービス企業」というコンセプトが通奏低音になっていることに自然と気付かされる構成の見事さです。

前号でコンセプトを詳細に解説する役割を担ったトップメッセージは、今回は一転して、社員の皆さんに向けて次の100年に向けた姿勢を問うソフトなトーンにまとめられています。しかし、コンパクトなメッセージの中に、重要なステークホルダーである社員に報いるために付加価値生産性の向上を重視する経営姿勢が強調されており、これが後半への伏線になっています。次の仕掛けが「MAEDAの共有価値創造プロセス」です。統合報告のフレームワークを先取りする形で、財務情報と非財務情報の一体化を追求してきた、貴社レポートの最も特徴的なコンテンツであると同時に、現状に満足せず不断の改良が加えられているという点においても、毎年拝見するのが楽しみなページです。今回もその期待は裏切られませんでした。これまでの共有価値創造プロセスに、マテリアリティと中長期経営計画が組み込まれ、貴社が考える、長期にわたり持続可能なビジネスモデルが文字通り一本の価値創造のストーリーとして明快に示されています。NEXT10、NEXT100を通して到達を目指すゴール「めざす姿」からも、「総合インフラサービス事業」の姿が印象的に伝わってきます。

以上を戦略の前提を語るパートだとすると、これに続く特集は、CSVを通して実現する価値を深掘りすることで、戦略のもつ理念や方向性を肉付けする役割を担っているといえるでしょう。まず驚かされたのが、付加価値生産性No.1の実現というテーマを選定したことです。2年目を迎えた現中計(Maeda Change 1st stage ’19-’21)の3本柱の筆頭が「生産性改革」であることは理解していましたが、こうした財務分析的な「固い」コンテンツを社員や一般市民をターゲットとするレポートで前面に打ち出すと決めるには、大きな決断が必要だったのではないでしょうか。一見とっつきが悪そうですが、実際には、付加価値を算定する加算法を貴社オリジナルにアレンジした解説はわかりやすく、スムーズに読み進めることが出来ます。MAEDA式の付加価値が、人件費をコストではなく、成長投資と並ぶアウトカムと考えていることや、企業価値の向上と社員への還元が同期していることが強調されているのは、社員に向けた良いメッセージであると同時に、「人的資本」という無形資産への投資を重視する姿勢を投資家に向けて発しているように感じられます。そして、その付加価値を最大化するためには、地道なコスト削減と並んで、+α利益の創出が大きな役割を果たすこと、それは既成概念の枠を超えた発想や行動なしには実現できないのだ、と展開するに至り、この議論が脱請負事業の推進、ひいては「総合インフラサービス企業」への移行の意義を語っていることに気づかされるわけです。PPP/PFI、コンセッションなど具体的なプロジェクトからではなく、付加価値生産性から目指す姿を解説することで、より広範な読み手(社員や関係者)に自分ゴトとして考えてもらう契機になる効果が期待できます。トップメッセージの伏線がここで回収され、インフロニア・ホールディングスへの移行にあたり、全社員に向けたインパクトのあるメッセージになっていると思います。

ここまでを理解して読み進めれば、続く特集2で紹介される愛知アリーナのコンセッション業、官民連携による包括管理業務委託事業の事例を通じて、CSV経営がどのように実践されていくのかをより具体的に理解できます。請負のエンジニアリグ力と「脱請負」の新たなサービスを融合した新たなビジネスモデル「総合インフラサービス企業」の姿が、その武器となるオープンイノベーションやDX戦略などを含めて浮かび上がってくる構成は秀逸です。その担い手である担当者のコメントも良いアクセントになっていると思います。

前年度の活動を報告するパート2では、テーマ毎に重点項目が明記され、担当役員からのメッセージに続いて、方針・考え方→マネジメント→実績という統一的なフォーマットで丁寧に説明するスタイルが確立されており、安定感があります。冊子とWEBサイトの役割分担も有効に機能しており、必要な情報にストレスなくアクセスできます。各分野で着実に取り組みがレベルアップしており、環境保全におけるCO2排出量の「2050年実質ゼロ(スコープ1,2)」の長期目標設定や、人権に関する国連グローバルコンパクト署名などが報告されています。こうした取り組みも最終的にはパート1で展開されている大きな戦略体系の構成要素ですので、いずれ具体的な成果と共に反映されるものと期待されます。

昨年度、ともすれば遠心力が働きがちになる多様なコンテンツを新たな戦略に結合してみせる構成を評価させて頂きました。今号では、この特徴が一段と強化された点が印象的です。

一段と完成度が高まったのを受けて、今後に期待したい点は、パート1で確立された価値創造の体系を引き続き充実させていくことです。気候変動対策として2050年のCO2排出実質ゼロが宣言されましたが、最も排出量の多いスコープ3への対応も含めて、今後どんな展望をお持ちなのか、これが再エネプロジェクト等への取り組みとも相まって、総合インフラサービス企業モデルにどう接続されていくのか。近年注力しておられる人権への配慮がどう接続されていくのか。また、今回の付加価値でも重要な構成要素とされた研究開発費用から、広義の知的資本の議論に発展されていくのか、など、先々の展開が楽しみなテーマがいくつもあります。また、繰り返しになってしまいますが、やや大きなテーマとして、長期性の見せ方があります。100年単位で将来像を語れる希有な存在として、NEXT100を遠望しながら、まずは次の10年をNEXT10の戦略を提示する時間軸が設定されていますが、これを活かしつつ、現在多くの企業が長期展望のゴールとして設定している2050年についても貴社のビジョンを示すことは、有意義だと考えます。次回に向けて新たにどんな進化をみせて頂けるかを楽しみにしております。

有識者意見を受けて

CSR・環境担当役員
岐部一誠

この度は、当社の「サステナビリティレポート2021」に対する貴重なご意見を賜わり、心より御礼申し上げます。

竹ケ原様には2011年より当社CSRの取り組みについて継続的にご指導いただいております。本レポートの意図を的確にくみ取った上で丁寧にご説明され、今後の期待も含めたアドバイスに至るまで多様な視点でご意見を執筆いただきました。

今回のレポートは、創業100周年の節目である2019年から始まった中期経営計画「Maeda Change 1st stage ’19-’21」をロードマップとして取り組んだ、CSV経営の進捗状況をご報告しています。前号同様に、新たな時代に向けてCSVを理念とするビジネスモデル「総合インフラサービス企業」を明示し、トップメッセージから共有価値創造プロセス、特集と一貫して当社がめざす姿を明確にしています。

高くご評価いただいた「共有価値創造プロセス」は、当社の最も特徴的なコンテンツであると認識しており、今号は経営資源や事業戦略、めざす姿を加えてより情報を充実させた内容としました。経営目標数値や事業戦略の具体的な記載により、価値創造ストーリーに具体性と説得力を持たせることができたのではと思っています。

また、特集「付加価値生産性No.1の実現」でお伝えしたかった当社独自の付加価値算定法と人的資本への投資の重要性について、その意図をお汲み取りいただき安堵するとともに、読者の皆さまも同様に当社への理解を深めていただけますと幸いです。

一方で、ご指摘いただきました気候変動対策や人権への配慮、知的資本の発展等につきましては、企業経営に有機的、かつ実質的に組み入れ、今後の展望をお示しできるよう様々な課題に積極的に取り組んでまいります。

さらに、社会動向を鑑みましても感染症のパンデミックは企業の持続可能性を改めて見つめ直す機会となりました。この様な不測の事態に対応できるよう、リスクと機会を整理して、中長期ビジョンで課題と対策の検討を進めていきたいと考えています。

ステークホルダーの皆さまにより私たちの取り組みをご理解いただける情報発信を目指して参ります。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。