VIVOVA VOL.122 2024 SPRING
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草津市立プールは、競技用屋内プールという特殊な建造物です。駅に近い住宅地にあるためヤードの確保が難しく、地盤の含水率が高い場所です。かなり高低差のある土地という条件も重なっており、慎重かつ効率の良い工事が必要でした。着工は2021年10月で、約6カ月かけて造成工事を行いました。地下水位が比較的高く、地盤が高含水であるため、基礎・地下工事にはしっかりとした水対策が必要でした。山留めにはS※MW工法が推奨されるのですが、コストを抑えるため矢板を使用し、より安価な自立工法を用いました。その際は本社技術部門と連携を密にして、建屋周辺地盤レベルを下げて山留めにかかる負担を軽減するなど、さまざまな工夫を施すことで、コストダウンを実現しました。さらに、施設に合わせて基礎の形状にも違いがあります。※SMW :土(Soil)とセメントスラリーを原位置で混合・攪拌(Mixing)し、地中に造成する壁体(Wall)の略称。プールの下は基礎も厚くなりますが、トレーニング施設の部分は薄かったり、飛込プールの場合はすり鉢状になっていたりして、躯体形状も複雑です。 基礎・地下工事を進める中で、周辺の状況やコスト、効率化などを鑑み、建築計画を大きく変更しました。屋根のトラス鉄骨を組み上げる方法として一般的な建て逃げ方式を検討していましたが、建物の片側でトラスを組み立て、反対側からウインチで引っ張って設置するスライド工法に変更したのです。変更の主な理由として、敷地に余裕がなく、屋根の架設のために建物の周囲に大型クレーンを配置することが難しい点があります。当初の計画では、重機を置くための乗入れ構台を内部に設置する予定でした。しかし、大型構台を設置するには一部の躯体を作らずに空間を空けておく必要があり、基礎や地下躯体の工事の作業効率が大幅に低下します。また、構台の組立解体日数が工程を圧迫します。そこで、構台を設けず、重機を入れる場合は簡易スロープを造成して対応しました。 ただし、受注した段階では予定になかった変更のため、さまざまな工程調整が必要でした。エリアを大きく10工区に分けて、エリアごとに段階を決めて工程を調整し、重機配置や動線などをすべて水対策のノウハウで山留めをコストダウントラス鉄骨の組み上げをスライド工法にダイヤモンドトラスダイヤモンドトラス内部部材取合い確認BIMダイヤモンドトラス内部部材取合い確認BIM屋根鉄骨スライド工法施工状況(2023/4/28)草津プール作業所主任 名定大樹外壁とプール工事を担当しています。水を扱うということで、防水などの品質管理が重要です。各プールの仕様が異なる上、50mプールはイタリア製の装置を使っており、可動壁、可動床を備える特殊な仕様です。大型部材の内部への搬入など工夫も必要でした。公認を取得しているプールなので、最後まで精度の高い仕事をしていきたいです。↓トラスの地組状況駐車場用地を鉄骨地組ヤードとして活用した。草津プール作業所課長 ■岡羽矢人現場で全般の工程を見ています。さまざまな現場を担当してきましたが、プールは初めてで興味深いです。プールの仕様の違いから躯体の形状が複雑なのですが、トラス鉄骨のスライド工法を止めないように、各躯体の工事も追随していく必要があります。プールは人が肌を出して歩く場所、内装までしっかりと仕上げていきたいと思います。地上躯体施工状況(2023/1/20)基礎・地下工事山留めは矢板で行ってコストを抑えつつ、地盤から出てくる砂の対策として、裏にむしろを挟み込むなどの工夫を施した。o9   ←屋根鉄骨スライド工法鉄骨トラスの設置はスライド工法を採用。大型クレーンが配置できる東側にステージを作って1スパン分の鉄骨を組み、西側からウインチで引っ張る。1週間に1スパン分ずつ追加しながら17回の作業で組み上がる。

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