前田建設ファンタジー営業部

『宇宙戦艦ヤマト2199』×『前田建設ファンタジー営業部』

  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
  • 第4回

第2回 我が赴くは土の塊

国連宇宙軍から提示された施工場所は、戦艦「大和」の沈没地点と同一。九州鹿児島から南東に200kmの坊ヶ崎沖であった。早速、土質・岩質のデータにあたると海底部であったその付近の浅い部分、正確には地表面から十数メートルの厚さが泥などの堆積物による軟らかい『未固結堆積層』を形成、また堆積層の下は、『安山岩程度の岩』が続いていた。

(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会

通常のトンネル掘削においては対象となる岩や土の種類を、直接目視などで把握する「直接的手法」、そして弾性波探査などの「間接的手法」から技術的に判定していく。幸いにも今回の施工対象はそれらを経た結果でも安定して掘削しやすい岩4と判明したが、施工開始以降も、ガミラス遊星爆弾の強烈な熱や爆風が与えた影響には注意することで意見が一致した。例えば、土中の深い層で高圧、高温の影響により変成したものを変成岩と呼ぶが、爆発時間が短いとはいえ、遊星爆弾という人類にとって未知の兵器がもたらした圧力や熱ゆえに、安山岩が(熱)変成安山岩的に脆くなっている可能性も考えるべきである。脆く軟らかい地質を掘る場合、何らかの手法で掘削エリア周辺の地盤を固く改良する必要がある。砂場のトンネル同様に砂山に水をかけて固まればよい5のだが、そうはいかない。改良の工法検討もやりがいのあるものになるだろう。

いずれにせよ、安定して掘削しやすい岩であることから、掘削は爆薬を使用する発破でなく、機械を使用した掘削で行なうことになった。トンネル崩落を防ぐ支保パターン6も重要だが、これについてはトンネルの掘削工法が決まってからの検討で十分だ。

しかし、なにより解決すべきは本プロジェクト最大の課題、トンネル掘削土砂(ズリ)の効率的搬送方法の確立であった。ヤマト建造用部材の搬入と掘削土砂の搬出を両立させる計画でなければならない。
CIMデータによる竣工図を確認すると、構築するヤマト建造用の地下大空間は、そのヤマトが縦にもう1〜2隻積み重ねられそうなほどの高さを持っている。これほどの高さの場合、上から下に向け掘り下げていくのがセオリーだ。とすれば、一番最初に掘られるべきトンネル(1番トンネル)は、ヤマト建造用大空間の最上部、言い換えればヤマトの艦尾、波動エンジンノズルの直下付近を目指すものとなる。このトンネルを一体どこまで大きな断面にできるのか・・・。

「ズリ出し用トンネルを、もう1本別に作るのはどうでしょうか。」

沈黙を破ったのは山内である。そしてラフスケッチをはじめた。その案は、1番トンネルとほぼ同時期に、ヤマト建造用大空間の今度は最下部にあたるレベル(高さ)でもう一本、2番トンネルを掘るというものであった(図1)。

図1:トンネルおよび立坑位置図 (※図中の矢印はトンネル掘削方向) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図1:トンネルおよび立坑位置図 (※図中の矢印はトンネル掘削方向)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

さらに山内はヤマトの後方、将来的には大規模地下空間に取り込まれる位置で1番、2番の両トンネルを立坑にて垂直につなげる(1号立坑)絵を描いた。これによりトンネル掘削用資機材やヤマト建造用部材の搬入は1番トンネルを、大空間のズリ搬出は1号立坑を通じて落とし込み2番トンネルを、それぞれ利用することで地下のモノの移動を極力一方通行とし効率化を図るのである。

「これなら、いけるかもしれない。」

林も同調する。そして本アイデアをベースに二人がまとめた、ラフな施工手順はこうだ。
まず地下都市より1番トンネルを掘削開始。トンネルがヤマト内部(相当位置)に到達後、ヤマト側方部の『未固結堆積層』について地盤改良を実施する。これはヤマト艦体を取り囲む軟らかい地山(掘削する土砂)が、この後始まる大規模掘削に伴い変位・崩落しないために必須の措置である(図2)。

図2:地盤改良位置図 (※図中、斜線部が改良位置) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図2:地盤改良位置図 (※図中、斜線部が改良位置)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

2番トンネルは、1番トンネルで得られた地質状況を活かしながら、少し遅れて掘削を開始する。ヤマト側方部の改良が終了するまでには、1号立坑の掘削も完了しておく。そして大空間の本掘削に入る。
大空間の天井部は力学的に安定するドーム形状を選択した。そのドーム部には通常のトンネル掘削と同様ロックボルト7が施工され、地山の一体化による安定を図る・・・。

「これをどこまで早くできるか、だな。」

林がつぶやく。本プロジェクトのように極めて厳しい工期であれば、まず考えるのは施工機械や担当技術者そして作業員の大量投入である。とはいえ上限は存在する。制約条件になるのは様々だ。1号立坑や2番トンネルの断面積で投入できる機械の大きさが決まる。大きさだけでなく搬送機械なら速度も影響する。これらで掘削土砂の時間あたり搬送量が決定してしまう。できればダンプトラックのような往復搬送でなく、ベルトコンベヤやパイプラインなどの連続搬送が望ましい。
さらに換気設備も影響する。入坑人数や施工機械の増加に比例して新鮮な空気の送気量も増さねばならないからである。もっとも2199年である今、担当技術者そして作業員に関しては、宇宙服を着用させるという解決方法もあるのだが、不幸にしてガミラスとの戦いが、それを許さなかった。

(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

いつの時代にも技術者には、課題の原流、本質を追求しそこを解決する姿勢が求められる。本プロジェクトの場合それは、掘削土量の最小化を意味する。

「ヤマト建造に必要な最小限の空間はどうなる。」

林が国連宇宙軍のCIMデータを山内と再精査する。竣工図では確かにヤマトの艦首から艦尾まで、艦体下全てが大空間となっていた。しかし・・・。

「ヤマトの前半分は、掘る必要ないんじゃないか。」

それが許容されるなら掘削土量は減り、工期は劇的に短縮する。しかし艦体前半部が土中に拘束されていては「ヤマトが艦体上部や周辺の土を見事押しのけ、スムーズに発進できる」という国連宇宙軍の要求を満たせないのではないか・・・前田建設にはヤマトそのものはもちろん、その建造工程もほとんど情報が知らされていなかった・・・しかし二人はその後、第3艦橋より後部のみを竣工時に地下空間に露出させることにより、確実に国連宇宙軍の要求性能を満たせるアイデアに到達したのである。

(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会

二人は決断する。発注者である国連宇宙軍に意見具申することを。それにより宇宙戦艦ヤマトの建造方法に影響が出ようと、この案がワープに等しい効果をもたらすことが、あまりに明確だったからである。

林と山内はこの案をベースに息つく間もなく詳細検討を開始する。

この頃には、国連宇宙軍の危機的状況が、地中深くにある前田建設の社内にまで伝わり、あちこちでささやかれるようになっていた。

  • 4 掘削しやすい岩:発破は不要で、機械掘削可能な(道路トンネルにおける地山等級区分でCIIからDI:一軸圧縮強度10〜30N/mm2)程度
  • 5 同様:比喩であり正確には異なります。砂山はこの時、土粒子間の接触部周囲に存在する水、接触水分の表面張力によって土粒子同士に摩擦抵抗が生じ、結果砂山は安定しトンネル掘削が可能となっている。しかし水が適量を超えれば土粒子の間隙は全て水で満たされ(飽和)表面張力はなくなり崩れる。一方、実際の施工では薬液を注入し土粒子を科学的に結合させるため、水の飽和による影響はうけません
  • 6 支保パターン:トンネル掘削後、地盤を支えるための構造物である支保(鋼材、吹付コンクリート、ロックボルトなどを組み合わせる)の構成方法のこと。掘削地盤(地山)の性状変化に合わせ、パターンも変化させます
  • 7 ロックボルト:土木工事で使用する支保(支え)の一種。トンネルや高い壁面などの崩落を防ぐため、土中に打ち込み定着させる長尺ボルトのこと。穿孔してボルトを挿入し、セメントミルク等で定着する。トンネルや今回のようなドーム状の空間を支える場合には放射線状に施工することが多い
  • 第1回
  • 第2回
  • 第3回
  • 第4回

>>宇宙戦艦ヤマト2199のページはこちら