前田建設ファンタジー営業部

『宇宙戦艦ヤマト2199』×『前田建設ファンタジー営業部』

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第3回 重心線脱出

国連宇宙軍の原案を変更、ヤマト第3艦橋より後部のみの掘削で、ヤマトの発進がよりスムーズになる工法の具申を決意した前田建設土木設計・技術部のメンバー、林と山内。提示された設計・施工条件のうち特に「(2)ヤマト発進対策」の各項目につき、新案を細部まで合致させるべく検討を開始した。

1) ヤマトが艦体上部や周辺の土を見事押しのけ、スムーズに発進できるよう、土質・岩質を把握し、必要があれば置換・改良工事を実施すること。

本来、ヤマト艦体を覆うのは柔らかい『未固結堆積層』であり発進は容易である。しかし地下大空間構築に地盤改良が必要なことは既に述べた。それは掘削に伴う地表面沈下により上空からガミラスに察知されぬためでもある。ところがその強固に改良された土がヤマト艦体をも強力に拘束し、発進を妨げる可能性もまた存在した。

さて地盤改良に使用するのは高圧噴射攪拌工法の一種である「マルチジェット工法」。高圧噴射攪拌工法とは、地中に超高圧でセメントミルクを噴射して改良体(固まった土)を造成、より専門的には高強度改良(1.0〜3.0MN/m2)を行える工法と言える。中でもマルチジェット工法は他の高圧噴射攪拌工法に対し、次の大きな特徴を有する。

  • ①円柱状だけでなく自由形状の改良が可能
  • ②最大直径8mまでの大口径改良が可能
  • ③施工機が小型で、仮設導坑(施工機を改良位置上部に設置するため、複数掘削されるトンネル:図3参照)の小口径化(=掘削土量最小化)が可能

施工はまず1番トンネル掘削後、ヤマト艦体をはさみ左右に、水平方向の仮設導坑を築造することから始まる。仮設導坑内にマルチジェットの小型施工機を設置、鉛直方向に地盤改良(直径8mの円柱状)を行い、終了後には施工機を横移動させ次の改良を行う。以降この繰り返しである。仮設導坑は、トンネルの一般的方法であるH鋼支保工とモルタル吹付けによる構造を採用、当然ながらマルチジェットの施工が可能な最小限のトンネル断面となる。仮設導坑工と地盤改良工は並行で行い、工期を短縮させる(図3)。

図3:地盤改良概略図 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図3:地盤改良概略図
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

2)また、発進時のメイン/補助エンジン、その他補助推進装置の強力な推進力を受け止め、地下都市に悪影響を及ぼさないよう、必要な土質改良、反力受けなどを確保すること。

掘削量を最小限にとどめつつ構造的には安定させるため、大空間の天井は、波動エンジン後部で弧を描いて落ち込むドーム状の設計とした(図4)。

図4:原案修正後の大空間掘削図(※竣工時) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図4:原案修正後の大空間掘削図(※竣工時)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

これによりドーム側面が波動エンジンの推力を受け止めヤマトの発進を助ける。ただ問題は波動エンジン噴射による地下都市への影響で、特に1番トンネルを通じ強烈な圧力が地下都市を襲うことが予想された。そこで1番、2番トンネルには圧力隔壁を複数設置する。これは、ヤマト建造中および発進後のガミラス攻撃に対する防御隔壁の意味も持つ。

3)メインエンジンは真後方向に推力を及ぼす構造のため、艦首持上げを補助する工夫を含むこと。

「第3艦橋より後部の掘削によりヤマトの発進がスムーズになる方法」を二人が発見したきっかけは、この条件である。当初は、ヤマトが波動エンジン始動後、土中を直進し続ける場合の対策として、ヤマト前方の『未固結堆積層』中に地盤改良による「スキージャンプ台」を設置する案を考えた。しかしヤマトの重心に着目したところ、より簡単な回答が得られた。ヤマトがその場で「やじろべえ」の如く艦首を持ち上げる工夫をすればよいのである。それは自ずとヤマトの後半部のみの掘削に行き着く。
その時点で前田建設にヤマトの正確な重心位置など知らされていない。しかし常識的に考えて第3艦橋が露出するまでヤマト後半部を掘削すれば、まずヤマトは艦首を持ち上げるはずだ。
なお、ヤマトの艦首に補助スラスターが装備されていたり、波動エンジンのノズルが可変型で推力偏向が可能なら、このような工夫は不要だが、3)の条件が記載されているということは、それらが未装備かもしれず、また装備済でも、それらの故障、破損リスクも考慮すべきと二人は考えた。
繰り返しになるが、ヤマトの重心線より前まで掘削を行い、かつ発進時に様々な支持装置を外すことでヤマトは自然と艦首を持ち上げ、あとはエンジン点火のみで大空に飛びたてる、ということである。
なおドーム状の大空間も、掘削土砂を減らすため階段状に地山を一部残置し、そこからヤマト支持用の支保工(アンダーピニング)を設置する設計とした。

(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会

さて、ヤマトの建造方法は一切不明である。しかし、もしヤマトが前方からブロック毎に組み立てられ、順々にそのブロックをつなぎ合わせる方式ならば、支持と発進の工夫がさらに可能である。例えばヤマト艦首のパーツが大空間内のヤード(作業しやすい場所)で組み立てられ、完成後に旧「大和」偽装の中を横スライドされて艦首位置に設置されるとする。すると次パーツも同様の工程を経て、前パーツに接続されていくことになる。
このとき、各パーツが重量を預ける地山(ヤマト艦底にあたる部分)にあらかじめアースアンカー8 を施工しておき、ヤマト各パーツが設置され次第、次々とそのアースアンカーとヤマトの各パーツも接続していくのである(図5)。

図5:アースアンカー位置図(※竣工時) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図5:アースアンカー位置図(※竣工時)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

するとアースアンカーは地山との定着力(摩擦)により、ヤマトの艦首浮き上がりを防止する。ヤマトの総重量や剛性が判明すれば、このアースアンカーのみでヤマトを支え、後部支持用の支保工は省略する設計も可能となる。(劇中でヤマト後部の支持(サポート)が少ない状況もこれにより実現できる。)

いずれにせよ発進直前、ヤマトはアースアンカー方式も採用し、図5のようにすべきというのが、二人の結論である。その場合ヤマトは、抜錨とともにアースアンカーと艦体の切り離しも行なわなければならない。(それは劇中で、発進時にヤマト艦体側部で複数の小規模連続爆発が起こり、かつワイヤー状のものが跳ね回る描写と合致する。)

以上が、前田建設の林と山内が考案した「建造準備および発進準備工事」の全貌である。しかしこれではまだ不十分だ。二人は「土」のプロだが、「トンネル」のプロではなかったのである。国連宇宙軍を説得するにはコストと工期の提示も必要だ。「トンネル」のプロの力も借りた、更なる詳細検討が今後の鍵を握る。

今しばらく前田建設技術陣の航海は続く。宇宙戦艦ヤマトの航海にバトンを渡す、その日まで。

  • 8 アースアンカー:地中に長尺鋼棒を挿入し、造成する「定着部」と「構造物」を連結させ、例えば法面の崩落を防ぎ安定を図るもの。今回の場合は真下にアンカーを打ち(定着部)ヤマト(構造物)を固定することから、浮き上がりを防止する効果を発揮する
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