東京都勝島ポンプ所流入管渠工事#2

TOP Report#1 Report#2 Construction REPORT 38

13カ月で大断面・急曲線のトンネルを構築

 本工事の最大の特徴は、直径10.3mという大断面で、最小曲線R(半径)=30mの急曲線4カ所を掘進することだ。しかも、そのうち3カ所は首都高速道路の橋脚基礎の間を最小離隔2.2mで「S字カーブ」を描いて進む。このような工事は日本にも世界にも前例がないため、前田建設シールド技術者(土木・機電)の職員が練り上げた技術を提案し、総合評価で受注。2008年3月に着工し、2014年3月までの約6年にわたり施工する。
 地盤は、下部は礫層、上部は粘土層という掘削が難しい地層である。そこを、土被り約20m、総延長980mのトンネルを、中折れ機構を装備した外径10.3mの泥水シールド機で掘進した。シールド機は工場で60分割して発進立坑に搬入し、昼夜2交代体制で約3カ月かけて組み立てた。
 一次覆工のセグメントは、直線部分には鉄筋コンリート製(RC)、曲線部には鋼製(ST)を使用。RCセグメントの継手には、剛性と安全性に優れた「スライドコッター・クイックジョイントセグメント」を採用し、1リングを8分割で組み立てた。
 急曲線部の鋼製セグメント(標準幅400㎜)は、左右の幅が最大180㎜異なるテーパーセグメントを採用。通常はA・B・Kという3タイプのセグメントを組み合わせて使用するが、ここではKセグメントを用いずに全てAセグメントとすることにより、作業の効率化を図った。
 シールド機の軌跡はトンネルの仕上がり線形に影響する。設計線形を描くために、CADを使用してシミュレーションを事前に行い、測量データを基にして、シールド機をコントロールした。

曲線施工のイメージ

曲線施工では、大きな余掘りが必要となる。そこで、鋼製セグメントに取り付けた遮へい袋に「裏込め注入材」を注入してトンネルの曲線形状を維持し、余掘り部分には「余掘り充填材」を注入して空隙を埋め、地盤変状を防いだ。

排泥処理設備

シールド掘進中は、現場内の水循環システムを構築し、泥水処理設備を設置。まず排泥から砂・礫をふるい分け、残りの泥水はろ過して高圧で絞り、絞った水は再利用して、環境に配慮した。

排水の漏れ防止

公共水域に排水が漏れないよう、受け皿を設置。廃油も同様に、漏れを防いでいる。

3年をかけて超過密鉄筋の二次覆工を施工

 トンネル内部には、二次覆工により上下2段の水路を構築する。急曲線部にコンクリートを打設する工事には、想像以上の難しさがある。R=30mを施工するために、左右の幅が異なるカーブライナーを装備したセントル(鋼製型枠)を製作。曲線部分では、一次覆工であるセグメントのカーブに合わせるようにカーブライナーで微調整している。
 また、コンクリート1m3に300kgもの鉄筋(以下、300kg/m3と表現)を施工するために、鉄筋を運搬する台車を3台配備し、搬入の効率化を図った。鉄筋を組み立てる作業は、鉄筋工の手作業で行われている。
 さらに、超過密鉄筋にコンクリートを打設するという難しさもある。通常は200kg/m3で過密鉄筋だが、ここでは300kg/m3もの鉄筋を使用するため、隅々まで均等にコンクリートを充填するには技術を要する。そこで、コンクリートの配合にも検討を加え、高性能減水剤を使用した流動性の高いコンクリートを採用。地上でコンクリートミキサー車を手配する職員と、トンネル内で打設を指示する職員が連携して、コンクリートを打設している。特に夏は、コンクリートが硬化し始めないうちに打設し、必要な養生期間をとって、品質を確保している。
 二次覆工は始まったばかりだ。約3年間にわたり品質確保に重点を置いて着実に施工し、二次覆工の品質が評価されて、長く使われる下水道にすることを目標にしている。

鉄筋台車

鉄筋の設置には3台の台車を使用し、作業効率と安全性を高めている。

上部セントル(工場内)

二次覆工は、下部と上部に分け、下部のコンクリートを施工したあと、上部用セントルを使用してコンクリートを打設している。

地震警報装置

2011年3月11日の東日本大震災のあと地震警報を導入し、震度4以上の地震をいち早く察知して安全を確保している。また、職員は固有回線のPHSを携帯し、災害時も現場内外との連絡がスムーズに取れるようにしている。

屋上緑化

現場事務所の屋根を緑化して、省エネルギーを図っている。

現場見学会

韓国や中国、サウジアラビアなど海外からの見学者を含めて、2010年だけで約2000人の見学者が訪れたことから、防災への関心が高いことがわかった。

立会川作業所 土木係

加藤 秀理

2011年入社 東京都出身

ものづくりに興味を持っていたので、大きなものを造りたいと思い入社しました。入社前研修のとき、この現場で初めてシールドトンネルを見ました。思いがけずその現場に配属されたので、うれしかったです。今は、測量、施工記録の作成、二次覆工のセントルの組立やコンクリートミキサー車の手配を担当しています。一番難しいのはコンクリートミキサー車の手配です。コンクリート打設の際はコミュニケーション能力とチームワークが必要なので、トンネル内と連絡を取り合ってスムーズに仕事を進めるよう心がけています。仕事を任されると責任は重いのですが、やりがいを感じます。現場の職員だけでなく前田建設全体で力を合わせて仕事をしていることを実感し、みんなの経験や知識を合わせて施工してこそいいものができることを知りました。

立会川作業所 土木係

加茂 貴之

2010年入社 東京都出身

人のためになる社会資本整備を行いたいと思い、入社しました。入社当初からシールドトンネル工事に携わっています。特にシールド工事の中でもコンクリート工事を主として担当し、この現場では、二次覆工工事及び躯体築造工事を担当しています。今回の二次覆工は高密度配筋であるため、コンクリートの充填性及び水密性の向上のために、工夫・改善を行っているところです。特に難しい急曲線部分の二次覆工では、何度も測量を行いました。経験が浅く、まだまだわからないことはたくさんありますが、任された仕事に対して真摯に取り組み、成長していきたいと考えています。これからの建設産業を考えると日本国内だけでなく海外にも目を向けていかなければならないと思い、機会があれば海外でも施工を行いたいと考えています。

立会川作業所 土木係

芳賀 俊司

2009年入社 東京都出身

大学入学前に建築現場で働いて施工管理に関心を持ち、大学で土木を専攻。入社後すぐ、この現場に配属されました。仕事は日々の施工管理から始めて、最初に任されたのは掘進の残土管理でした。シールドトンネルは緻密な計画に基づいて施工するため、当初は1日に数ミリしか進まないことに驚きました。入社2年目の10月にトンネルが貫通。今は二次覆工で、セントルという型枠を移動しながらコンクリートを打設しています。まだ確立されていない工法なので、現場で工夫して工法を生み出し、能率アップしていくことが楽しみです。作業の際はコミュニケーションを大切にして、職長さんの考えを聞いて調整し、信頼関係を築いています。私にとって初めての仕事が多いのですが、現場全体を把握して必要なことを後輩2人に伝えています。

立会川作業所 機電主任

原 秀平

1998年入社 東京都出身

ダムやシールドトンネルの施工を担当し、この現場に赴任。施工管理を担当し、シールド掘進中は設備の維持管理と改善業務を行いました。シールドの仕上がりが二次覆工に影響するので、測量をもとにしてCADを描き、地層の変化やマシンの曲がり具合を見たり、現場の変化を感じたりして、次に起きることを予測しながら慎重に掘進しました。二次覆工では、設備の維持管理とコンクリート打設を行っています。当社では、セントルを使った急曲線のコンクリート打設も過密鉄筋も初めてなので、日々工夫を重ねています。コンクリートの打ち方を判断する勉強をし、設備に工夫をして打設時間を短縮するなど工夫をして、妥協せずに品質確保に努めています。これほどの大断面も、一次覆工から二次覆工まで取り組むのも初めてですが、お客様にいいものをお渡しするために、私の技術と経験を生かして挑んでいます。

立会川作業所 機電課長

田辺 和也

1993年入社 神奈川県出身

この現場には、入札時の総合評価方式による技術提案書から取り組み、誰も施工したことのないR=30mの急曲線部分をいかに施工するかを土木、機電のメンバーが練り上げて施工方法を提案しました。当社では、初めての技術提案型シールドトンネル工事の受注でした。シールドトンネル工事では機械も多く、機電の役割は大きいのですが、二次覆工工事では機電がどのような役割を担うかという課題に直面しました。これまでも難しい現場を担当してきたので、土木の分野でも、自分にできないことはないと思い、新たに土木の勉強に取組み土木の中でも機電に強い存在になろうと考えました。今後、二次覆工を軌道に乗せ、効率を上げ、高品質を確保し、長持ちする下水道に仕上げることが当面の目標です。そして、これからもシールドの施工を続けて、土木・機電の技術の継承をしたいと思います。

立会川作業所 工事課長

増田 昌昭

1997年入社 兵庫県出身

この現場には、工事契約時から携わり、施工、原価、発注者対応と工事全般を管理しております。今回の現場の主であるシールド工事は、大断面かつ急曲線施工であり、さらに首都高速という重要構造物との超近接施工でした。シールド到達施工においては、直線で精度良く到達することも難しいことですが、さらにS字急曲線の後にすぐに到達するという世界でも実績のない難工事でした。二次覆工は、上下二段のいびつな形の複断面構造で、シールドのS字急曲線に合わせてコンクリートを打設しなければなりません。この二次覆工の施工方法は、当社から提案を行い、コンクリートの配合及び打設方法についても工夫・改善を行っております。土木工事は、全てオーダーメードの一品生産であり、どんな工事においても難しさがあります。特に、トンネル工事は、設計図に現れない部分をいかに安全で高品質で施工するかを考えるところに楽しさを感じます。ゲリラ豪雨等による洪水対策のためのシールド工事の需要は、今後も全国的にあり、私もシールド工事に携わっていきたいと考えています。

立会川作業所

所 長

北村 昌文

安全・品質の確保と
若手職員への技術の伝承に
力を注いでいます。

 シールド掘進が完了し、現在は本支店技術部門・技術研究所との連携により超過密鉄筋の二次覆工工事を着実に進めています。
 現場では三現主義をモットーとし、五感を駆使して施工状況を確認し、安全管理と品質管理に努めています。安全面では、JV職員をはじめ職長、作業員も含めて「ヒヤリ・ハット」の実体験を共有し、危険を想定した改善活動を実施。品質に関しては、自分が誇れる仕事をして、多くの方々に喜んでいただきたいという気持ちを持つよう伝えています。
 このような取り組みを通して、若手社員への土木の技術や考え方の伝承に努めています。

■前のページへ