トップメッセージ

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請負の基盤強化と脱請負の収益拡大へ

2024年3月期の前田建設単体の決算は、通期目標を大幅に上回り、売上総利益、営業利益ともに過去最高を達成しました。資材価格や労務費が上昇基調にある中で好調を維持できている背景には、当社が請負事業のコスト競争に依存しないために約10年以上前から取り組んできた受注規律の強化と、プロジェクトの上流から参画して早期から事業主とプロジェクトを一緒に作り込むという戦略が実を結んでいると感じています。その結果は、工事損失引当金が業界内でも圧倒的に少ないという点にも表れています。
これは、健全な危機感を持ちつつ、中長期的な視野と戦略的な思考に基づき、全社で事業改革や意識改革に取り組んできた成果であると確信しています。

特に、土木事業での難易度の高い設計変更や施工効率化・工期短縮による利益拡大の貢献と、建築事業での大型の再開発案件や、付加価値を創出できるような上流からの作り込みによる利益率の向上が今期の業績に寄与してくれました。

脱請負事業においては、当社はインフロニアが発足する前から脱請負を宣言して10年以上がたち、土木・建築に並ぶ第三の新たな収益基盤として、長年にわたり戦略的に取り組んできた成果が目に見える形で実り始めています。
脱請負事業の柱は、インフラ運営事業と再生可能エネルギー事業です。
インフラ運営事業では、下水道PPPの先駆けとなる「三浦市下水道コンセッション」が2023年4月から運営を開始した他、「国立競技場運営事業」、「豊橋市多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」、「富山市総合体育館Rコンセッション事業」を受注しました。

自治体のインフラに関する課題解決を行う地域事業推進においても、国交省のインフラ運営等に係る民間提案型「官民連携モデリング」業務をさいたま市で開始しました。利用料金を徴収しないインフラにおけるビジネスモデル検討を行い、他自治体への展開や、AP(アベイラビリティペイメント)への進化手法を構築中です。

官民連携の取り組み実績
官民連携の取り組み実績

再生可能エネルギー事業では、大洲バイオマス発電所の建設工事が完了し、営業運転を開始しました。発電出力は5万kW、年間発電量は約3.5億kWhを計画しており、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、環境負荷の低い再生可能エネルギー由来の電力の普及拡大と地域経済の発展に寄与してまいります。

脱請負思考により付加価値を創出する

インフロニアが発足して約3年、グループ各社との連携が強化され、営業や施工、技術開発、情報セキュリティ、グループファイナンスといった各種の施策を円滑に運営できるようになってきました。

インフロニアグループ全体での営業協力体制の構築は、新規受注の増加に寄与しただけでなく、官民連携プロジェクトに関する自治体とのパイプラインの拡大にもつながっています。

前田道路とともに入札に参加した豊橋市のアリーナBT+コンセッション「豊橋市多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」を2024年6月に受注するなど、グループシナジーを活かした提案の幅の広がりを感じています。その他、環境配慮型のアスファルト混合物「LEAB(レアブ)」導入によるCO2排出量削減の取り組みに協力していますし、2024年1月に発生した能登半島地震での災害復旧活動では連携して迅速に対応することができました。前田製作所とはトンネルのリニューアル工事に特化した機械の技術開発などで連携を進めています。
脱請負事業のもう一つの柱となる再生可能エネルギー事業は、これから日本風力開発とのシナジーが期待でき、より一層開発を加速できるでしょう。開発が進むと、付加価値が向上した案件をセカンダリー市場へ事業譲渡するという選択肢を持つことができ、脱請負事業の収益基盤の確立に繋がります。また、こうした資本のリサイクルによる付加価値の創出は、業界の他社にはない前田建設の強みと言えます。

全社一丸となって人材マネジメントに取り組む

建設業でも法令による残業時間の上限規制が厳格化する2024年問題が本番を迎え、現場に対する工期はもちろん原価や施工体制への影響が懸念されていることから、

さらなる労働環境改善が求められています。依然として残る過重労働の発生リスクに対して、上司をはじめとした責任者がリアルタイムで労働時間を把握するとともに、各々の事例に対して改善策を検討しています。
現場のリスクを現場で抱え込まないということが重要であり、現場が支店や本社へ迅速に情報共有し、全社一丸となって対応する風通しの良さを目指していきます。また、当社の協力会社会である前友会の皆さんとも連携を強化しています。

そのような中で、上司力の強化が当社の人材戦略の鍵だと考えています。会社としての改革や若手の人材育成に関する取り組みが進む中で、上司に求められる知識や能力のレベルは今まで以上に高くなっています。現役の上司のみならず幹部候補や中間層を対象に、上司に求められる知識や能力、責任、判断力をしっかり教育する機会を提供し、ハラスメント防止はもちろん人材を育てていくための土台づくりを行っています。

上司力研修
上司力研修

ダイバーシティの取り組みも進めています。女性のキャリア形成支援の一環として、女性特有の健康課題についてのセミナー開催やフェムテックサービスの導入を実施しました。
社員の育児支援については、2022年4月に有給の「育児休暇」制度を新設し、子女が満1歳に達するまでに20日の取得を必須としました。結果として、男性社員の育児関連休暇を含む育児休業取得率は当初の約1割から約8割まで上昇しています。

担い手確保の問題については、当社の協力会社会である前友会とともにリクルート、人材育成に加えて、現在増えている外国人就労者のマネジメントについて取り組んでいます。一方、労働人口が減少する中で、生産性向上に取り組む必要性も感じています。施工プロセスの見直しや施工生産性向上のための技術開発などの取り組みを一層進めていきます。

カーボンニュートラルの実現に向けて

建設業において、気候変動への対応は大きな課題だと認識しています。社会全体のカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー事業に注力していくことは必要不可欠です。前田建設は、全社における非化石証書の導入に加えて、圧倒的にインパクトが大きい建物運用段階でのCO2排出に対して、上流である設計段階の取り組みをお客様に提案することで、建物のライフサイクル全体でのCO2排出量削減に貢献します。その他、ZEB・ZEH-Mなどの省エネルギー技術や木造建築にも挑戦しています。

前田建設のイノベーションの拠点であるICI LabのEXCHANGE棟は、ZEBを実現しただけでなく、国際的な建築の環境性能評価システム「LEED V4 BD+C New Construction」の最高評価となるプラチナ認証を、国内第一号で取得しました。その他、環境に関するさまざまな賞を受賞しており、前田建設の省エネルギー技術のモデルルームとなっています。

ICI Lab EXCHANGE棟
ICI Lab EXCHANGE棟

また、昨年から蓄電池事業にも取り組み始めており、現在2つのプロジェクトを立ち上げているところです。今後市場が拡大することが見込まれるため、引き続き挑戦していきたいと考えています。

※ZEB・ZEH-M:Net Zero Energy Building & Net Zero Energy House Mansionの略称。年間の一次エネルギー消費量が正味またはマイナスの建築物・住宅のこと。

「攻守兼備」の姿勢で、果敢に挑戦

中期経営計画「NEXT10 2nd Stage」の最終年度である今年は、「攻守兼備」をテーマに掲げています。業界内外に先駆けた取り組みを実施する「変革に挑戦する姿勢」(攻め)として進める一方で、風通しの良い会社としての組織づくりに注力し、会社全体で多様な問題・課題解決に取り組む「持続可能な体制構築」(守り)に取り組みます。
特に、「守り」については以前から問題となっていた担い手不足がいよいよ顕在化したことに加えて、2024年問題が本番を迎えたことから現場へのプレッシャーが高まり、利益面、品質管理面、安全面などにおいて潜在的なリスクとなっています。課題を一事業所で抱えることなく、全社の知見をもって解決に取り組みたいと考えています。

前田建設では、創業以来請負に取り組んできましたが、この本業をさらに深化させるという方針は変わりません。請負で培ったエンジニアリング力を軸として、時代のニーズに応え社会課題を解決する脱請負の取り組みをさらに加速させていきます。

脱請負に取り組み始めて10年以上がたち、ようやく社内に浸透してきた実感を得ています。自治体における官民連携プロジェクトにおいては、それぞれの地域特有の課題や将来ビジョンを把握しながら、上流段階において新たな価値を提案、創造する必要があります。このようなCSVの実践をそれぞれの支店が主体となって推進してもらうため、当社は数年前から本支店に地域事業推進の専門部署を設置して官民連携(PPP・PFI)の強化に取り組んできました。設置当初に比べて自治体からのニーズは高まっており、これからの市場の盛り上がりに期待しています。

現在国内のコンセッション案件は約30件で、そのうち3分の1を当社グループが参画しています。コンセッションよりは小規模ですが、公共施設の包括管理にも当社グループ会社のFBSやJMと一体となって取り組むことにより、幅広く自治体のニーズを吸い上げて中長期的な案件創出を目指しています。

日本企業が目指すべきは、価格を下げてシェア拡大を図るのではなく、付加価値の高い提案で収益を確保し、ステークホルダーに分配していく事業モデルへの転換だと思います。現在、当社は請負事業においても上流から入り込み、脱請負思考で付加価値提案を行うという営業を強化しています。請負と脱請負のバランスを取り、グループ中核企業としての責任を果たしてグループの成長に貢献していきます。

来年4月から始まるNEXT10 3rd Stageでの加速度的な成長に向け、「攻め」と「守り」を兼ね備えた「攻守兼備」の姿勢で、果敢に挑戦してまいります。

代表取締役社長 前田操治

前田 操治(まえだ そうじ)

1997年前田建設入社、2002年から取締役 常務執行役員、建築事業本部長 営業推進担当を歴任し、2016年同社代表取締役社長、2021年10月インフロニア・ホールディングス取締役会長に就任