ファンタジー営業部
GRAN TURISMO 4編
1間違い探しクイズ
グランバレーといえば水色のアーチ橋を思い浮かべる人は多いはず。かくいう私もその一人。しかし、この鉄の橋を弊社のみで検討することは難しく、そこで困った時の神頼み。マジンガーZ編以来、我々の活動にお付き合いいただいている日立造船株式会社さんにおすがりしました。今回は鉄構事業本部の橋梁事業部にご勤務されているP部長に、厚かましくもまた色々と検討をお願いしてしまうのであった。
◇ ◆ ◇ B主任とD職員、大阪の日立造船さん橋梁事業部へ ◇ ◆ ◇
C主任 今回は色々とお手数をおかけしまして。
P部長 (ニコニコと物静かに)いえいえいえ・・・
B主任 あ、関西弁ではないんですな。
P部長 (ニコニコと物静かに)ええ、ええ、ええ・・・
C主任 では、本題ですが、今回のアーチ橋、正体は大三島橋であることがわかったわけですが、プロの目から見てなにか気になることはありますか?
P部長 ええ。あの、まずここですね。
橋脚の横のこれ、だそうで(白丸、前田建設で追加)
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P部長 これ、我々の用語でタイ(tie:結ぶ)材と呼ぶのですが、これの役割はアーチが崩れないようにするためなんですね。
B主任 うーん、石積のアーチ橋やったら崩れるっちゅうイメージ湧きますけど、鉄でもそうでっか?
P部長 アーチの「形」が崩れると、耐えられなくなるという意味です。
   
C主任 あぁ・・・そうですね!アーチが形を変えてしまえば、全圧縮1)ではなくなりますからね。
B主任 つまり、こういうことやな・・・(しばし熟考)・・・良い例えが、思い浮かばん!
P部長 学生さんだったらおそらく持ってるプラスチック下敷きの両端を掴み、両手で曲げてアーチを作って遊んでもらえれば、体験として学んでいただけるんでしょうけど。
B主任 それや。それを言いたかったんや。わいもよーぅやったわ。 それとか、 あとは端持って、細かーく振動させて「ポワポワポワポワポワ」って変な音させたりな。
C主任 体育の後とか、皆がうちわ代りにそれやるからうるさくて、先生に叱られたりしてね。
B主任 おーぅ懐かしいのぉ。女子がソックタッチとか塗りなおしてな。中学生のわしはその時見え隠れする足にちょっと大人を感じたりして・・・ああ、青春や・・・
P部長 (全く気にせずニコニコと)アーチ橋にはアーチと桁の剛性配分により、幾つかの形式があるんです。アーチ部が重要な役割を果たす順にアーチ橋→ローゼ橋→ランガー橋となりましてね。
C主任 するとランガー橋におけるアーチ部の役割って何なのですか?
※1)
全圧縮:石積アーチ橋では各石の形状や積み方により、石に働く重力が(乱暴に説明すれば楔の原理とほぼ同様の仕組みで)分解され、互いを保持し合う圧縮力となるから自立している。このように全要素が引張力なく圧縮のみ受けている状態を全圧縮という。アーチが変形し、どこか一箇所でも引張力が働けば、文字通りアーチは崩れてしまう。
P部長 ほとんどを桁で持たせ、アーチ部は軸力2)のみ受け持たせるものです。で、この橋はアーチ橋でしてアーチ部のみで曲げ・せん断・軸力に対抗しますから、アーチが型をとどめることが不可欠です。それを防ぐ為に引っ張っておく部材がタイ材(正確には「側タイ」:大三島橋の場合は圧縮にも抵抗する)なのです。
※2)
軸力:構造力学では部材にかかる力を軸力、せん断力、そして曲げの3つに分けて扱います。軸力とは部材に対して真っ直ぐ、軸方向にかかる力で、圧縮と引張で表します。ですからランガー橋の場合、アーチ部は橋の圧縮や引張に対して働くだけの軽量なものとなっている訳です。なお、せん断力とは部材のずれを、曲げはモーメントとも呼ばれ部材に回転するような曲げを、それぞれ発生させる力を言います。
荷重変化などによるアーチ変動を、横に長いタイ材が押さえ込みます。(白線、前田建設で追加)
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B主任 だから、そのタイ材はアーチ部分だけでよろしいと。
P部長 上の写真を見れば良くお判りの通り、今回はアーチとさらに橋台頂部までを結んで、強固な構造としているのですが側径間・・・橋台から先は必要ない訳ですね。
C主任 なるほど。
B主任 他に、橋梁のプロとして気になるとこはありまへんか?
P部長 特にありません。強いて言えば荷重と部材の太さについて考えがあるのですが、それは・・・後でお話します。
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2既存の橋を越える
C主任 それで、今回我々は新たな提案も行うという挑戦をしています。P部長ならこのグランバレーの橋、どうされますか?
P部長 上路アーチに変更します。こんな風な。
美しいのですが、レース中のドライバーからは普通の道路に見える可能性が・・・
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B主任 な、なんか・・・お言葉ですが・・・地味すぎませんか?
C主任 どうしてこれが有利なんでしょう?
P部長 はい。 グランバレーのような中路アーチ橋はゲーム画像のように道路をアーチで挟むように作るのがほとんどです。
B主任 そりゃそうですな。 けどセンターライン上というか中央にある橋も見た覚えはありますな。
P部長 確かにそういう形式もあります。とにかく言いたいのは上路アーチですと必ずしも道路幅のアーチは必要としませんから鋼材が節約できます。さらにアーチライズの問題があって・・・
C主任 アーチライズ?
P部長 これですね。
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P部長 ここをアーチライズと呼びますがアーチ橋の場合、支間(スパン)に対する比率、アーチライズ比で1/6〜1/8で設計すると経済的といわれています。ところが上路アーチの場合は、このライズ比を確保すると必然的に路面高さが高くなりますが、城ヶ倉大橋の場合1/10という実績があって、ライズ高さと路面高さは低くて済みます。さらに路面を直接支える床組部材をアーチと協働する補剛桁が兼用することができ、鋼材は少なくなる訳です。
B主任 なるほど、さすがは現代のエンジニア。まずはコストダウン検討ですな。
P部長 バスケットハンドルってご存じですか?
B主任 小さい頃母親が、買い物で籐のやつ、使こうてた記憶はあります。
C主任 それのことじゃないでしょ。
P部長 いえ、それで良いんです。バスケットの持ち手。手で持ってる時に前から見ると、下は広いけど上は手で一点に集約されますよね。橋でもそういう形をバスケットハンドルと呼ぶんです。例えばこれなど。
ホント、下にバスケットがぶら下がっていても違和感ない感じ
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B主任 この上に道路がつくイメージですな。
P部長 ここまで極端に絞らないとは思いますが 、こうすることでさらに横方向の部材が節約できます。
C主任 メリットは良くわかりました。ではその上路アーチ案をベースに何が提案してみます。
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3さらなる注文
 一旦社に戻った2人は上路アーチ橋案について、合理的ながらドライバーからの視点で面白味に欠けると判断し、さらに厚かましくも、日立造船さんにさらなる改良をお願いしてしまうのであった。2人でお願いした注文とはF1中国GPで我々の度肝を抜いたコース真上の観覧席をヒントに「この橋上にも観覧席を設けて欲しい」というものであった。優しいP部長はいやな顔もせずニコニコと頷いて下さり、やがて、検討終了の連絡が入った。
◇ ◆ ◇ B主任、C主任、再び日立造船さんを訪問 ◇ ◆ ◇
   
C主任 どうなりましたか。
P部長 はい、こうなりました。
   
これがグランバレーの新アーチ橋!なのか?*
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C主任 こ、これは。まさか・・・
B主任 下のアーチ橋をただ、コピー&ペーストしただけ・・・
P部長 (ニコニコと物静かに)いいえ。よく断面図を見て下さい。下はバスケットハンドル、上はコース幅そのままで上げてます。ほら、ちゃんと観覧席部断面図・平面図って描いてあるでしょ。
C主任 いや、そうですね。しかし全く同じアーチが繰り返されているものですから・・・。
P部長 いや、それはですね・・・
B主任 わいや。わいが一人で留守番してた時、P部長に意匠について電話で相談されて「同じアーチを繰り返すとおもろいんちゃいますか!」言うたんや。
C主任 それ、どうして?
B主任 その前の週末に皇居周辺を散歩したんや。二重橋のあたり・・・
P部長 という理由でして・・・。
C主任 いやいや・・・これ、構造的な検討もしていただいたんですか?
P部長 はい。実は前回こちらに来ていただいたときに言い忘れたのですが、荷重と部材の太さについてちょっと思うところありましてね。
C主任 はい、それは何ですか?
P部長 これはレースコースの橋ですよね。だから通行するのもレースカーに限られるわけです。普通だと、例えば城ヶ倉大橋と同様なら設計にはB活荷重を利用して1000tクラスを考慮しなければなりません。ところが・・・
B主任 ここはレースカーしか通らない。
P部長 しかも最大で6台です。単純になら6tと考えられます。
C主任 その割に結構ゴツイ構造のように思いますが。
  *PDF橋梁一般図[PDF/226b]
B主任 アホやな。お前は死荷重3)をしらんのか?
C主任 それは知ってるけど、比率として1000:6だよ。もう少し華奢に出来るかなと思っただけさ。
P部長 結局ですね、少し大まかですが部材高で80%程度にしかならないんですよ。
B主任 構造物ってなんなんやろうなぁ。
P部長 実はですね、これ、下の上路アーチ橋だけで設計を進めてたんですよ。しかし急にB主任のリクエストとなりまして、こうなったという経緯があります。
C主任 だから上のアーチの支持点は橋脚位置にする必要があったんですね。
P部長 新たに下の桁に荷重を増やさない構造にすれば、下の上路アーチの計算はほとんどそのままに使えますからね。
B主任 これ、どういう使い方ができるか、ちょっと建築エンジ部に行って相談してきますわ。どんな感じになるか、考えてもらいます。
C主任 しかし色々とご無理言いまして。
P部長 もしですね、今回のダブルデッキを初めから指定して頂いたら。もう少しやりようもあったとは思います。
B主任 ほぅ。どんな感じです?
P部長 デッキをつけることで横からのボリュームが増えますからね。その印象を美しくするためにニールセン・ローゼ橋を採用しても良かったかなと。
C主任 ニールセン・ローゼ橋?
P部長 前回お越し頂いた際にお見せした「バスケットハンドル」の橋、あれがそうです。
B主任 ああ、それはええ案ですなぁ。あれは斜めのケーブルですから、美しくなるでしょうなぁ。
P部長 ただケーブル故に問題もあって、普通はあり得ないのですが上から荷重がかかりますからね、ケーブルは引っ張りにしか効きませんから、慎重に検討しなければなりません。
C主任 それは是非、いつか完璧版として検討して欲しいです。
  ※3)
死荷重:構造物にとって時間的に変化しない荷重のこと。ほとんどは構造物の自重となる。静荷重ともいう。
◇ ◆ ◇ B主任、飯田橋に戻り建築エンジQ主任を訪問 ◇ ◆ ◇
B主任 というわけで、これをどうしましょか、思いまして
Q主任 なるほど難しいね。例えばウッドデッキ風に仕上げ、ガラスを使ってこんな感じでもいいし。
ガラスの上は結構、スリルあるかもしれませんね
(C) 前田建設 All rights reserved
Q主任 荷重はさらに増えちゃうけど屋上緑化して公園のようにしても良いかな。
ここから見る湖も美しいでしょう。オープンカフェなどもいいですね
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B主任 いやぁ、何とかなるもんですなぁ。
Q主任 ホントはCGとか使ってじっくり仕上げたいところだけど。
B主任 いやいや、これで充分です!

こうしてアーチ橋の検討は終了した。そして来月はいよいよ、Grand Valley Speedway最後の検討部分、サーキットの顔 、グランドスタンドについての検討である。担当者多忙を極める中、果たしてちゃんと間に合うのか。

これまでのF営業部にないやり方をも導入した次回ファンタジー営業部 GT4編 「Part09、手に手を取って」2月28日(火)公開予定。と書いてしまって自分に圧力かけてます。

The Drive of My Motivation
ところで、今回の検討では本文中でもご紹介させて頂いた通り、またも日立造船株式会社 鉄構事業本部 橋梁事業部のP部長こと、山井俊介部長代理に本業のお忙しい中ご検討頂きました。有り難うございました。
※本文中ではP部長として脚色したやり取りを公開させていただきましたが、本当の部長は橋梁設計30年のベテラン技術者で、南備讃瀬戸大橋などを経験されております。最近では橋の保全を中心にお仕事をされ「今回の橋の場合は、内陸部で塩分の心配も少ないから、塗装がメンテナンスフリーになる無塗装仕上げがお勧め。ただ錆が付く恐れがあるので人が触れる場所ではできませんが」などと、そちらの観点も含め、面白いお話をたくさんしていただきました。趣味はゴルフ。
   


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