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これまでは各社/各組織のプロが各々の観点から、ロボット救助隊に必要かつ分担可能な要素をイメージし具体化している過程をご報告してきた。打ち合わせ時の熱気や互いの成果などが各社/各組織を刺激し、少なくない相乗効果を生み出してきたと思う。しかし、賢明な読者諸氏は既にお気づきのことと思うが、ある大きな課題を後回しにしてきたのも事実である。
今月から総集編をお送りするにあたり、まずは今まで先延ばしにしてきた「ある大きな課題」と向き合う必要がある。それは、先月紹介したオンワード商事さんの疑問そのもの、でもある。
「この活動全体のコンセプトや、ロボット救助隊のテーマというものをいただきたい。」
本救助隊の意味や本質とは何か。確かにこれについて即答はできなかった。しかし思い直せば、これまでの活動の中に「材料」は数多く散りばめられていた。
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・ | レスキューは「技術が高い」「頼もしい」だけではいけない。「やさしく」なければ。(IRS−U 真壁リーダー) |
・ | ロボットは被災者発見後そこを動いてはいけない。肉親の励ましの声が届き、話せることが大事。(千葉工業大学 小柳先生) |
・ | 目的遂行のために国境を越えた仲間意識も持てる人間なら、どこへ行っても通用する。(ANA 中村機長) |
・ | 人間ができないことをできるようにしていく。人間の安全を守る。(IRS会長 東北大学 田所先生) |
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しかもそれらが事前の打ち合わせなど無く、ある方向に統一されていたのだから有り難い。そこで既に本文中にご登場いただいた多くの意志や言葉を振り返り、やや強引ではあるが次のような言葉にまとめてみた。 |
「純粋な形・結集する力」
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制約なしにレスキューの理想像だけを考える。異なるバックグラウンドを持つ人たちがそのために力を結集する*1 。その新しい救助隊はロボットや専用重機、専用飛行機という先端技術を用いた高い機動性と能力を持つのは当然のこと、同時にその機能が優しさによって包まれており、人間に対して真直ぐ純粋で、透明感すら漂うもの。これが本救助隊のコンセプトであり、テーマである。
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以上をオンワードさんにお伝えした後の制服検討会から、今月のコンテンツを始めたい。場所は再びIRSさんの川崎ラボである。 |
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草薙氏: |
前回はわがままを言って、皆さんお忙しい中コンセプトヒアリングのお時間を作っていただいたものですから、実はこちら勝手にプレッシャーがかかっていました、特に私が・・・。 ただ以前もご説明した通り、多分に夢の多い話とはいえ今回も通常の業務通り、多くの関係者の方からこの活動に対する想いや目指すべき姿、目標などをお聞きし、それを極力正確に把握することで、デザインという作業の大事な一歩にしたかったものですから。 |
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増田氏: |
「透明感・純粋・結束力(絆)・力強さ」といったキーワードを後から頂き、それに沿って「カッコいい」最高の物を仕上げるべく頑張りました。 |
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B主任: |
制服をデザインするのも大変な仕事でんなぁ。経営ビジョンが明確でキーワードもすんなり出るような会社ってむしろ少数でっしゃろ?それを引き出す言うても、インタビュア能力ちゅうか、デザイン力そのものとは、全く異なる能力やもんなぁ。 |
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D職員: |
あるいはクライアントさんから、いきなり具体的なデザインの指定がくるとか。例えば「ANAさんみたいの」とか・・・ |
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草薙氏: |
例えばある会社の多くの方とお話をさせていただく間に、キーワードとしてはまとまらずとも、組織の顔やイメージがクリアになってデザインが浮かぶような事もありますね。 |
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増田氏: |
これからレスキュー服のデザイン案をお見せしますが、実は前回打ち合わせで一番印象に残ったのが、現役のレスキュー隊員である真壁リーダーでして・・・。 |
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草薙氏: |
デザインを始めても真壁リーダーの姿が浮かぶらしいんですよ。だから非常に現実的な、飛んでいないというか、そういう印象を受けるかもしれません。 |
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そう言いながらデザイン画を机に並べる草薙部長。一枚絵が増えるたびに、小さなどよめきが沸く川崎ラボの会議室。 |
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C主任: |
・・・服飾デザインというと、手書きのスケッチのようなものが出てくるのだと思い込んでいましたが、CGなんですね。 |
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草薙氏: |
後程お見せする「基地用制服」については、そのパターンですよ。 |
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増田氏: |
基本パターンとしては3つ考えました。現行レスキュー服の正常進化型であるA〜C、世界で活躍する忍者をイメージしたE、Japanese CowboyをモチーフとしたFです。 |
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A-1 |
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<以下、増田デザイナーの解説> 現行の物に一番近いスタイルをブラッシュアップ。スタンドカラーと大きめアウトポケットでスタイリッシュに。ベルトのバックルを隠せる仕様でバックルが邪魔になりません。 |
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B-2 |
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肘、膝の切替えがスタイリッシュな印象を与えます。
肩章にはあえて白を使用し、汚れた分だけ自信と誇りが持て、個々のモチベーションを高める仕様にしました。 |
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C-1 |
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ショールカラーとフラップ、肘、膝当て等全体的に丸みを持たせ優しい印象にグリーン×オレンジが親しみ易さ、安心感を与えます。 |
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正常進化型といいながらカラーリングは斬新です。 |
©オンワード商事 |
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E-1 |
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ズバリ!!!『忍者』 クール&シンプル。任務を全うする使命感、『和』をイメージするカラー(藤色)でのデジタル系の迷彩柄。ポケットも内側に袋を付けるタイプにし、あくまでもスマートな印象に。 |
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E-2 |
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世界における日本のアイデンティティの定番ですかね |
©オンワード商事 |
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F-1 |
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ロボット達を『馬』にみたて、災害地に不屈の精神を持って立ち向かう。その精神はまさにカウボーイ。そんな彼らが着用したウエスタンシャツを都会的にしたデザインに仕上げました。
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肩や胸のあたりにヒラヒラ(正式には何というのでしょうか?)をつけたい感じです |
©オンワード商事 |
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草薙氏: |
ところが、これらをご覧になってどうお感じになったかどうか・・・少なくとも私はですね、まだまだ堅いと。もう少し遊びたい印象を受けましてね。 |
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真壁氏: |
ちょっと見なのですが機能的にはほとんど問題のない、本格的なデザインだと思いますよ。 |
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草薙氏: |
ええ、そういう意味では確かに良いデザインだと思います。 |
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増田氏: |
やはり前回打ち合わせの際の、皆さんの姿勢に、大きな影響をうけましたね。 |
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初回打ち合わせの様子 |
©IRS |
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前回の打ち合わせでは、レスキュー服について真壁リーダーが予めお描きになったデザイン画をお持ちになるなど、非常に熱意あふれる実践的なやり取りに終始した。隊員の「バンザイ状態」での作業性の向上、取り出しやすく作業の邪魔にならないポケットの位置、ひじ・ひざパッドの利点や欠点、バックルやベルトの考え方、ホイッスルや無線の取り付け位置、さらには隊員の炎天下におけるヒートストレス対策や、現状よりタフな感染防護衣の必要性、使用繊維の種類と難燃性など、幅広くかつ深く、検討が進められた。そのような中、例えばホイッスルや無線機能については前回ご報告した通り、ヘルメットに内蔵させることにしたわけである。 |
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草薙氏: |
そこで私が「おい、もう少し遊んでみよう」と働きかけて、もうひとがんばりしてもらったのが、このデザインです。 |
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G-1 |
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Rescue=Hero 特別な存在。奇跡を呼び起こす。その勇姿はまさに実在のスーパーヒーロー。そんな、ヒーローが着用するにふさわしいスタイルです。
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G-2 |
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「現実」と「ヒーロー」の間で絶妙なバランスを持つ、すばらしいデザインです |
©オンワード商事 |
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ここで、会議室にいた女性を中心に賛同の声が多数上がる。そのリアクションを見て喜ぶ、草薙、増田の両氏。 |
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D職員: |
いやー、これは斬新ですね。ヒーローというテーマもいい。僕はこれがいいなあ。 |
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真壁氏: |
遊んでいるといいながら機能的にも問題ないと思います。「レスキューはかっこよくなくちゃ」とも、常々思っているんですよね。 |
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C主任: |
この中から一つに絞らなければいけないのか・・・厳しいな。 |
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B主任: |
どれも素晴らしいからなぁ。 |
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しばし沈黙が会議室を支配する。やがて、ゆっくり口を開く真壁リーダー。 |
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