木戸ダム#1

水を生かす

 木戸川は福島県双葉郡川内村桧山、大滝根山を源とし、東へ流れ、楢葉町から太平洋に注ぐ。流域は台風や豪雨による出水で度々洪水の被害に遭う一方、夏は深刻な水不足に悩まされている。近年は、双葉地区で火力発電、原子力発電が稼働。地下水の取水可能量が限界に達したため、安定した用水の確保が強く望まれている。
 木戸ダムは、洪水の調節、既得取水の安定、河川の保全を図ると同時に、広野町・楢葉町・富岡町・大熊町・双葉町への上水道用水・工業用水の安定供給を目的とした多目的ダムである。
 福島県木戸ダム建設事務所建設グループ課長八代正敏氏は「この地区は関東地方に電力を送る発電地帯として、火力発電、原子力発電に多くの水が使われています。常磐自動車道の整備が進み、工業団地も発展して水が不足しているので、ぜひともダムが必要です」と語った。
 木戸ダム建設には新しい工法が採用された。同事務所所長堀内氏は「前田JVからの提案により、日本で初めてJIOCE方式のRCD工法を導入し、骨材プラントの移動式クラッシャーも採用しました。最後まで高品質の工事をしてほしいと思います」と締めくくった。

 

福島県木戸ダム
建設事務所
建設グループ
課長 八代正敏氏
「木戸川はきれいな川で鮎釣りのメッカになっています。秋には鮭が遡上し、これを捕獲するヤナも設置されます」

 

福島県木戸ダム
建設事務所
所長 堀内進氏
「ダム建設地はすべて国有林なので、村が沈むというような悲しい物語はありませんでした」

ダムの下流にある大滝神社で毎年4月に5日間にわたって行われる「浜下り神事」には、前田JVの職員も協力している。地元の人々が大切に守り伝えている祭りを、前田JVも町の一員として守りたいという気持ちの表れである。

木戸ダム施工設備

電気・通信設備を設置し、濁水処理設備を整える
山を活かす

現場で夜間作業をするための照明は、手元で新聞が読める程度の150ルクスを確保した。その明るさは、もやのかかった日に「山火事だ!」と勘違いされるほどである。そのため、消防署と連携して町の広報誌で夜間工事を知らせ、地元住民の安心と安全に配慮している。

機電課長 和田導明
「毎日10時、14時、16時に、現場内にスピーカーで指差確認をする一斉放送をしています。これは若松所長が、指差確認に最も有効だと考える時間です。今年春のアンケートの結果、この放送で70%が指差確認をしていることが分かりました。さらに徹底して、今秋には安全確認率を80%に引き上げることが目標です」

 現場は国有林のため、電気や通信設備が全くなかった。機電課長の和田は、まず電気を引き、NTT専用回線を引いて、PHSのアンテナを立てた。「最も苦労したのは、11カ所の受変電所を設置する位置でした」と振り返る。
 現場で大きな電力を使用するため、基本波の乱れを抑制する高調波抑制装置、一般家庭への影響をなくすフリッカ抑制装置という、2つの電圧障害対策装置を設置。分電盤を200面設け、特に重要なケーブルクレーンには専用線を引いて、万全の体制を整えた。
 トラブルを未然に防ぐためには、各設備の予防的措置が重要だ。和田は12のチェックポイント付近で働く人々に協力を求め、異変の前ぶれをいち早くキャッチしている。
 木戸ダム本体のコンクリート約50万m3を製造・打設するために、ダム貯水池内の河床部に骨材プラント、右岸にはコンクリートを製造するバッチャープラント、下流に濁水処理設備を設置した。
 コンクリートの骨材は、すべて現場内でまかなう。原石山で発破した花崗岩の原石を自走式破砕機で一次破砕し、その骨材を10tダンプトラックに積んで、骨材プラントに運搬し、必要な大きさに破砕・選別する。
 工事には木戸川の水を利用している。堤体まわりの1日の水の使用量は200t。使用済みのアルカリ性の水はいったん調整池に溜めて炭酸ガスで中和し、pHを基準値にして放流する。骨材プラントで使用した濁水は、土砂を沈降分離させて、骨材プラント内で再利用し、土砂は固く絞って処分する。濁水処理は自然を守るためになくてはならない設備である。

 

原石山で骨材を砕石し一次破砕する。
自走式破砕機は自在に位置を変えられるので、片側で発破をかけたときは、反対側に移動して一次破砕して、採取・破砕を同時進行できるという大きなメリットがある。

 

骨材プラントに運ばれた骨材は、150mm、80mm、40mm、20mm、砂に分けられ、それぞれの用途に使われる。これに加えて、骨材に紛れ込んだ有害なローモンタイトというもろい石を取り除くために、さらに3本のベルトコンベアをつけた。

元の小学生を対象に、建設事務所が主催する「木戸ダムあおぞら教室」が毎年開かれる。現場では、濁水処理システムの見学会を実施。濁った水がきれいになる様子を見た小学生は「きれいになってよかったね」と喜んでくれる。

堤体濁水処理設備で処理されたきれいな水。濁水に中和用炭酸ガスを加え、沈降分離され、ここから川に放流される。

美しい自然を守るため、工事に使用して汚れた水をきれいにして川に戻す濁水処理設備を設置した。

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