新草加市立病院#1

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新草加市立病院
開院予定:平成16年7月20日
診療科目:18診療科

内科、呼吸器科、循環器科、消化器科、小児科、精神科、外科、整形外科、脳神経外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、 泌尿器科、歯科口腔外科、リハビリテーション科、麻酔科、放射線科
青字は新設予定診療科)

新草加市立病院は、患者へのいたわりと患者本位の病棟づくりをコンセプトに設計された。1階・2階が外来病棟。4階から7階の入院病棟中央にはスタッフステーション、その左右に入院病棟を配置し、各フロアに病棟食堂とデイコーナーを確保した。多床室は4床とし、ベッドのレイアウトを工夫して患者のプライバシーを守り、各室にトイレを設置。3階のリハビリテーション室からつながる2階屋上に屋上庭園をつくって、リハビリテーションの効果を上げるよう工夫している。管理部門には、職員用レストランや講堂も備えている。

地域医療に貢献し、地域の基幹病院としての役割を果たして老朽化した現草加市立病院

屋上にはヘリコプターのホバリングスペースを確保し、火災のとき屋上に避難した人を救出する。また、外部から搬送された患者を降ろして、救助することもできる。

構想、設計、建設への道程/10年の歳月をかけて

 埼玉県草加市。人口約23万の都市に、新草加市立病院が建設されている。
 平成5年、草加市は新病院建設プロジェクトを立ち上げ、医師会、市民代表等による検討委員会に加え、市議会の特別委員会が発足。高度入院医療、救急医療の充実、急性期の病気を中心とし、保健福祉と連携した病院を建設することが決定した。新病院は、18診療科目、366床。中でも、新設される脳神経外科は、最も市民の期待を集めている。
 計画推進に当たり最も難航したのは、建設用地の確保であった。草加市は市街地が狭く住宅が密集しているため、まとまった土地を確保できない。草加二丁目の上野学園跡地が建設用地として決定したのは、平成11年3月。計画スタートから6年が経過していた。
 新病院の設計者の選定は、平成12年にプロポーザル方式に久米設計が選定された。
 施工業者の選定には、価格・技術提案審査型入札方式という画期的な方式が採用された。これは入札業者と市長や病院長、民間の知識経験者などにより構成された審査会が価格や施工方法について公開の場で審査する方式であるが、3回の審査会を経て、前田建設1社に発注された。
 草加市立病院の八重樫寛治病院長は、新病院建設計画がスタートしたときからこの計画を推進してきた。「設計のコンセプトは、患者本位の環境づくり、病室ごとのアメニティの追求、災害に強い病院、エネルギーなど環境に配慮してランニングコストを軽減する設備、変化に対応できる設計です。患者の尊厳を守り、療養環境を整えることに重点を置いて設計をお願いしました」と八重樫氏。
 施工に関しては「平成16年7月開院という目標を達成できるという点で、前田建設からの21カ月という提案は非常に評価が高かったわけです。これからますます工事が輻輳してくるので大変だと思いますが、平成16年3月竣工に向けて、頑張っていただきたいと思います」と激励した。

草加市立病院
病院長 八重樫寛治氏

免震構造/しっかりと命を守るために

 着工は平成14年7月。当初、前田建設が草加市に提出した施工期間は24カ月だったが、最終的には21カ月で合意した。ところが、草加市から近隣住民への説明に時間を要したため、事実上の着工は8月中旬となり、工期がさらに短縮された。この限られた工期の中で、安全に病院を建設しなければならない。
 病院は本格的な中間免震構造で建設される。
 免震構造の建物は、地震の際、横揺れする。そのクリアランス分を考慮して、地下外周部分をひな段状にした。深い部分にSMW工法、浅い部分にはパワーブレンダーという地盤改良による自立山留め工法を採用した。パワーブレンダーは、前田建設関東支店技術部からの提案を受けたものである。
 建物を支える基礎杭にはエコパイルを採用し、筒の先端に翼をつけた鋼製の柱を地中にねじ込む。工事による振動・騒音など、近隣への影響の少ない工法である。地中に埋設した鋼材はサビが少なく、将来、病院を建て替えるときに再利用ができる、環境に配慮した建材だ。
 免震構造は耐震性が高く、地震から建物を守るためだけでなく、震災時にも病院機能を維持して周囲の被害に対応するという使命がある。建設地は用地が狭く、地盤も良くない。そこで、地下を駐車場として有効活用しつつ、建物深さを浅くするために、駐車場の柱頭に免震装置を設置する中間免震構造が採用された。マイナス面をプラスに転換した見事な設計である。
 採用された免震装置は、天然積層ゴム支承NRB46基、鉛プラグがゴムによる横揺れを止める役割を果たす鉛プラグ入り積層ゴム支承LRB66基、滑動材がスケート状に動く弾性すべり支承SSR8基。3種類、計120基の免震装置が、しっかりと病院の機能を守る。

エコパイルは、先端に翼を付けた鋼管杭を、全旋回式ジャッキで地盤に圧入する工法。現場打ちコンクリートと比較して、残土の産業廃棄物処理費用を削減し、建物が寿命を終えたときに再利用できるというメリットがある。

3種類の免震装置

4.NRB
天然積層ゴム支承耐久性の高い天然ゴム板と鋼板を交互に積み重ね、ゴムの引っ張り性能を垂直と水平に利用する代表的な免震装置。

5.LRB
鉛プラグ入り積層ゴム支承鉛プラグがゴムによる横揺れを止める役割を果たす。

6.SSR
弾性すべり支承摺動材がスケート状に動く。

7.免震配管設備
建物の構造と同じように、配管設備にも免震工法を採用して、ライフラインを守っている。

山留め工法と中間免震構造

パワーブレンダー施工状況

パワーブレンダー
セメントやセメント系固化材などの改良材を練り混ぜ、地中に噴射して、現場の土と改良材を地盤改良専用機で強制的に撹拌混合し、均一に固化させる地盤改良工法。


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