大保脇ダム本体建設工事#1

Construction REPORT 15

内閣府 沖縄総合事務局
北部ダム事務所長

横森 源治

 沖縄県の年間降水量は、北部2400mm、南部2000mm程度。人口の多い南部の降水量が少ないために起こる水不足を解消するために、北部にダムが建設されている。
 大保ダムは、沖縄県北部、大宜味村の大保川に建設される。洪水調節、既得取水の安定化、河川環境保全のための流量確保、水道水の供給を目的とする多目的ダムである。
 大保川本川に重力式コンクリートタイプの本ダム、その左岸低標高尾根部を締切るロックフィルタイプの脇ダム、さらに脇ダム本体左岸側の沢部の浸透流対策として台形CSGタイプの沢処理工と、1カ所の現場で3種類のダム形式が採用された、全国でも珍しいダムである。

 発注者である内閣府沖縄総合事務局北部ダム事務所長の横森源治氏は「沖縄の人々は水不足で苦しんでいました。そこで、降水量の多い北部にダムを造って、水を供給しています。沖縄最大のダムは、総貯水容量5500万tの福地ダム。大保ダムは沖縄で2番目の規模のダムとして、総貯水量約2000万tのうち約1500万tが上水道に使われます。沖縄の1日の水使用量は約45万t。大保ダムはそのうち約9万5000tの水を供給できるので、水の心配はかなり少なくなるでしょう。
 施工技術としては、沢処理工は台形CSGダムを採用した世界初の本設構造物なので、完成までにはいろいろご苦労があったことでしょう。
 大保ダムは平成21年度の完成を目指しています、完成後はダムの個性化を図って、多くの人々に親しまれるダムにしたいと考えています」と語った。
 この現場で、前田JVは脇ダムと沢処理工の施工にあたっている。



※CSGとは、Cemented Sand and Gravelの略。石にセメントを混ぜて固める工法である。
 コンクリートと比較すると、強度 は小さいが、経済性、環境保全などの面で優れている。
※台形CSGダムは、「材料の合理化」「設計の合理化」「施工 の合理化」という3つの合理化により建設コストを縮減し、
 同時に環境負荷の軽減もできる新型式のダムである。

大保脇ダム作業所 課長 古野 宏幸 ダム工事総括管理技術者


社外的には発注者との折衝、社内的にはISOの取りまとめを担当しています。ダムの建設は自然が相手ですから、当初の計画通りにいかないときには、これまでの経験を生かして、発注者との折衝にあたって、施工をスムーズに進めることができるよう務めています。

 脇ダム近くの沢に貯留水が浸透すると、脇ダム下流に漏水が発生し、安全性を損なう恐れがある。その止水処理対策として実施した沢処理工は、台形CSGダムの理論に基づいて建設された世界初の構造物として注目されている。
 沢処理工に台形CSG構造が採用された理由は、他のダムタイプよりも経済性で優位であったこと、また台形CSGダムとして今後建設が予定されている億首ダムの施工方法の確立を図るという目的もあった。
 CSGは、河床砂礫や掘削土など、現場近くで容易に入手できる岩石質材料に粒度調整をせずに、セメント、水を添加した簡易な混合で製造されるセメント系固系材である。この現場では、M-Yミキサを練り混ぜ装置としたJIOCE式プラントを設置して、CSGを製造した。
 施工にあたり、まず台形CSGダム用プレキャスト型枠を開発した。
まず所定の位置にプレキャスト型枠を置き、ボルトにて調整、固定した後、流動性の高いモルタルを空間に充填して固定させた。これにより、端部型枠を使用せずに施工でき、施工サイクルの短縮につながった。

 数々の工夫を重ねて、沢処理工は、2004年6月に完了した。


※M-Yミキサとは、うどん練りの発想から生まれた連続ミキサで、
 混練ユニット間を移動するごとに圧延と重ねの2つの作用を併せて
 材料を混練します。

拡大図

大保脇ダム作業所 副所長

吉岡 一行

ダム工事総括管理技術者
技術士(土木)


台形CSGダムの施工においては、まずこの現場にある材料で所定の強度を出すことに苦労しました。また、JIOCE式プラントでは水分調整のため、練混装置であるM-Yミキサの側面から加水する方式や、岩石によって削られる部分にはボルトを入れてM-Yミキサの摩耗防止を図るなどの工夫をしました。

▼次のページへ