北山トンネル築造工事#1

 国道455号(仮称)北山トンネルの建設について、発注者である岩手県の盛岡地方振興局土木部長平井公康氏は、こう語った。
「盛岡市が開発した人口約3万人の松園ニュータウンから市街地へ向かう交通渋滞を緩和するために、昭和50年代前半に北山トンネルを計画。ところが、由緒ある寺院や山からの湧き水を溜めた高松ノ池があることから、着工までに20年もの歳月がかかりました。
 現場の地質が塑性化し易い状態のため解析が難しく、着工時から予想以上の難工事となり、現場の方々にご苦労をおかけしています。安全の確保は費用と関連の深い課題ですが、厳しい予算の中でよく対応していただいています。今後も安全に留意して施工していただきたいと思います。
 寺院や地権者の方々には情報を公開してご理解をいただき、見学者にはビデオをご覧いただいています。それでも、地質の難しさをご理解いただくことは難しい状況です。
 役所には、北山トンネルの建設費用が有効かつ適正に使われていることを説明する責任があります。そのための資料の作成には、今後ともJVのご協力をいただきたいと思います。
 北山トンネルの開通により、松園ニュータウンから市街地への所要時間が10~15分短縮され、交通渋滞の緩和が期待されています」

岩手県盛岡地方振興局
土木部長

平井公康



完成予想図

 建設中の北山トンネルは、国道455号の三ツ割側から北山側の国道4号に向けて、上り線延長923.5m、下り線延長950.5mの2本のトンネルを、山岳工法(NATM)※1で建設。北山側坑口付近は、2本のトンネルが離隔3.0m以内に近接した超近接トンネル※2となる。
 現場の地山は、中世代の付加体であり、なかでも破砕の進んだ混在岩(メランジュ)からなる軟弱な地質。しかも風化が進行しているため崩落しやすく、掘削が非常に困難である。
 トンネル掘削前、坑口法面の掘削整形中に崩落が発生。その法面を自立させるために、法面に吹付けとロックボルト、2本のトンネルの中間地山にアンカーを施工した。
 2004年8月23日、トンネルの掘削を開始した。掘削を開始してからも切羽の崩落が頻発し、2005年4月12日、陥没変状が発生。これにより約2カ月間、工事を中断した。
 工事再開を目指し、変状箇所の応急処置として、トンネル坑内はエアモルタルで閉塞し、崩落した地山を注入により改良した。さらに、地上からのボーリング調査、大学教授などの有識者を交えた原因究明に取り組み、対策を検討。その上で、地権者や近隣住民への説明会を経て、2005年6月17日に工事を再開した。

盛岡北山トンネル作業所
副所長 設計担当

櫻井孝臣

変状後、土木技術部設計Gから配属されました。着任したとき、この現場が軟弱な地盤の小さな崩落を許しながら、地山とギリギリのバランスを保ちつつ、安全性を確保して施工していたことに驚きました。泥質を主体とする混在岩(メランジュ)という複雑な地盤を肌で感じながら、これまでに前田建設が蓄積した超近接トンネルの施工実績を設計・施工に活かしています。

※1 山岳工法(NATM)
ヨーロッパで開発された工法。吹付けコンクリートとロックボルトで支保工を岩盤と一体化させ、地山の力を有効活用しながらトンネルを掘削する工法。掘削した土砂をトンネルの外に運び出すズリ出し、トンネルの外周を支える補強用のH型鋼を建込む支保工設置、コンクリート吹付け、棒状のトンネル補強材料であるロックボルト設置、防水シート張り、コンクリート覆工の順で施工する。

※2 超近接トンネル
日本国内には、超近接トンネルが3例ある。そのうち2例は前田建設、1例はハザマ組の施工実績。4例目となる北山トンネルは、前田建設とハザマ組のJVであることから、超近接トンネルの最先端の技術を駆使しているといえる。

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