北山トンネル築造工事#2

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 工事にはできる限りの対策をとり、切羽を安定させた。鏡(切羽の掘削面)と天端に、スリットを入れた鋼管を埋め込み、天端の崩落防止策、脚部の沈下防止策も講じた。
 さらに、閉合にも工夫した。通常の山岳トンネルは、上半(上部半断面)、下半(下部半断面)、インバート(底盤部分)の三分割で施工し、断面を円に近い形に仕上げる。これを閉合という。ところが、北山トンネルは地盤が軟弱なため、通常のベンチ(上半切羽と下半切羽の間の平らな部分)長30mでは地山がもたない。そこで、ベンチ長を3mとし、インバートを早く固めて地山を支える「早期閉合」に切り替え、荷重を支え、トンネル内部を安定させた。
 掘削は、下りを上りより100mほど先行させた。地表には、りんごや野菜の畑(土被り11m)、雑木の林(土被り15m)、家屋、市道、上水道があるため、用途に応じて沈下の許容範囲を設定し、掘削による地表面の地盤沈下をできる限り防いだ。特に、住宅5軒の真下を掘削したときは、計測器を設置して住宅の傾きを1000分の1に抑えるよう細心の注意を払った
 こうして、2006年7月26日、約2年かけて掘削した下り線が無事貫通し、北山から三ツ割へ盛岡の熱い風が坑内を吹き抜けた。
 また、トンネルの止水性を向上させてライフサイクルコストを低減し、寿命をのばすために、前田建設が独自に開発した
「ハイ・イータス工法※1」「高品質トンネル覆工締め固めシステム※2」という新技術も採用された。

盛岡北山トンネル作業所
主任 工事担当

加藤正人

私が今一番力を入れているのは、防水工法のハイ・イータス工法です。当社の技術研究所とタイアップして、トンネルの4分の1の区間をハイ・イータス工法で施工。この現場で最適な充填材を開発し、トンネルの品質を高め、寿命をのばすことを目指しています。協力会社から「ハイ・イータス工法は、作業効率を上げ、安全性を向上させる良い工法だ」と評価をいただき、うれしいです。

※1 ハイ・イータス工法
ハイ・イータス工法(High Endurance Tunnel-Arch Structure Method)は、高耐久性トンネルの構築を目的とした山岳工法(NATM)の防水工法。防水シートをシート張り専用の移動式型枠(セントル)の上にのせ、これを吹付けコンクリートに接近させ、シートと吹付けコンクリートとの空隙に裏込め注入材などを注入充填し、防水シートを吹付けコンクリート面の近傍に凹凸のない滑らかなトンネル形状に展張りする。

※2 高品質トンネル覆工締め固めシステム
従来は締め固めが困難だったクラウン部のコンクリート締め固めを可能にした新技術。長尺の棒状バイブレーターをコンクリート打設前にセットしておき、覆工の妻部までコンクリートを充填してからバイブレーターを稼動して締め固め、同時に妻部から自動的に引き抜くシステム。

底盤部分の施工を早めに行う早期閉合作業

 


 現場では、地域環境の保護にも取り組んでいる。工事排水は、三ツ割側坑口に集め、濁水処理して放水している。また、工事エリアにある希少な湧水を涸らさないよう工事中も完成後も、トンネル坑内の湧水をポンプアップし、還元する計画だ。
 さらに、トンネル工事は24時間体制のため、三ツ割側坑口に防音ハウスを設置。近隣への騒音・振動・防音対策を講じた。 工事に対する地元の理解を得るためには、地権者を対象にした住民説明会や現場見学会、地元の小中学生や高校生の見学会などを開催。地域住民との対話や交流の機会を持ち、工事への理解を得られるよう努めている。
 さらに、季刊「かわらばん」の発行、ホームページの開設、三ツ割の工事現場入口にインフォーメーションセンターを開設し、北山側の屋外には情報掲示板を設置して、情報公開している。
 2006年7月26日、下り線が貫通。上り線の貫通は2006年12月の予定である。
 北山側の出口付近の20mは超近接トンネルとなる。これほど軟弱な地盤での、導坑なしの超近接トンネルの施工は日本初の試みである。現場職員は、この難しいトンネル工事に果敢に挑戦し、やりがいを感じながら、完成を目指している。




盛岡北山トンネル作業所
課長 監理技術者

松原 健

現場の上には、直上に5軒、近接に2軒の住宅があります。この7軒に毎日連絡に伺い、ご理解いただきました。地元の三ツ割地区・北山地区のみなさんや小中学生、高校生の学生の現場見学会を開催したとき、小学生から「トンネルはなぜ丸いの?」という質問があり、働く車を見て「すごいな!」という声があがりました。待ち望まれたトンネルを造っていることにやりがいを感じ、仕事の難しさを乗り越えています。

盛岡北山トンネル作業所 所長 小松敏彦

 現場はミュージカルのようなもの。一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、職員も協力会社も含めて全員にポリシーを伝え、コミュニケーションをとり、公平に評価するよう努めています。仕事は有言実行を基本とし、常に自分の役割を理解し、積極的に取り組み、成果を挙げてほしいと伝えています。山岳トンネルの施工は、協力会社との連携で成り立つ危険と伴う仕事ですから、経験を積み人間関係を築いて、成長してほしいと願っています。

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