本河内低部ダム建設工事#1

TOP Report#1 Report#2 Construction REPORT 32

既設提体の天端より施工現場を望む

水道専用ダムに洪水調整機能を加えて、多目的ダムにリニューアル

 本河内低部ダム建設工事について、長崎県 長崎振興局 建設部 ダム室 室長 中野嘉久氏は次のように語った。
 「1982(昭和57)年7月23日の長崎大水害で死者・行方不明者299名という甚大な被害を受けたことから、『長崎水害緊急ダム事業』の一環として本工事を計画。市街地で住宅が多いため、長崎市水道局の本河内高部・低部ダムや浦上ダム、西山ダムといった水道専用ダムに、治水機能を持たせるように改良し、それに併せて河川の下流を改修することが、1983(昭和58)年に採択されました。すでに、西山ダムと本河内高部ダムの改修が完了し、現在、本河内低部ダムの改修工事を行っています。
 本河内低部ダムの特色は、1903(明治36)年にコンクリートダムとしては全国で2番目に完成し、歴史的価値が非常に高いことから1990(平成2)年度に歴史的ダム保全事業に指定されました。そこで、ダム本体を保存するために、全国初の『竪坑型トンネル式洪水吐き』を採用しました。この構造は、ダムの上流側に竪坑を掘削し、さらに水平にトンネルを掘削して、下流側に掘削した竪坑に連結するものです。
 さらに、堤体の上流側に新しいコンクリートを継ぎ足して厚みを増し、現在の構造上の基準に合うよう改良します」
 環境対策としては「ダムに棲んでいた生物をそのまま保存しようという趣旨で、2006(平成18)年に約1万1500匹弱の魚を低部ダムから高部ダムに引っ越し、2008(平成20)年には前田JVに残った魚を移動してもらいました。
 ダムに隣接する山はキイレツチトリモチ()という寄生植物の北限地なので、その生態を調査し、存在しないことを確認したうえで着工しました。また建設工事中は、カエルなどの生物のための池を残しています」
 発注の経緯は「総合評価の落札方式で、歴史的ダムの保存に合致した対応ができることや、市街地での騒音・振動・濁水処理など環境に対する提案を求めました。その結果、施工計画・技術提案と価格の両面で評価が高かったことから、前田JVと契約しました」
 前田JVの取り組みについては「私たちが考えていることに加えて、改良案の提案や綿密な工程管理をしてもらっています。歴史的なダムなので、今回の工事でさらに100年後、200年後のダムの品質を確保していただきたいと思います。無事故・無災害で完成させてください」と締めくくった。
 また、同ダム建設班 専門幹 野崎信氏は「市街地に隣接し、生活に密着したダムであること、既存施設を活用した工事であることから、地元のみなさんや技術者、行政関係者の関心が高く、多くの見学希望が寄せられています。工程管理が厳しい中ではありますが、見学会はPRにつながるので、今後も見学者に対応していただきたいと思います」と語った。

※国指定天然記念物であり、長崎市レッドデータブックにも記載されているキノコのような形をした寄生植物

生物を守るために残した池

生物を守るために残した池

魚の引っ越し

魚の引っ越し

長崎県 長崎振興局 建設部
ダム室 室長

中野 嘉久氏

長崎県 長崎振興局 建設部
ダム室 ダム建設班 専門幹

野崎 信氏

洪水吐き縦断面図・提体断面図 拡大

近代土木遺産の保護

余水吐きを横断する放水路橋は日本で最初のRC橋として、堤体同様、近代土木遺産に指定されている。その橋を傷つけないよう、ウレタンやビニールシートで保護している。また、工事による既設堤体への影響がないように、動態観測をしながら工事を行っている。

保護前の放水路橋

1903(明治36)年に完成した本河内低部ダムの前面は、歴史を感じさせる佇まいです。

▼次のページへ