本河内低部ダム建設工事#2

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明治時代の遺産を守りながら、新技術を加える

 本河内低部ダムは、神戸の布引五本松ダムに次いで、日本で2番目に建設された重力式コンクリートダムである。堤体の表面は、上流側は天然石張り、下流側は明治時代には貴重な材料だったセメントで作られたコンクリートブロックが全面に張られている。この近代土木遺産を大切に守りながら洪水機能を持たせる工事を行うことが、前田JVの使命である。
 浄水場を挟んで上流に高部ダムがある。その高部ダムの貯水利水容量を約36万m3から38.6万m3に増量して、水道用水を確保する工事を完成させた後、低部ダムに洪水調整機能を付加する工事が前田JVに発注された。
 着工前に長崎県が水抜きをしたが、その後二度の大雨で満水状態に。そこで、前田JVが2カ月半をかけて再度水抜きを行い、湖底に溜まった堆泥を石灰系固化剤を用いて改良し、約3万m3の泥を工事用道路の盛り立てなどに再利用することから建設工事を始めた。

洪水調節のために日本初の洪水吐きを建設

 水道専用ダムに洪水調節機能を付加するために、日本初の構造である「竪坑型トンネル式洪水吐き」が採用された。
 この構造は、上流側に呑口竪坑、下流側に減勢竪坑を建設し、その間をダム底から約20m下の位置に、長さ96m、仕上がり内径4.5mのトンネルで繋ぐというものだ。
 トンネルの掘削は、幅5.4m~6.3m、高さ5.3m~6.2mの馬蹄形だが、覆工は全線円形(Ø4.5m)の鉄筋コンクリート造で設計されている。2009年9月14日に無事貫通し、現在、覆工コンクリートを施工中である。
 2009年11月には、呑口竪坑本体はトンネルの上部あたりまでコンクリートを打設し、減勢竪坑本体はトンネルから少し下がったところまでのコンクリート打設が進んでいる。

既在の堤体に増厚部分を接合し、耐震基準を満たす

 「竪坑型トンネル式洪水吐き」の建設と同時に、既存のダムを現在の耐震基準に適応させるために、堤体の上流面側に増厚工事を行う。
 2009年11月5日から新設堤体のコンクリートの打設を開始。基礎掘削したあと、岩盤と堤体との隙間を埋めてある三化土()等を除去し、岩の部分をスポンジと雑巾で丁寧に清掃したうえで、コンクリートを打設している。
 品質の条件は新旧堤体の一体化である。要求された品質を確保するには、既存のダムに打ち込む構造鉄筋の長さ・太さ・間隔を決めることが重要だ。そこで、事前に現場試験を行い、その結果を設計に反映させている。
 増厚工事の完了後、常時満水ラインより標高の高い部分に天然石を張る計画だ。堤体の表面は景観に影響を及ぼすため、現在、石材や目地の色を慎重に検討している。
 また、高部ダムの新旧堤体間の埋め戻しも低部ダムの工事項目に含まれている。2009年11月末時点で、全体で3万m3のうち約1万m3の埋め戻しが完了した。
 工事完了後、工事用道路を撤去した土砂と、貯水池を拡幅掘削して出る約6万m3の土砂を、15km先にある大村湾埋め立て地に運ぶ予定だ。
 このようにして、2011年1月の完成を目指している。

※三化土は「セメント代用土」とも呼ばれている。長崎の三化土には、赤味のある玄武岩風化土(玄武土)が使用されている。

本河内ダム作業所

江頭 敏郎

1992年入社

 

宮崎県の天神ダムと山形県の綱木川ダムで、土と岩で造るロックフィルダムの建設を経験して、ここに来ました。この現場は私にとって初めてのコンクリートダムであり、リニューアル工事です。ここは市街地なので、地域住民のみなさまとお約束した作業時間内で効率よく施工するために、あらゆる状況を予測して十分に段取りをした上で施工しています。また、既存の堤体は約100年前に人力だけで丁寧に造られた土木遺産ですから、掘削の際は傷つけないよう細心の注意を払いました。こうして、長い間ダムの完成を待っている人々のために、しっかり建設しようと心がけています。

本河内ダム作業所

西 雅寛

2000年入社

 

シールドトンネル、建築の造成、ハイピア、地下ダムなどの施工を経験し、2009年10月にこの現場に赴任しました。堤体班の一員として堤体増厚の施工を担当し、洪水吐け班との取り合いに注意しながら工程管理をしています。日本ではダムのリニューアルが始まったばかりなので、日本初の工法についてみんなで知恵を出し合い、試行錯誤を重ねています。毎日堤体が上がっていくことも楽しみですし、これから堤体上流側の表面に張る石を選定し、新たな景観を創ることも楽しみです。品質を確保し、ダムリニューアルの技術を前田建設全体に水平展開していきたいと思います。

本河内ダム作業所

課長 吉本 雅利

1993年入社

 

入社以来、九州のトンネルや浄水場などの明かりの現場を半々ぐらい経験して、ここに来ました。ダムの施工は初めてですが、これまでのトンネル施工の経験を生かして、この現場の大きな仕事である「洪水吐き」の竪坑とトンネルの主担当をしています。NATMで竪坑型トンネルを掘削するのは前田建設としても私自身にとっても初めてですし、トンネルの断面が小さいこともこの現場の特徴のひとつです。作業は8時間体制なので、竪坑を下部と上部に分けて施工し、足場をなくすなど工夫して、効率を上げています。これからさらに100年以上使っていただけるよう、しっかりと施工しています。

本河内ダム作業所

土木係 東 克樹

2008年入社

 

就職活動の会社訪問のとき、経営状態がよく、環境に力を入れていて、職員の風通しもよく、女性も現場で活躍していることがわかったので、入社しました。ここは私にとって初めての現場です。洪水吐きトンネル担当として、吉本課長の下でトンネルの掘削から携わり、測量などを任されています。今は協力会社の職長の仕事を見て学んでいる段階ですが、現場の状況を即座に判断し協力会社の人たちを引っ張っていけるようになりたい、と思っています。私は大学院でコンクリートの研究をしていたので、コンクリート技師の資格を取得して、仕事に役立てることが当面の目標です。

本河内ダム作業所

事務係 武内 清哉

2002年入社

 

大学では経済を専攻し、経理などの実務は入社してから勉強しました。現在、この現場と建築現場の事務係を兼務しています。このように、いくつかの現場を兼務することが、現場事務の特徴です。本店や支店の事務は経理や管財などの専門的な仕事ですが、現場事務は庶務・経理などあらゆることをします。現場ごとに内容が異なりますが、ある程度任されて、自分で考えて行動できるので、やりがいがあります。仕事をするうえで私が心がけていることは、挨拶と時間厳守。入社してから2~3年は、先輩からたくさんのことを吸収しながら、元気よく仕事をして、成長してほしいですね。

本河内ダム作業所

副所長・現場代理人
(ダム工事総括管理技術者)

龍 博志

1989年入社

 

設計担当として東京湾横断道路や「海ほたる」の手元などを経験し、1993年から長期出張という形でダム建設に携わり、現場職員として栃木・長野・福島のダムを施工して、2008年3月にこの現場に赴任しました。以前はスクラップ&ビルドが主流でしたが、今後はこの現場のような既存の構造物を再利用するためのリニューアルの需要が高まるでしょう。この現場は日本のダム改修の先駆けなので、できるだけ若手職員に仕事を任せて人材を育成しています。前田建設の魅力である、協力会社の人々と苦楽をともにしてひとつのものを造り上げる人間臭さも、若い職員に引き継いでいきたいですね。

樹木の保護

ダムの下流側にある長崎市で一番古くて大きいナンキンハゼを、土塁で囲んで大切に守っている。

車両タイヤの洗浄

「工場のような現場」と考えて現場内の主要工事用道路はアスファルト舗装とし、毎日定期的に散水車を走らせて粉塵の発生を抑えている。また、すべての車はこの洗車用プールを通り、タイヤを洗ってから一般道に出ることを義務付けている。

土砂流出防止技術(マグストップ)

埋め戻しに使う土には前田建設が開発したマグストップを吹き付けて、降雨時の土砂 流出や強風時の土砂粉塵を抑制している。マグストップは環境に配慮した被覆材として、沖縄の大保脇ダムや愛知万博でも使用された。

新旧提体一体化のための
構造鉄筋

既存の堤体に構造鉄筋を打ち込んで、新設堤体と一体化しなければならない。2009年11月25日の段階で、全部で15,000本のうち、1,700本の構造鉄筋を打ったところだ。

濁水処理

上流側の、満水になっても水没しない位置に濁水処理施設を設置し、ダムの水抜きの時から活用している。現場の濁水すべてをここに集めて処理してから放水し、長崎市街地を流れる中島川をきれいに保っている。

現場見学会

本河内地区の住民のみなさんのための見学会をはじめとし、土木の日には160人もの見学者が訪れた。地元の見学会のあとは、写真を参加者に配布するなどして、コミュニケーションを図っている。

技術研究所との協力体制で品質を追求しています

本河内ダム作業所

所 長

布施 弘道

 本工事では、防音壁による騒音防止対策、既設余水吐きを掘削しないことを目的として、排気ボックスの掘削法勾配を急勾配にして施工する方法や超低騒音ブレーカー使用における効果確認の解析など、技術的に難しい点については、当社の技術研究所の支援を受けています。
 2つの竪坑は地下の作業から地上の作業に移り、竪坑の外側にも足場を組んで高所作業が始まります。安全を確保して工事を進め、近代土木遺産を大切に守りながら、高品質ダムの完成を目指しています。
 そして、この現場での経験を、今後のダムのリニューアル工事に繋げたいと考えています。

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