熊本合同庁舎A棟建築工事#2

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自主的な調査と施工法の工夫で品質を確保

 前田建設は、熊本合同庁舎A棟(地上12階・地下1階)建築工事を単独受注した。敷地は月星化成の工場跡地である。工場解体後に行われた二本木遺跡群の埋蔵文化財調査の資料を施工前に入手して、既存基礎の位置を図面化し、杭や山留めに干渉するものを先行撤去し、掘削時にはすべてを撤去した。また、受注前の地下ボーリング調査は建物中央の1カ所のみだったので、自主的に5カ所の調査をして支持層が傾斜していることを確認し、当初の山留め計画を見直した。
 2008年7月8日に着工。まず山留SMW(※1)工法で遮水壁を設置し、泥土処理には泥土低減工法を採用した。10月に地下掘削を開始し、ディープウェルで地下水位を下げながら工事を進め、半年間にわたり3万m3の地下水を汲み上げた。基礎杭には地中熱利用杭を採用。エコパイル(鋼管)の先端に蓋をして、鋼管の中に水を入れ、空調に地熱を利用する計画だ。

※1 SMW工法とは土(Soil)とセメントスラリーを原位置で混合・撹拌(Mixing)し、地中に造成する壁体(Wall)の略称。

外壁材のユニット化と仮設ゴンドラの採用で施工性を向上

 柱の鉄骨は3フロア分で1本、全部で5節とし、鉄骨の建方は、建物を東と西に分けて、東側を建ててから西側を建てるという方法で施工。外壁の品質を確保するために、鉄骨建方の精度には細心の注意を払った。そして、鉄骨を建てたあとを追うように、下の階から床コンクリートを打設していった。
 外壁には、タイルのPC版とアルミキャストという2つの建材を採用。当初、アルミキャストは足場を組んで外から張る仕様だった。しかし前田建設は、アルミキャストもユニット化すればPC版と同様に無足場で施工できると考え、鉄骨・鉄筋コンクリート造の1・2階のみ足場を組み、鉄骨造の3階以上には足場を組まず仮設ゴンドラを併用して施工することを提案。この工法が採用された。
 工場生産できる部分はできるだけ工場で作って精度を確保し、現場では設置するだけにする。このように工夫をして「良いものを、早く、安全に」施工している。

各官署のご要望に応じて快適な公務空間を創造

 2010年1月に防火水槽とオイルタンクを設置し、3月には外壁のシーリングを完了。4月には内装や配管などを施工した。
 新庁舎には6官署が入居するため、発注者である国土交通省九州地方整備局はもとより、6官署からも個別にご要望をお聞きし、設計が固まったフロアから順に施工している。また、屋上に気象台の天気観測デッキを設置するなど、各官署独自の施設も設置している。このようなことから、内装工事はすでに設計や仕様が決定しているエレベーターホールやトイレなど共用部の施工を先行した。
 また、市電電停と駐車場の双方から出入りしやすいよう2カ所に設けたエントランスも施工中である。
 2010年11月30日に完成し、品質検査を経て、入居が始まる予定だ。新庁舎が九州の行政サービスの拠点となり、地域のみなさまに親しまれる建物になることが期待されている。
 なお、この現場では前田建設の「環境経営」の理念に基づき、泥土や排水の処理から、資材の調達先の選定や搬入方法など、施工に関わるすべてに一歩踏み込んだ環境対策を講じ、職員と協力会社が一丸となって取り組んでいる。その成果が日本土木工業協会に認められ、表彰された。今後はこの取り組みを前田建設全体に水平展開し、「環境経営」を推進しようと考えている。

熊本合同庁舎作業所

監理技術者

副所長 宮田 哲志

1992年入社 千葉県出身

私は過去の同種工事の施工実績により、当工事の監理技術者を務めています。仕事内容は施工管理全般ですが、業務の大半は発注者、設計事務所、入居官署、行政との各種会議や打ち合わせ協議、見学者対応に時間を割いております。そのため、打ち合わせ内容を実務担当職員に正確に伝達し、施工に反映させることが重要です。この仕事の魅力は、皆が建物の完成といった同じ目標に向かって、チームワークにより、造り上げていくことです。当作業所のメンバーは自分の役割と責任を自覚しており、とても頑張るので安心して仕事を任せることができます。さらにチームワークがうまく結集されているので、自他共に認める品質の良い建物ができると思います。また、当作業所の積極的な環境への取り組みを社外より評価していただきましたが、これも作業所組織力の賜物です。安全第一で施工して品質を確保し、発注者はもとより、建物の利用者にもご満足いただきたいですね。

熊本合同庁舎作業所

現場代理人 工事課長
菅家 照典

1989年入社 福島県出身

2008年6月に東北支店から赴任し、鉄骨工事を中心として、外構を含めた金属工事を担当しています。外壁工事も含めて、品質の確保と施工のスピードアップに努めています。私が担当している仕事の中で、特にこだわったのは鉄骨の建て方です。これにより、外壁のアルミキャストとPC版の施工品質を確保することができました。また、施工は一定のサイクルで進むので、早い時期に施工サイクルを確立することにより、スピードアップを図りました。さらに、高い位置での作業は危険を伴うので、鉄骨の崩壊や吊りの落下、作業員の落下などがないように、安全管理を徹底しています。東北から九州に来たことで、材料の名称や足場のサイズなどに違いがあることがわかりました。東北では雪が降るので常に追われるように仕事をしていましたが、九州はあまり雪が降らないせいかあわてずおおらかに仕事をしているような雰囲気があります。このような地域性を知ることも、転勤の楽しさだと思います。

熊本合同庁舎作業所

工事課長 重岡 潤

1991年入社 福岡県出身

外装工事を担当し、所長の方針で「省力化と安全性」の両立に取り組んでいます。この建物はアルミキャストとPC版という2つの外壁材が採用されました。当初はアルミキャストを設置するために足場を組む設計仕様でした。それに対して、工場でアルミキャストをPC化して、3階以上は無足場で設置することを当社からご提案したことにより、良いものを早く安全に施工できました。この工法はほかの現場でも生かせるでしょう。また、この現場は社内外で注目されていることから、社内の勉強会が開催され、職員同士の交流ができたので、今後は職員同士で情報交換をしたいと思います。前田建設の良さである人情味を生かして発注者や協力会社との信頼関係を築き、多くの方々に喜んでいただける仕事をすると、思わぬパワーがわいてきます。そのパワーが仕事への意欲につながります。国の仕事はすべて点数で評価されるので、頑張って良い成果を残し、次の仕事への足がかりを作ることが、今の一番の目標です。

熊本合同庁舎作業所

工事課長 都甲 豊

1994年入社 広島県出身

私は主に内装工事を担当しています。まず受け取った図面関係をチェックし、施工スケジュールから逆算して内装工事のスケジュールを立て、協力会社に指示します。施工の直前に変更が発生した場合は、迅速かつ正確に対応するよう心がけています。これまでに、入居する6官署のご要望を実現するために、施工スケジュールの調整や再検討が必要になったこともありました。その際は、位置が決定しているエレベーターホールやトイレなどの共用部の施工を先に進めて、全体の施工スケジュールに影響のないよう調整しました。建築のおもしろいところは、やはり形のあるものを残せること。自分が施工した建物の出来映えがいいと、うれしいものです。前田建設の職員はみんな人柄がいいので、私は職場の人間関係で悩んだことがありません。そういう意味で、とても働きやすい会社です。

熊本合同庁舎作業所

工事課長 小杉 直彦

1997年入社 東京都出身

この現場には宮田副所長と2人で乗り込んで、全工程に関わってきました。全体の工程管理を中心に、現場事務所の位置や足場などの仮設計画から始まり、躯体工事全般を担当しています。工程管理の仕事としては、監理技術者である宮田副所長の補佐役として、定例会議で全体工程の進捗状況などの説明をしています。施工の面では、地下から2階までのSRC造のコンクリート型枠の統括を担当しました。この現場で最も苦労したのは、熊本市は非常に地下水の水位が高いので、地下工事の際、6カ月にわたり止水に取り組んだことです。また、隣接地で電停のサイドリザベーション工事などが同時着工したので、現場同士で調整しながら施工しています。私は現場で体を動かすことが好きなので、腰にバッグをつけて、自分が担当している作業に必要な工具を入れて持ち歩き、協力会社の人たちと一緒に建物を造っているという気持ちを示しています。それによって一体感を生み出し、良い建物を造りたいですね。

熊本合同庁舎作業所

野村 晃一

2008年入社 兵庫県出身

大学院で構造の研究をしましたが、机上で数式に取り組むより、現場で建物を建てたいと思い入社しました。ここが初めての現場です。赴任したときは更地でしたが、建物が形になるにつれて愛着がわいてきました。自分が携わった建物への思いは、入社前に街で工事現場を見たときとはまったく違うものです。現場での仕事については、トレーナーである小杉課長から指導を受けています。これまで全工程の写真撮影や記録などを担当してきましたが、ようやくエントランスホールやエレベーターなどの壁面の石工事を任せてもらえたので、責任を持って取り組んでいます。今の目標は、いいものを造ることと、協力会社の人たちに「また一緒に仕事をしたい」と言ってもらえるようになることです。建設会社の魅力は、誇りを持って生き生きと仕事をしている人たちからすごいエネルギーをもらいながら、形あるものを造れること。現場で一番誇れるのは職員です。この現場はすごくレベルが高いので、配属されて良かったと思っています。

仮説ゴンドラ

泥土低減工法

山留SMW(※1)工法は、止水性、施工速度ともに優れ、振動や騒音が少ない半面、泥土処理が必要だ。そこで泥土低減工法を併用して余剰泥土をリサイクルすることにより、従来の工法と比べ、泥土を1300tから600tに、54%低減した。

ディープウェル工法と濁水処理

熊本市は地下水が豊富で、地盤が砂層で透水性が高いので、地下工事の際は、地下水位を下げるためにディープウェル(深井戸)工法を採用。地下水は濁水処理プラントを通した上で、都市下水路経由で河川に放流した。

通い箱

タイルやボルトの搬入には通い箱を使用。各メーカーに搬入方法を提案し、資材の品質証明に関しては発注者様にもご理解をいただいて、リユースを実現した。ゴミの分別や再利用にとどまらず、一歩踏み込んでゴミの発生を抑制している。

TPMs(※2) Webカメラ

パソコンや携帯電話からの遠隔操作で、24時間リアルタイムで現場の状況を把握。

※2 TPMs(トータル・プロセス・マネージメント・システム)は、前田建設の登録商標。

環境対策表彰

2010年2月、日本土木工業協会の安全環境対策本部環境委員会から「公害防止・建設副産物対策優良事業場」として表彰された。

現場見学会

熊本大学工学部建築学科4年生の現場見学会では、鉄骨・PC工事や環境への取り組みをご紹介。地元の小川工業高等学校の見学会も開催した。

熊本市電工事

現場に隣接する道路では、市電の線路を歩道に寄せて、道路を拡幅する工事が始まったため、協議を重ねてスムーズに施工している。

単独受注のよさを活かし、工法や環境対応をご提案

熊本合同庁舎作業所

所 長

三輪 哲郎

1974年入社 島根県出身

 本工事は、熊本県と熊本市が構成する駅周辺整備事務所と一体となり、近隣住民や身体障害者団体などと意思疎通を図っています。
 また、現場で、現物を見て、現実を知る「三現主義」を徹底し、品質確保、コスト削減、社会全体によいことを心がけて施工しています。
 仮設計画の見直しや、品質を確保するために基礎工事に先駆けてボーリング調査を実施し、無足場で外壁を施工するなど、提案型の施工ができました。
 安全第一で高品質の建物を施工し、施工データを全社で共有できる形にして、次の仕事につなげたいと考えています。

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