前田建設ファンタジー営業部

PROJECT 08 前田建設ファンタジー営業部 「劇中の土質屋山田さんはどれくらい正しいのか」編 PROJECT 08  前田建設ファンタジー営業部  「劇中の土質屋山田さんはどれくらい正しいのか」編

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第2回:出撃! 山田さんって正しいですか!?(前編)

前回、格納庫の上の「水」を「土」に変えた場合の効果のほどを、どう検証するかお伺いしたわけですが・・・。
・・・読者の皆さんには専門用語、辛いですよね。私ですら眠いです。
映画やと、難しい単語の羅列でも、キャストの皆さんの魅力と、坂本英城さんの手による素晴らしい音楽で、楽しくなってるんやけどねえ。
ここはテキストのみの古典Webだから、大胆な比喩でイメージだけでも掴んでもらえるよう努力してみよう。ファンタジーのリアルすぎる追究で、一般の方を置き去りにしていくことが、ファンタジー営業部(以下、F営業部)の原点だったじゃないか!
・・・そうでしたっけ?笑 ま、これまでも難しいことをわかりやすくと、大胆な比喩を使いすぎて、土木や建築の先生から『あの表現はおかしい』と数々ご指摘いただいたこともありましたね。
ハイハイ!考えすぎて動かんのは一番いかんですよ!気楽にJSOLさんの検証結果、発表してもらいましょ!
カッチリ一体モノである『格納庫や飛来物』の変形解析にはメッシュ切りモデルの「FEM」、バラバラモノである『土』の動態解析には粒々を詰めたモデルの「DEM」を使ったのですよね・・・で、何が起きました?
JSOL山口さん
・・・その前に、「FEM」と「DEM」を繋ぐ、片側連成解析(陰解法)の説明もしないといけないんですけども。
・・・それまででも十分難しいのに片側連成解析を説明されようとするJSOLさんが素敵です。そして(陰解法)まで付けて話す、山口さんの真面目さも・・・。
そんなん・・・早い話、その2つをどないに繋いだか、っちゅう話やろ?
JSOL山口さん
そうです。連成解析とは、今回で言えば「FEM」と「DEM」の相互作用を考慮して解析する方法の一つです。考慮の仕方は大きく3つ。「強連成」「弱連成」そして「片側連成」ですね。
・・・「強」と「弱」は流れとして十分頷けるんですけどね・・・。
・・・そこに突然「片側」やからねぇ・・・。
JSOL山口さん
「強連成」は、互いの現象を1つの方程式にまとめ上げて一括して解く、より精度の高い方法。一方「弱連成」は、それぞれの現象を別々に解き、境界条件や圧力条件のデータを相互に受け渡す方法です。
例えれば、高級カレー店がそれぞれ、野菜カレー、ビーフカレー、チキンカレーときっちりルウから変えているのに対し、庶民派カレースタンドはルウがすべて共通で、中に入れる具だけ野菜、ビーフ、チキンと変える、そんな感じですね。
わかりやすいっすか、それ?高級カレー店が「強連成」、庶民派カレースタンドが「弱連成」ということを仰りたいのでしょうが・・・。
・・・気持ちはわかるがねぇ・・・。
JSOL山口さん
確かに「弱連成」は「強連成」よりも時間とコストは掛かりませんから、カレースタンドがカレーを出すためのスピードを考えれば良い例えかもしれません。精度は「強連成」よりも下がりますね。
ほら~、この際、カレーで良かったんですよ。
JSOL山口さん
最後の「片側連成」は別々に現象を解き、境界条件や圧力条件のデータにした後、片方にそのデータを受け渡します。相互に作用するのではなく、片方にデータを渡すだけです。今回はこの「片側連成」を使って検証をしています。
・・・はいDさん、これもカレーでお願いします。
リーズナブルな庶民派カレースタンドでは、お客様に出す直前のルウに具を入れるから、野菜にカレーが滲みることはない。まして、ルウに野菜の旨味が溶け込むこともないって感じで・・・。
(全く無視して)つまりあれですな、「片側連成」は一方通行やと。有無を言わさぬスパルタ上司と部下やがな。短期的にパフォーマンス上がっても、長い目では上がらんかもしらんですよ。

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スパルタすぎる片側連成の図(その1)
©2009永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

ボスからヌケ、ムチャの関係も片側連成だね。情報と指示はほぼ一方通行だからね。

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片側連成の図(その2)
©2009永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

そうそうその調子。やはり比喩はマジンガーじゃないと・・・。
JSOL山口さん
それでは、検証方法はご理解いただいたということで(笑)。いよいよ解析結果を発表したいと思います。
ちょっと待ってください・・・ここまでで一つ気になる点があるんやけど・・・。
数ある機械獣の中からなぜ「ガラダK7」を選んだのか、ですか?
それは光線や熱戦でない、物理的衝撃による特徴的武器を持ってるからやろ。それはわかるんや。・・・まぁ、山口さんの趣味かもしれへんけど。

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物理的衝撃を与える武器の使用状況
©2009永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

で、何が気になるんだい?
「水」やがな。ここまでの話は「土」ばかりで「水」がない。「水」の場合も解析せんと今回の仮説、「水」よりも「土」の方が強い、って話が結論できひんわな。
「水」は「DEM」なんですかね「FEM」なんですかね?
JSOL山口さん
もちろん「水」の場合も検証しますよ。山田さんの仮説の検証に不可欠ですから。

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JSOL山口さん
これが検証のために用意した「水」と「土」の解析モデルです。
さすが「JSOLファンタジー営業部」、抜かりはありませんな。
気のせいか山口さんの顔に、あの人のメガネと髭が見えてきましたよ。

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D職員は山口さんがこの人に見えるらしい
©2009永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

鉄壁のマネジメントで一体感ある光子力研究所は「FEM」で・・・。
・・・気ままな自由人が多いF営業部はさしずめ「DEM」で解析!・・・ってこれ何の比喩ですか?
俺は「FEM」ね。結構一体感には気を使ってるから。
JSOL山口さん
この後説明しますが、モデル化した「水」そして「土」にそれぞれ、「ガラダK7」の角ブーメランを飛ばすわけですが、検証には、様々な条件の設定が必要です。大きさはどれくらいなのか、スピードはどこまで出ているか等、が重要になってきます。
盛り上がりますねぇ。この条件を決めるところがF営業部の醍醐味ですもんね。
(ナレーター風に落ち着いた声で)・・・マジンガーファンの方を想い、懇切丁寧に一枚一枚、心を込めて静止画像をめくっていく・・・。
変なテレビショッピングの見すぎだな・・・。
動画から条件を設定していくJSOLさんの能力は日頃から鍛えているだけに、普通じゃないですから楽しみです!
JSOL山口さん
ありがとうございます。で、我々が設定した、飛んで来る「ガラダK7」の角ブーメランの「条件」の設定値は以下の通りです。

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JSOL山口さん
「ガラダK7」の全長を18mぐらいとしたとき、見た目のバランスから、角ブーメランの大きさを、高さ4.4m・幅3.5m・重さ652.7kgと仮定しています。
実際マジンガーと同じくらいやからなぁ。全長18mは分かるわ。重さは鉄換算?
JSOL山口さん
はい、角ブーメランの厚みは根元の部分で160mmとした場合の鉄の重さとしました。軽量化のため中空構造ですよ。
お・・・なんかもっと聞いてほしそうな表情ですね山口さん:笑 他にも色々、考えて下さったんでしょう?
JSOL山口さん
ばれました?今回もウチのエンジニアが楽しんで色々やってくれましてね、中空構造は機械獣、ガラダK7の動作のしやすさを考慮して出してます。
ほう・・・。
JSOL山口さん
というのもガラダK7は、頭という最も高い位置にあれだけの張り出しを付けてるデザインですから、角は相当軽量にしないとと思いましてね。首の細さも気になりますし・・・あと鉄板の厚さは10mmとしました。
1cmですか?
JSOL山口さん
ウチのエンジニアは自動車関係の仕事が多く、扱うのはmm単位の薄板。一方、土木・造船業界で扱うのはcm単位の鋼板。つまり今回の1cmは、我々にとって、かなりの厚物のイメージになるんですね。それゆえの設定です。
まあ、中空にしても重さは約650kg、その衝撃は軽めの軽自動車が飛んでくるのと変わらない、ということですね。
JSOL山口さん
厳密に言えば、マジンガーZよりも「ガラダK7」の方が大きいですが、おおよそ18mに設定しています。あくまで今回の検証のみの条件設定です。当然、アニメの映像も確認した上で、破綻が無い範囲で数値を導きだしているつもりです。
ここまで我々ファンの心理に配慮して下さる条件設定、皆さんに成り代わって、御礼申し上げます。
なあ・・・この「リアル」さの追求って誰得なんやろ?
ガラダちゃんやろか。それとも弓教授なんやろか?
それは、解析結果を労せずして手に入れられる方=光子力研究所だけでなくミケーネもそうだろう。改善できるからね。
ほな今回のF営業部は、特殊バリアでミケーネのアクセス禁止にしとかんと。
(ワクワクしながら)・・・どんなドメインでしょうね!ミケーネ帝国。
やっぱ「@hell.mycenae」やないか。いや案外ファンキーに「@kikaijyu.com」かも。
僕は積年の恨みが表れた感じで「@anti-kabuto.com」推しですね。
JSOL山口さん
(聞こえないふりをして)角ブーメランの変形はなし。時速100km/hで回転しながら飛んでくる想定にしています。
時速100km/h? 思ったより速くない気が・・・。
そうやね、ミケーネの人工知能なら、メジャーの名ピッチャー達のフォームは全て学習済みで、場合によっちゃガラダK7には有名投手のフォームをまねながら160Km/hくらい投げてほしいわ。
JSOL山口さん
それこそ200km/hでも音速でもいいわけです。その中でもアニメとのイメージの乖離が少なく、かつ今回の検証が破綻せずに分かりやすい数値・・・それを求めた結果が100km/hです。
破綻というのはつまり「水」と「土」の比較ができる範囲と?
JSOL山口さん
速度が上がれば運動エネルギーもあがり、何でも破壊しちゃいますからね。
200km/hでも検証はできるのですが、格納庫は必ず持たないとか、そういう結果になると思います。
なるほど。角ブーメランが「水」や「土」に止まる程度がよさそうですものね。破綻が少ない数字が100km/h・・・そもそも正解がない問題に、皆が納得できる答えを導き出すのって大変です。
回転速度が3.3567rad/sの理由って聞いていいですか?
JSOL山口さん
角ブーメランのエネルギーをもっとも効率的かつ局所的に与えることができる角度を考えたときに、ちょうど角ブーメランの折れ曲がった角ではないかと。つまり、折れ曲がった角の外側が格納庫の床にあたるように回転を与えたわけですね。角の出っ張りが格納庫の床面にあたる厳しい状況をあえて作ったわけですね。F営業部原作本の中にあるところの「常に『危険サイド』で考える」ということで。
いちばんきっついところが当たるように調整してくださったっちゅうこっちゃ。ありがたや、ありがたや。
JSOL山口さん
これで角ブーメランを飛ばす「条件」が整いました。「条件」が整ったところで、いよいよ解析に移るわけですが、「土」では「DEM」、「水」では「ALE※1」を使って解析していきます。
今、さらっとニューワード、仰いましたよね?
いや、今まで「水」の解析手法が出てこんかったから、いつ来るんやろなと思てたけど、ここやったか。
もはや何が来ても恐れないですよ。「ALE」・・・それって何ですか?
JSOL山口さん
やっぱり、しれっと流せませんでしたね(笑)。実は「水」の解析には、「DEM」でも「FEM」でもなく、「ALE」での解析が必要になってくるんです。
「一体」でも「バラバラ」でもない方法があると。
まぁ確かに、「水」は他と違って動きのシミュレーションが難しそうですもんね。今までの武器、「DEM」と「FEM」では力不足で無理だと?
JSOL山口さん
そう思ってもらって構いません。水の複雑な動きの解析にはどうしても「ALE」が必要になってくるんです。
もはや今まで共通だった「EM」の文字も残ってないですから、今までと全く異なる解析手法・・・高そうな壁が現れましたね・・・。
JSOL山口さん
できるだけ簡単に説明しますから(笑)。それでは、一度これまでの状況を整理してみましょう。現状の「土」と「水」の解析モデルをまとめたモノが、下になります。

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JSOL山口さん
「水」と「土」それぞれの解析方法と境界条件、角ブーメランの飛んで来る条件をまとめています。ちなみに、「DEM」の所に書いてある粒径:50mmというのは、敷き詰められた土、一粒一粒の直径の事です。今回の検証では標準的とさせてもらいました。
粒径50mm・・・我々からすると、もはや礫ですな。
まあまあ、そこはまずJSOLさんのご判断で。細かな土の検討は後からたっぷりできますから。
しっかし、この図があれば、「FEM」「DEM」「ALE」をどこでどないに使うかだけは、おかげさんで、よーう分かります。
JSOL山口さん
で、ご注目の新しい解析手法「ALE」を簡単に説明します。通常の有限要素、つまり「FEM」等では追跡できないような流動性の大きい解析対象に対し、物体を流体的に取り扱えるよう開発された手法が「ALE」になります。
資料を見ると「解析対象の連続体を領域の体積分率として与えることで解析を行う」とあるんですね。
直観的には「ALE」は有限要素の方の一種で、体積は常に一定だけれども、与えられた条件によって各メッシュの体積が変わる様を計算する、という感じですか・・・?
JSOL山口さん
そのとおりです。
よっしゃ、大体わかった気にはなれた。計算は大変や、っちゅうこっちゃ。
JSOL山口さん
例えばこれ、コンピューターで並列計算していますが、並列数で言っても「土」の解析の約12倍程度、時間はそれ以上に掛かっていますよ。ただ、「水」はCG化のために詳細な解析が必要で、我々のCGに対するこだわりのせいで、過剰に時間とコストを掛けてしまっている面はありますが。
今回の解析は、手間が掛かってるなぁ。本当に色々な解析方法を組み合わせる必要があるんですね。
「FEM」「DEM」「ALE」の3つの力が一つになるわけですね。
・・・それゲッターロボやんか・・・そや!、マジンガーにも、2つより3つが、しっくりくる方々がおったねえ

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二人より三人、な方々
©2009永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

JSOL山口さん
以上の考え方により設定条件と検証方法を決め、実際に角ブーメランを飛ばしてみた結果がこちらです!
水の場合はやっぱり角ブーメラン、格納庫にぶつかってしまうんですね!
解析の割に、それっぽい動きするねぇ・・・今までの難しい話は分からんかったが、凄い、っちゅうのはわかった。
様々な条件をこだわって計算した結果と思うと感慨もひとしおだ。
JSOLさんのお客さんって、ちょっとうらやましいですよ。毎回、解析結果に興奮できるんでしょうから(笑)。
僕ら今、感動において「強連成」ですよ。一体です(笑)。
JSOL山口さん
ちなみに「土」のアニメですが、飛び散っている「粒」も当然、物理演算した結果です。実は我々「何粒飛び散っているか数えてみよう」という意見も出たぐらいで(笑)。他にも、角ブーメランの加速度応答の検討もしているので、こちらも見てください。

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JSOL山口さん
水色のグラフは「水」の場合ですが、0.4秒近辺で上に振り切れていますけど、これは「水」が角ブーメランを減速させ切らず壁ないし床に接触してしまっていることを示してます。このように、アニメーションの作成だけでなく、知りたい結果を取り出して検証できるところも、きちんと「FEM」「DEM」「ALE」を連成解析しているからできることですね。
この解析結果、映画の中の山田さんにぜひ、見せてあげたいなあ。
きっと、あの誠実な感じで『好きです、片側連成が。』とか言って感動してくれるんだろうねぇ。
あのう・・・『空想世界通信装置』って、実写映画の世界とも通信できるんですかね?
・・・そういや、これまでアニメにしか使うてこなかったな、あれ。試してみるか? ええアイデアや。
おいおい、それなら今回装置を使うべきは、本業の傍ら、こんな全力で検証していただいた「JSOLファンタジー営業部」の皆さんだよ。
そうですね。JSOLの皆さんに映画「F営業部」の世界に行ってもらいましょう。
僕らはやっぱりアニメの中の世界がしっくりきますもんね。「超合金Z」なんかを検討する方が性に合ってます。
ま、その辺もいずれ「JSOLファンタジー営業部」にお願い致しましょ。
JSOL山口さん
(二人のやり取りに微笑しながら)まずはこの解析で「水」より「土」が衝撃吸収力に優れ、山田さんが正しいことは証明できましたから、この後は山田さんのために、どのような「土」が角ブーメランの衝撃を一番吸収してくれるのか、「DEM」をさらに使って考察していきたいと思います。
これは・・・前田の技術陣も黙っていられないでしょうね、次回。
さらにマニアックになるんかい・・・次回もよろしゅう頼みます!

※1 ALE:Arbitrary Lagrangian Eulerian

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