前田建設工業株式会社(本社:東京都千代田区、社長:前田操治、以下、「当社」)は、山岳トンネルの発破掘削における装薬作業を機械化・自動化し、作業員が切羽直下に立ち入ることなく、遠隔の装薬機の運転席からワンマンオペレーターで行うことができる自動装薬システム※1を搭載した『3ブーム自動装薬専用機(以下、「装薬機」)』を開発し、安全性と生産性の向上を実現しました。
また、全自動ドリルジャンボ(以下、「全自動ジャンボ」)との無線通信による穿孔データの連携、フィーダー(装薬パイプを送り出す機構)の駆動を電動化し位置合わせの精度を向上したほか、送り出し機への圧力制御機能の追加、爆薬に雷管を取り付けた薬包「親ダイ」に生分解性樹脂を使ったカートリッジを採用することによる環境への配慮なども実装しました。
写真-1 3ブーム自動装薬専用機 完成後試験状況
山岳トンネル工事において、掘削の最前線である切羽(トンネルの地山が露出する掘削面)は岩盤が露出しており、切羽では岩石の落下などによる肌落ち(切羽における落石)災害が発生する恐れがあります。火薬類の装薬作業と、支保工の建込み作業は、切羽直下で作業を行うため、肌落ちによる重篤災害につながる危険性がある作業であり、切羽事故の8割を占める作業です※2。
当社は、肌落ちによる重篤災害につながる切羽直下への作業員立入”ゼロ”に向けて「全自動鋼製支保工建込みロボット」※3を開発し、当社山岳トンネルの複数現場に導入を進めています。この鋼製支保工建込み作業と同様、切羽直下へ作業員が立ち入る必要のある火薬類の装薬作業を機械化すべく装薬機の開発を進めてきました。
【本機の特徴】
〇全自動ドリルジャンボとの穿孔データ共有
切羽に穿孔した装薬孔の情報は、全自動ジャンボから装薬機に転送されます(図-1)。本機は、全自動ジャンボから送られてくる孔位置や、差し角(穿孔する角度)などの情報を基に、装薬孔への最適なアプローチを行います。また、装薬機に送られる穿孔長の実績を基に孔尻位置を把握することで、孔奥までの確実な爆薬装填を実現します。
図-1 穿孔データの連携
〇細やかなフィード制御
フィーダーの駆動方法を、これまでの油圧式から電動モーターを用いた直動機構を採用することで、親ダイ装薬時や、親ダイ以外の爆薬である増ダイ装薬における装薬パイプ送り速度、および送り出し長を精密に制御することが可能になりました。その結果全自動ジャンボから送られる穿孔実績に対して、より正確な切羽奥行方向の位置合わせを実現しました。
〇親ダイと増ダイ
親ダイは紙巻含水爆薬と非電気式雷管(導火管付雷管や無線電子雷管)の組合せとし、先端コーン(位置合わせ誤差・孔荒れ対策)と生分解性樹脂管(収納・把持機能)に内包してカートリッジ化しました(写真-2)。親ダイカートリッジ外装に生分解性樹脂を使用することで、時間経過とともに分解されるため、トンネル掘削ずり(トンネル掘削後で出る破砕された岩塊)への産業廃棄物などの異物混入を防ぐことができます。
増ダイは粒状爆薬(含水爆薬やANFO)にする事で、エア圧送による機械装填が可能になります。また、粒状爆薬のため、密装填効果により込め物(増ダイ装薬後に続いて装填する砂や粘土)を詰める作業が不要になります。
写真-2 親ダイカートリッジ
〇異常発生時の緊急停止
装薬機には圧力などを検知する計測器類が内蔵されており、自動での装薬作業中に爆薬や装置にかかる負荷を常時モニタリングでき、過度な爆薬の押し込みや切羽との接触など、異常を検知すると自動でシステムが緊急停止する仕様となっているため、安全に装薬作業ができます。
〇生産性と安全性の向上
一般的な装薬作業では、5名程度の作業員が切羽直下に立ち入り、数多くの装薬孔に火薬類(親ダイ、増ダイ、込め物)を人力で装填していました。これらの作業を装薬機運転席からかつ、ワンマンオペレーターで行うことができるため、作業における安全性と生産性の向上を実現します。
当社は現在、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にて無線電子雷管システムの社会実装と標準化にも取り組んでおり、無線電子雷管を適用することで結線作業も省略することができます。今回開発した装薬機を無線電子雷管適用型への改良も進めており、安全性に加え、山岳トンネル発破掘削作業の更なる効率化・省力化を目指しています。
今後は、装薬機を山岳トンネル現場に導入し、更なる改良を進めていきます。
※1 自動装薬システム(当社開発技術:2022/9/12リリース)
①親ダイ供給機構、②位置合わせ機構、③送出し機構、④増ダイ供給機構で構成された爆薬を自動で装填するシステム(https://www.maeda.co.jp/news/2022/09/12/5360.html)
※2 (厚生労働省)山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149309.html
※3 全自動鋼製支保工建込みロボット(当社開発技術:2022/9/6リリース)
山岳トンネル工事において、地山を保持するアーチ形状のH型鋼材である鋼製支保工を自動で設置することが可能な機械(https://www.maeda.co.jp/news/2022/09/06/5338.html)
<問い合わせ先>
前田建設工業株式会社
経営革新本部 広報部
E-Mail:maeda-release@jcity.maeda.co.jp
自動装薬システムを搭載した『3ブーム自動装薬専用機』が完成 ~ドリルジャンボとの穿孔データ連携により装薬一連作業を自動化~