由良川水系滝の尻川
西紀ダム堤体建設工事#2

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伐採、掘削と並行して
コンクリートの製造設備を設置

 平成24年3月に着工し、測量と伐採を開始。5月20日から掘削工を開始した。
 ダムは、上流から下流を見たときに、右側を右岸、左側を左岸と呼ぶ。本工事では、右岸の山の頂部からダムと山が接触する岩盤が出るまで掘り下げ、掘削が終了した頂部から法枠で法面を保護していく。左岸も右岸と同様の工程で作業を進め、掘削土は付替県道の建設に利用する他、下流側の埋め戻しに活用する計画で、残りも場内で利用した。
 一方、7月から9月上旬にかけて、コンクリート製造設備「バッチャープラント」、セメント300tを貯蔵する「セメントサイロ」、コンクリートの材料である砂や骨材の貯蔵設備を設置し、コンクリート打設の準備を進めた。
 ダム本体の河床部や減勢工部の掘削も順調に進み、9月上旬には掘削を完了。現場への進入道路の切り替えも済み、右岸・左岸の法面保護工の終了後、兵庫県の在来植物の種子を混ぜた土を吹き付け、苗を植えて緑化した。

拡張レヤー工法にて堤体のコンクリート打設状況2012/10/12

機械の大型化と冬期敢行で最速打設に挑戦

 両岸の岩盤に付着した土砂や粘土を水で丁寧に清掃し、発注者による岩盤検査を受け、9月27日から拡張レヤー工法でコンクリート打設を開始した。
 本工事の当初計画での工期は3年で、150tクローラクレーンと3.0m3のコンクリートバケットを使用する予定であった。ところが工期が2年に短縮され、工期が非常に厳しくなった。地元のみなさまとお約束した7時から21時までの打設時間を守り、短い工期内で施工するために、打設設備のランクアップを提案。200tクローラクレーンと容量4.5m3のバケットを導入し、バッチャープラントで製造したコンクリートをベッセルダンプでバケットに搭載し、クローラクレーンで打設箇所まで運搬することで、当初計画の1.5倍速でのコンクリート打設を可能にした。
 篠山市の冬は寒さが厳しい日本海側気候だが、冬期もコンクリート打設を継続。コンクリートの品質確保のために、骨材貯蔵庫をシートで囲んでヒーターで暖房し、水はヒートポンプで温めタンクに貯蔵。型枠は保温シートで保護し、温水を使って湛水養生を行った。

PCa監査廊設置完了状況2012/12/22

PCa監査廊を採用。3回の転流工で河道を変えて施工

 11月から両岸で、基礎岩盤にセメントミルクを注入して空隙を埋め、基礎岩盤の強度を改良する「グラウチング」を開始。セメントミルクは、現場ヤードで製造している。
 12月には、ダム完成後、点検や測定を行うための監査廊の設置工事を開始。監査廊には前田建設が宇奈月ダムで日本で初めて施工したプレキャスト方式を採用し、省力化と工期短縮を実現した。
 また、ダム工事では「転流工」により川の流れを変更しながら施工する。本工事では「転流工」を3回実施。平成24年5月には、右岸を掘削するために、直径1.2mの鉄管を埋めて河道を右岸から河床部へ切り回した。8月には、河床部を掘削するために、右岸側に幅2.5m・高さ1.4mの鋼製水路を設置。平成25年2月には、ダムの中に「仮排水路」トンネルを造り、直径1.2mの硬質ポリエチレン管を通した。
 平成25年5月以降に周辺の整備工事を開始し、7月にコンクリート打設完了。10月には仮設備を撤収し、11月から平成26年3月までが試験湛水期間となっている。地元のみなさまのご期待にお応えするために、全工程の安全と周辺環境に配慮し高品質のダムを建設している。

堤体の打設箇所にコンクリートを搬入したあと、バイバックで振動を与え、コンクリート内の不要な空気を除き、骨材を均等に分布させてコンクリートを締め固め、品質を確保しています。

バッチャープラント

ダム現場のヤード内に設置するコンクリート製造設備。セメント、砂、骨材、水、混和剤などをミキサーに投入し、均質なコンクリートを製造する。ダム用コンクリートには火力発電所から排出される石炭燃焼後の副産物「フライアッシュ」も混入し、長期強度・耐久性の増進などを図る。ここでは主に関西電力からフライアッシュを購入し、関西圏内での活用に協力している。

クローラクレーン

平常時は静かな山間部での工事なので、低騒音型クローラクレーンを採用し、環境に配慮している。

濁水処理施設

現場で工事に使った水は、沈殿池で砂分やレキ等を沈殿させて濁水処理施設でPHと濁度の調整を実施し、再び工事に利用。コンクリート製造には川や沢から集めた水を上流の貯水池に溜めて利用している。

PCa監査廊搬入状況

岡山のPCa工場で均質に製造したコンクリート資材をクローラクレーンで吊り上げて搬入。現場で組み立てて作業を削減。量産が難しい部分は在来工法で施工した。

監査廊内部

PCaと在来工法で施工されたトンネル内部では、コンクリートが固まる際に発する熱と湿気が感じられる。完成後は地震計などが設置されるほか、ダムの安全性をチェックする重要な設備である。

骨材貯蔵庫

骨材は大きさごとに貯蔵し、必要に応じてバッチャープラントに運搬する。本工事では比重の重い骨材を使い、ダムの品質を確保。冬期間はシートで囲み、ヒーターを使って、骨材を温めた。

定礎式

平成24年11月25日に定礎式を行い、ダム底部に礎石を据え、地元の小学生が将来の夢を書いた「メモリアルストーン」を添えて、ダム工事の安全とダムの永久堅固を祈願した。

バリアフリー展望台

どなたでもダムを一望できるよう、階段のないバリアフリーの展望台を設置。地元見学会や小学生見学会などで活用している。

 

西紀ダム作業所
工事係

野中 康平

2012年入社 福岡県出身

総合建設会社でもの作りをしたいと思い、多くのダム建設の実績のある前田建設に入社しました。そして最初の現場でダム建設に携わることができ光栄です。現場では主に測量を担当し、先輩からマンツーマンで指導を受けながら1つひとつの仕事を覚えているところです。また、スムーズに施工をするには作業員さんとのコミュニケーションが大切です。私の親と同世代の作業員さんが多いのですが、私と同郷の九州出身者が大勢いるので相通じるところがあり、コミュニケーションが取りやすく助かっています。社会人として初めての仕事ですが、ダム建設にとてもやりがいを感じています。この現場でダム建設の実務を学び、施工スピードをつかめば、きっとこれからどんな現場でも頑張れる。そう思って日々の仕事に取り組んでいます。

西紀ダム作業所
工事主任

倉島 雅弘

2005年入社 東京都出身

ダム建設は、沖縄、宮崎に次いで3現場目です。以前のダム現場では5年を要したダム建設の全工程を、ここではわずか2年で施工するので、施工スピードに圧倒されています。私の担当は現場施工管理です。JVで決めた工程を作業員さんに説明し、作業員さんのアイデアを活かして効率よく施工しています。例えば、バケットを受ける台車の位置を200tクレーンと連携しやすい場所に移動して作業性を高めたことは、作業員さんからの提案の1つです。また、ご高齢の方にも現場を見ていただけるよう、展望台をバリアフリーにしました。地元の業者さんにダムの全容をご覧いただいたとき「こんなにできたんですね」と感心していただき、うれしかったです。沖縄の大保脇ダムでは「ロックフィルダムの建設では資材の運搬が命」であることを実感し、この現場では「コンクリートダムでは仮設備が一番大事」で、仮設備ができないとコンクリートを打設できないことを学び、大きな収穫を得ました。今後も全国各地の現場で地元の人々と交流しながら、経験を積もうと思っています。

西紀ダム作業所
工事課長

浅井 秀明

1993年入社 北海道出身

トンネル建設7現場のほか内勤も経験しましたが、ダム建設はこの現場が初めてです。ここでは機電、技術提案、発注者対応、広報紙作成などを担当。コンクリートダムの施工では仮設備の整備が重要なので、工事の進捗状況を把握して次の工程に必要な設備を段取しています。技術提案は20項目あり、提案書を基本としつつ、発注者様と話し合いながら施工をしています。例えば冬期のコンクリート打設では、コンクリートの配合、型枠、養生などの対策をご提案しました。また、工事の進捗状況を一般の方々にわかりやすく説明した広報紙も毎月作成し、地元のみなさまに配布しています。発行当初は各自治会での回覧でしたが、ご要望に応じて全戸に配布するようになりました。建設業の魅力は、もの作りそのものだけではありません。発注者様や地元の人々との出会いも魅力の1つです。工期が長ければ人々との交流にも厚みが増します。今回は2年という短い工期だったため、機会があればもっと工期の長い現場でじっくりダム建設を味わいたいと思っています。

西紀ダム作業所
事務担当

八十 明男

1990年入社 兵庫県出身

私は入社2年目に九州支店に配属され、関西支店に赴任して2年目です。支店ごとに仕事の仕方も雰囲気も少し異なるのでまるで違う会社のようですが、いろいろな支店を経験することで多くの職員とつながりができるのが楽しみです。事務方は通常いくつかの現場を兼務します。私はこれまでに土木や建築の現場を経験し、現在はこの現場と他の現場の2現場を兼務しています。この現場は工期が短いのですが、工期の長い大規模なダムと内容的には同じなので、奄美大島の大和ダムでの事務経験が活きています。骨材など日々納入される資材の納品伝票の処理などの日常業務は、現場事務所に常駐している女性職員に任せて、私は経理・庶務全般を見ています。事務方の仕事には、現場の安全管理や、地元の人々と交流し工事見学やイベントに参加することなども含まれます。直接施工にかかわるわけではありませんが、技術者をバックアップすることでものづくりに携わることにやりがいを感じています。

西紀ダム作業所
副所長(監理技術者)

杉野 裕之

ダム工事総括管理技術者
1995年入社 奈良県出身

これまで岐阜県、広島県、岡山県などで、ロックフィルダム1カ所とコンクリートダム5カ所を建設しましたが、乗り込みから現場に入ったのはこの現場が初めてです。ダムはスケールが大きく、完成後も全容を見ることができるのでやりがいを感じます。通常のダム現場は工期が長く、今まで全行程に携わることはできなかったのですが、ここでは監理技術者として工事全般を担当し、2年という短い工期で掘削から竣工後の湛水までを見ることができます。基礎岩盤が想定より早く出て掘削量が減ったことなど、設計変更がいくつかありますが、契約金額が増減されることはありません。したがって、工事金額の変更に応じてダムに付随する周辺整備の工事量を調整するため、発注者様とコミュニケーションをとりながら早期に設計変更を決めるよう心がけています。前田建設では、現場に出て自分の目で確かめながらもの作りをする「現場主義」が受け継がれています。この現場主義を大切にして、後世に残るダムを完成させるために頑張っています。

西紀ダム作業所

所長

稲村 聡

25カ月の短い工期を守り、
有形無形の前田のよさを伝えたい

 本工事の特徴は、着工からコンクリート打設まで6カ月、コンクリート打設期間が9.5カ月、実質1年7カ月という短い工期です。前田建設がこれまでに100以上のダムを造り、先輩から受け継いだ多くの技術と私の経験を活かして、考え得る最も速いペースでコンクリートを打設しています。
 また、地元のみなさまへの対応も大切にし、形にならない部分でも前田建設のよさを感じていただけるよう努めています。
 この現場ではダム建設のすべてを短期間で経験できるので、職員には現場に出て自分の目で施工状況を確認し、その経験を将来に活かしてほしいと思います。

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