肝属中部(一期)農業水利事業
荒瀬ダム第四期建設工事#2

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ダムサイト直上の原石山から
花崗岩を採取

 前田JVは2004年3月、本工事に着工した。一期から三期工事で基礎掘削工までを完了し、現在の四期工事で2014年3月の荒瀬ダム完成を目指している。ロックフィルダムの施工は大きく4つの段階に分けられる。
 転流工事は、2004年に開始。ダムを建設する場所に川が流れていると工事ができないので、川の流れを一時的に切り替える工事だ。通常は1つの迂回ルートを確保すればよいのだが、荒瀬ダムでは河川勾配が急なので、ダム工事現場を迂回するように右岸仮排水路と左岸仮排水路という2つのルートをトンネル掘削して造った。
 2008年3月に原石山掘削に着手。ダムサイト直上の山からダムの築堤材料となる花崗岩を採取している。採取の途中で原石山の法面変状が発生したため、発注者様や設計コンサルタントと共に対策工を検討・実施し、築堤材の必要採取量を確保できる掘削計画に変更して施工を進めている。

原石山での採石状況

ダムサイト直上にある原石山に発破をかけ、堤体の築造に使う花崗岩を採取。45tの超大型ダンプトラックに積載して堤体に運び、作業効率を高めている。

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監査廊の施工は前田のPca(プレキャスト)で効率アップコンクリートの製造設備を設置

 堤体掘削工事は、強く安定した堤体を築造するために、固い岩盤が出るまで基礎を掘り下げる工事だ。荒瀬ダムの掘削土は約130万?で、11tダンプトラック30万台分にのぼる。この土を志布志湾に運び、帰りにコア材となる土を有明から搬入して、効率よくダンプトラックを運行した。
 2011年7月から洪水吐コンクリート工事を開始。洪水吐はダムの満水面部に設置した堰を超える流入水を安全に下流に流すための水路である。この工事では打設したコンクリートの品質確保に努めている。
 同年10月、前田建設独自の技術であるプレキャスト化による監査廊コンクリート工事に着手した。工場生産した部材を現場に搬入し組み立てることにより、施工スピードを上げ、高品質を確保し、安全性も高めることができた。ロックフィルダムの監査廊はダムの下に位置する。堤体中央部から施工を始め、右岸と左岸双方向に施工を進めた。

グラウチング施工状況

監査廊の中に機械を設置して穿孔してセメントミルクを注入し、監査廊と岩盤の空隙を塞いでダムの強度を高めています。

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PCa監査廊施工状況

監査廊のPCa化は、前田建設が宇奈月ダムで日本で初めて施工した工法。省力化により工期を短縮し、高品質を確保している。

 

原石山の地山管理

地山の動態観測を実施し、必要な追加調査や対策工を発注者と協議し、適切な施工管理を実施している。

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45tダンプトラックで土や石を運搬し
堤体を築造

 2011年、基礎処理工事に着手。岩盤の亀裂にセメントミルクを注入して空隙を埋めて基礎岩盤の強度を高め、ダムの下や周辺から水が漏れないようにした。
 2012年3月いよいよ盛立工事が始まり、同年10月10日に定礎式を行った。岩や土を薄く捲きだし、重機で振動や転圧をかけて締め固め、下から水平に積み重ねていく。4月から9月は雨が多いので計画通りに施工することが困難だ。ところが雨の合間の晴天の日はすぐに土の表面が乾燥するので、散水して水分を補給するなどして堤体の品質を
確保した。また、現場ヤード内での土や石の運搬には45tダンプトラックを使用し、作業効率を高めている。こうして3年をかけて施工した荒瀬ダムは高さ65.6m。これは18階建てのビルの高さに相当する。
 ダムと並行して別工事であるパイプライン埋設工事やファームポンド(農業用貯水タンク)設置工事も進んでいる。2016年に一部地域から通水が始まり、ダムに蓄えた水をパイプラインでファームポンドに送って貯水し、シラス台地の畑地にスプリンクラーで散水し、農作物を育てる。すでに受益地で栽培する農作物の研究も行われ、肝属中部地区が一大食料生産地になることが期待されている。

リップラップ施工状況

フィルダムの堤体の一番外側を原石山から採取した花崗岩で覆い、ダムを保護する。
まず500mm?1000mmの岩を並べ、その隙間に小さい石を詰めていく。上流側は凸凹に石を積んで貯水池の波から堤体を守り、下流側は整然と石を積んで堤体保護し美しい景観をつくっている。

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農業体験と見学会

2006年10月、波野小学校の児童と保護者を招いて開催。事業概要の紹介、ダム建設現場や使用重機などの説明のあと、さつまいもの収穫も行い、好評をいただいた。

 

設計の要求を把握し、
地元や環境に配慮して、
ダム工事をしています。

荒瀬ダム作業所 所長 今坂 成史<写真>

荒瀬ダム作業所 所長

今坂 成史

 

 私は20年間、農林水産省様のダム建設に携わってきました。発注者様の要求を先取りし、地元の方々や環境に配慮して「また前田建設と仕事がしたい」と思っていただけるような仕事をすることを心がけています。
 また、ダムというものは総合技術が要求されるため、地質、水、設計、施工まで、すべてを把握した技術者の育成が必要です。このことは、土木工事一般にも通じることと思っています。そういう意味でも、現場の職員にはこのダム工事を通じて土木技術者として、また前田建設の職員として成長し、活躍してほしいと願っています。

 

木下

荒瀬ダム作業所
土木係員

木下 拓也

2012年入社 福岡県出身

大学で構造力学や土質の勉強をし、前田建設のスリランカのダム現場を見て入社しました。新人研修後この現場に赴任したとき、掘削が終わり盛立てが始まる現場を見て「大きい現場だな、これからどうなるのだろう」と思いました。1年目は堤体の盛立てを担当し、高さ管理と品質管理を先輩に教えてもらい、材料品質管理には大学で学んだことを活かしました。2年目は構造物のコンクリート打設を担当し、2013年4月から6月は監査廊、6月からは洪水吐きを担当し、管理基準値を確保しています。施工中の問題を予測することはまだ難しいので、先輩の仕事を見てスムーズな施工に必要なことを1つずつ学んでいるところです。目指すことは同じでも、作業員さん一人ひとりの施工の仕方が違うので、コミュニケーションをとりながら時間と施工性に重点をおいて施工の仕方を決めています。鉄筋を組み、型枠を立て、コンクリートを打設し、型枠を外したとき、設計どおりにできている。この当たり前のことがきちんとできるのは素晴らしいことです。スリランカでダム建設を見たときは大きさに圧倒されましたが、今ダムを見ると自分なりに施工のしかたを考えるようになりました。今の目標は、うまく段取りをして安全を確保し、2013年中に洪水吐けの施工を完了させること。将来は海外でもいろいろな仕事をしてみたいと思っています。

松田

荒瀬ダム作業所
土木係員

松田 直樹

2009年入社 鹿児島県出身

ダムや橋など大きいものを造りたいと思い入社し、初めての仕事がこの荒瀬ダム建設工事です。2009年4月から2011年8月までこの現場に携わり、2011年に新潟・福島県境のダムで豪雨によりダムにたまった土砂の除去工事を経験し、2012年1月に再び荒瀬ダムに戻ってきました。この現場に最初に赴任したときは基礎掘削を担当し、測量や工事記録などに取り組みました。基礎掘削では、岩盤によって火薬の使用量が異なり、それが工事金額に影響するので、どの高さでどういう地層が出たかを確認して記録しなければなりません。入社1年目は課長の指示に従い、改めて地層の勉強をしながら仕事をし、2年目にはその作業を一人で行えるようになりました。2012年1月からは、洪水吐きの工事を担当。最初に赴任したとき洪水吐きの掘削をし、少しコンクリートを打設したところだったので、戻ってきてからその続きを施工しています。数量管理も担当しているので、各工程でどのくらいの費用がかかるか把握できるようになり、作業効率を良くするにはどうしたらよいか以前より深く考えるようになりました。この現場は毎年5月~9月は雨が多く、土工事やコンクリート打設などは降雨の影響が大きいので、仕事の段取りや作業変更等を現場で協力会社と良くコミュニケーションを取りながら安全・工程管理をしています。
また「荒瀬ダム建設現場概要」の作成も任せてもらいました。グーグルマップでこの現場を見たときはうれしかったです。

佐伯

荒瀬ダム作業所
土木係員

佐伯 英敬

2004年入社 広島県出身

大きな現場を経験したいと思い、前田建設に入社しました。1年目は岩手県の胆沢ダム工事に赴任しました。そこで、地元のソフトボール大会等に参加し、地元の人々とつながりを持ちながら仕事をすることを学びました。その後、山形県の綱木川ダムで2年間過ごし、宮崎県の切原ダムで基礎掘削からコンクリトート打設時まで施工を担当しました。荒瀬ダムでは、堤体盛立の重要な品質管理を担当しています。ダムの盛立の品質管理は、やはりコア材(遮水材)の粒度と含水比管理が主体となり、適正な土の状態を保つよう含水比、密度、透水係数等を慎重に管理しています。また、場外にある仮設ヤードを整備して、地権者さんに返納する仕事も担当し、そこでは沿道住民の方に迷惑をかけないよう安全管理に十分注意し、施工しています。新入社員当時は、測量や工事報告書の作成等から仕事を始めてきました。現在は、毎日上がっていく堤体の品質管理を実施し、自分がダムを造っていることを実感しています。学生時代も試験や実験はしましたが、当時は難しいと思ったことが、今では当たり前にできるようになったのは、実務経験を積み重ねてきたからでしょう。

武田

荒瀬ダム作業所
土木課長

武田 智治

1999年 高知県出身

父が建築関係の仕事をしていたので、私も何かものを造る仕事がしたいと思い、土木関係の高校、大学を専攻しました。そして、大学ではトンネル研究室に所属していましたが、入社して以来、トンネル工事の経験は一度もありません。この荒瀬ダムには平成16年の着工時から赴任しており、今年で11年目を迎えています。着工当初の頃は、地質的に雨に弱い強風化花崗岩(マサ土)を主体とした切土法面の管理に神経を使いました。特に梅雨時期や台風期の施工においては、法面崩落を防ぐために土工・法面工の工程調整を密に行い、何とか掘削工完成させることができました。そんな中でも、やはり台風による自然災害はどうしても発生するもので、その災害復旧に長い時間と労力をかけたことが印象に残っています。そのおかげで、モルタル吹付工をはじめとして、アンカー工やロックボルト工、植生基材吹付工などの法面工に対する知識や経験を得ることができました。赴任して5年目以降は部下も増え、工事だけでなく工務の仕事もするようになり、忙しい日々を送るうちにこの年になりました。このようなダム建設に長い間従事できるのは貴重な経験です。この経験を生かし、どの現場でも良いものを安全に造ることを心掛けていきたいと思います。

武田

荒瀬ダム作業所
土木課長

高野 正年

1995年入社 愛知県出身

主に桝谷ダムなど農政局のフィルダム建設に携わり、荒瀬ダムに赴任して10年目です。
この現場は、河川勾配が急で、原石山付近は川幅も狭く工事用道路等の取り付けが困難なため、仮排水路トンネルを掘り、ダムサイトから原石山の間をドライにして施工しています。その関係で右岸側、左岸側の2本の仮排水路トンネルが設けてあるのが特徴です。
また、フィルダム建設では通常は掘削した土を近くで処理するほうが効率的ですが、ここでは処理する場所がないので一般道を使って外部に持ち出しています。
建設発生土の運搬は、10tダンプトラックを使い、片道30kmほどの志布志湾に運んで埋め立てに使いますが、空荷になったダンプを帰り荷とし近くの有明からコアを運ぶことにより運搬効率をあげて、1日4往復運行しました。
ロック材料の運搬は、場内では大型の重ダンプを使用することで工事のスピードをあげました。原石山は地下水位が高く、掘削中に法面に変状が見られました。法面の変状を観測しながら、影響がないよう掘削を行って、原石を供給しました。
地元小学生の見学会では大型重機に人気が集まり、後日、参加した小学生に声をかけてもらえることがうれしいです。

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佐伯

荒瀬ダム作業所
土木副所長

岩田 龍明

1991年 愛知県出身

静岡県の長島ダム、岐阜県の大ヶ洞ダム発電所改修工事、福井県の北陸農政局の枡谷ダム、沖縄県の国交省の大保脇ダム、荒瀬ダムと、入社以来ダム建設に携わってきました。ロックフィルダムは大保脇ダム、桝谷ダムに続いて3現場目で、ここでは監理技術者として工事全体を統括しています。堤体の掘削では転石と未風化の岩のかたまりが多く、硬い花崗岩や風化した真砂が水に弱いので、法面の掘削と養生に工夫をしました。掘削発生土を搬出する際は、毎日100台以上のダンプトラックの安全管理を徹底。ダムの河川の勾配が急なので、工事の肝である仮設備のレイアウトを考え、小さな貯留池を移動しながら工事を進めて河川の水質を守っています。発注者様には毎日工事の進捗状況を報告してコミュニケーションをとり、法面変状が起きたときは直ちに報告して応急対策を協議し、コンサルタント様とともに恒久対策を講じています。監査廊の施工は、当初は型枠の解体に危険を伴う在来工法でしたが、PCaに変更して安全性を高め、盛立を当初計画の26カ月から4カ月短縮して22カ月で施工し、全体コストを削減できたこともPCaの成果です。この現場では各工種の細かい部分は各担当者に任せ、これまでのロックフィルダムの施工経験を活かして工事全体を管理しているので、仕事がとても楽しくやりがいを感じています。

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