住田町新庁舎建設
設計・施工一括業務#2

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安全性を追求した木造庁舎全体が
木のショールーム

 住田町役場の新庁舎は、延床面積約2900㎡で2階建て。太い柱と梁で構成した伝統的な純木造建築のイメージを大切にしながら、先端的なデザインのレンズ型トラス梁やラチス耐力壁が印象的な建物だ。建物全体が「木のショールーム」になるよう計画されている。
 躯体の柱や梁には、地元産のスギ材とカラマツ材を採用し、住田町の三陸木材高次加工協同組合などで生産された構造用集成材を使用。木の構造体が建物内外に現われるため、燃え代設計による準耐火構造で耐火性能を確保し、人命を守る。
 また、耐震基準値Ⅰ類(1.5)という最高クラスを実現し、災害時には防災拠点として後方支援を可能にする。
 現場は資材調達・建方、作業員配置に最適な5工区に分け、木軸建方の終わった工区より順次内外装工事に入り、労務不足の解消を図っている。

 

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ペレット焚吸収式冷温水発生機設置状況

ペレット焚吸収式冷温水発生機などの設備機器は、敷地の低い位置に設置し、建物の外観の美しさを大切に守っている。ペレット焚吸収式冷温水発生機は1・2階執務室や交流プラザの冷暖房に使用する。

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外構先行工事

外構工事は施工の最終段階で着手することが多いが、ここでは基礎工事と並行して施工しスピードをアップを図った。

 

 

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ペレット

製材業の副産物であるおが粉やかんな屑を圧縮成形した小粒の木質バイオマス燃料。林業の盛んな住田町ならではのリサイクル燃料として、活用が推進されている。

 

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トラス梁に金具を付けて吊り足場に

 着工は2013年8月1日。基礎工事では地盤改良材を土壌に添加することにより、掘削土の排出をせずゼロエミッションを実現。擁壁や側溝などの外構工事を先行した。
 木軸の施工は、基礎コンクリートの上に柱を建て、柱の上に長さ29.2mのレンズ型木造トラス梁を1.8m間隔で連続して架け、開放的な大空間を実現する。
 レンズ型木造トラス梁は工場で半分に分けて製造し、現場地組ヤードで一体にし、柱との接続部や吊り足場の金具を取り付け、塗装を施し、クレーンで揚重し、セットする。
 東日本大震災後の復興工事のため仮設の資材も作業員も不足したので、吊り足場を考案した。トラス梁の両端に足場受けの金具を取り付け、そこに足場を渡して吊り足場をつくり、屋根工事が終わり次第その金具を外す。吊り足場で仮設の資材と作業員を大幅に削減し、作業効率を上げている。

 

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サンプルによる事前確認

サンプルを収集して、木材のあらわしかた、風合い、保護塗装の選定を関係者と1つ1つ確認しながら施工を進めている。
 
 

トラス梁モックアップ

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レンズ型木造トラス梁の地組状況

2つに分けて搬入されたトラス梁を現場ヤードで地組する。近くで見ると、その大きさに圧倒される。トラス梁の設置が終了すると、このヤードは町民広場として整備する。

 

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45tダンプトラックで土や石を運搬し
堤体を築造

 耐震基準値 I 類を確保するため、さまざま工夫をして強度を高めている。その1つが、日本で初めてラチス耐力壁を採用し、9倍の強度を確保したことだ。さらに合板耐力壁に75㎜ピッチで釘を打ち、強度を14倍に。仕上げにより、合板耐力壁は石膏ボードで覆うが、意匠性を活かしたラチス耐力壁から光と風を取り入れる。
 外壁からの漏水を防止するために散水試験を行い、防水性能を確認した。トップライト、外壁や屋根の断熱ラインや通気胴縁、垂木の配置計画、気密シートの全範囲チェックを行い、結露防止対策も実施している。
 3月23日の上棟式のあと、外装・内装工事が本格化する。外装のスギ板鎧貼りはユニット化して省力化を図る。
 こうして2014年8月31日の竣工引渡しをめざし、着々と工事を進めている。

WEBカメラ

現場に設置したWEBカメラで施工状況を撮影し、その映像をWEBで配信。進捗状況をWEB瓦版のブログで配信し、大規模木造建築の素晴らしさを伝えている。
ウェブカメラは施工中設置。

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地元のお祭り参加

地元住田町の奇祭「水しぎ」に前田JV職員も参加し、仮装コンテストで優勝した。

 

見学会

見学会には地元の方々をはじめ全国から大勢のみなさまが訪れ、大規模木造建築への関心の高まりを実感している。

   

 

設計の要求を把握し、
地元や環境に配慮して、
ダム工事をしています。

荒瀬ダム作業所 所長 今坂 成史<写真>

住田町新庁舎作業所
所 長

須崎 太朗


 木造の大規模な建物を建設することができ、木造建築の素晴らしさを実感しています。
 町民の方々が期待する新庁舎を、木造では類を見ない規模で施工するため、役場、設計会社、協力会社のみなさんの知恵を集め、ともに考えながら、町を象徴する建物をつくっています。
 労務不足のなか、作業員や資材の調達、仮設計画にも工夫を重ね、順調に工事を進めてきました。ここで培った木造建築の経験は当社の貴重な財産として蓄積され、今後の大規模木造建築に活かされていくと思います。
 3月23日の上棟式には地元の人々が集まり、完成への期待が高まりました。いよいよ本格的な仕上げ工事に入ります。住田町が誇る「気仙大工」の匠の技を活かして、早期完成をめざしています。

 

口地英樹

住田町新庁舎建設現場
工事課長

口地英樹

これまでに日本国内では、鉄骨造、RC造、SRC造、耐震改修工事、海外では日系企業の生産施設建設に携わってきましたが、木造建築はこの現場が初めてです。施工環境は、従来構造に見られる無機質な感じとは対照的に、木造ならではの木の香りが漂い、粉塵の少ない、人にも環境にも優しい現場となってます。

 

東日本大震災の復興が進む中、労務、資材が不足した状況で有ることから、綿密な施工計画と工程管理に重きを置き、スムーズに現場作業が進められるよう努めてます。木造は部材接合部分に使用する接合金物のクリアランスがゼロなので、特に柱脚、土台部分のアンカーボルトの精度管理には注意を払うと共に、構造部材の殆どが化粧現しである事から、施工時に傷を付けないよう対策を講じるなどして、木軸品質確保に努めてます。また、仮設資材も不足している為、トラス跳ね出し部分の外部足場を取り止めて、鉄骨工事で使用する吊足場材を流用する事で、大幅な仮設資材の低減を可能としました。

 

木造は躯体・仕上げ工事での作業工程が多く、多様な工種管理が求められます。特に大工さんは毎日数十人規模で作業しており、中には地元の大工さんも大勢いますが、高齢の方々が多いので、不慣れな大規模現場で匠の技を十分に発揮できるよう、しっかりサポートしていきたいと思ってます。

高山 久

住田町新庁舎作業所
近代建築研究所
設計者

髙山 久

弊社は大規模木造建築物を数多く設計・監理してきました。
役場と施工者との調整や、デザイン、色彩を決めることが私の仕事です。これまで経験してきた木造建築の知識、技術を生かし、より良い木造庁舎をつくるために現場事務所に常駐することにしました。
御社のBIMの3D技術で細部の検討やアニメーションによるイメージの可視化を行い、住田町の皆さまや現場職員との情報共有に活用しています。

建物のデザインは森林・林業日本一の町を目指す住田町の庁舎として伝統に根ざしながらも先端的な木造架構により、町のシンボルとなる庁舎にしています。「洗練されたデザイン」のレンズ型トラス梁を1.8m間隔に連続することで「重厚感」を表現しています。
また、地元の職人さんと話し合い、外装の「スギ板鎧張り」や内装の「スギ板デザイン壁」など、「建物全体が住田町の木のショールーム」になるように仕上げています。

建物の構造計画は木構造の第一人者である稲山正弘先生にお願いしまして、国内初のラチス耐力壁を採用し、靱性に富んだ耐震性の高い木造建築を実現しています。

環境未来都市を標榜する住田町にとって、そのシンボルとなるこの庁舎では冷暖房で消費するエネルギーを「住田町の森から生まれる木質ペレット」により賄われています。
完成した後の運用時にも木質エネルギーを活用する建物になっています。

住田町の木材を利用し、住田町の職人で施工できる仕組みを作ることで、住田町の職人さんの手で建物を手直し、住田町の皆さまの思いが込められた木造庁舎を大切に末永く、使っていただきたいと思います。

 

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