(仮称)桐朋学園音楽部門
仙川新キャンパス建設計画#1

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世界で活躍できる音楽家を、世界最先端の学び舎から。音楽教育のトップランナー桐朋学園音楽部門(仙川)で、前例なき『大規模木造キャンパス』の建設が進んでいます。

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■音楽教育の土台を木で築く

 1964年、旧桐朋学園仙川キャンパスができた当時は、先進的な建築物として話題になり、キャンパスのみならず、小澤征爾氏を初めとしてさまざまな音楽家が学ぶ、最高の環境が整っていました。
 そこから新たにキャンパスを建て替えようとなった時「桐朋学園の伝統を保ちつつ、革新的でもあるキャンパスを」という方針が固まりました。世界の建築トレンドに目をやると、木造が新しい潮流として注目されていることを知りました。また、ほとんどの楽器は木造であることから、音楽教育の土台となるキャンパスも「木造であるべき」という結論に至りました。
 例えば、オランダ、アムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートホールなどは130年前の木造で、楽器の響きが優れています。それは学生たちの学ぶ環境しかりで、音が響いて返ってくると体が柔らかく使えるようになり多彩な音が生まれます。つまり、音と木の親和性は深いものがあるのです。
 こうした背景から、我々が目指す音楽教育に相応しい環境づくりは木造以外ないと確信したのです。

 

■最先端の木造キャンパスを

 桐朋学園はいま、これまでの伝統を見直して、新しい価値を見いだせる『来るべき音』の創出を教育理念に掲げています。この理念の実現に向けて「ハードにおける具現化」を、木造建築を前提としてお考えいただきたい。これが新キャンパス建設における私どもからの包括的な要望でした。
 「木造」といっても、私どもが求めたのは法隆寺のような日本の伝統的な木造建築ではなく、世界最先端の木造建築です。そうした環境(建築物)であってこそ『来るべき音』の創出は加速します。
 今回、前田建設さんと隈研吾建築都市設計事務所さんからいただいたご提案は、明らかに世界の最先端をゆく木造建築であり、まさしく桐朋学園の目指す教育理念と完全に一致したものでした。すでに桐朋学園のソフト面(音楽教育)は世界レベルにありますが、仙川新キャンパスが完成すれば、いよいよソフトとハードの両面で世界に誇れる学び舎となるはずです。

 

■前田とならやって行ける

 今回の新キャンパス建築は、デザインと仕様を含めて、コンペティションの審査にあたった教職員の全員一致で前田建設さんにお願いすることに決まりました。要因となったのは、提案自体に先進性と説得力があったことはもちろんのこと、プレゼンテーションをされた時に熱意と誠意が感じられたことです。「この人たちだったら一緒にやって行けるだろう」と確信できましたし、その思いは今も変わりません。さらに今後のことを言えば、メンテナンスをきちんとすれば、この新キャンパスはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートホール同様100年以上経っても美しい音色が響いているはず。ぜひ前田建設さんには、そこまでお付き合い頂きたいものです(笑)。

梅津 時比古氏

桐朋学園大学院大学
桐朋学園大学 学長

梅津 時比古氏

 

小森谷 泉氏

桐朋学園大学音楽部
教授 ピアニスト

小森谷 泉氏

 

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最先端のデザインを最先端の設計技術で具現化する

草ヶ谷 友則氏

隈研吾建築都市設計事務所
主任技師

草ヶ谷 友則氏

 

綱川 隆司

前田建設工業 建築事業本部
企画・開発設計部
BIM 設計グループ長

綱川 隆司

造建築とBIMの親和性

綱川  今、世の中にある耐火木造建築というのは、意外に木の印象が際立ちません。というのも、耐火を実現させるために木を別の材料でくるむことから、木の建物らしくない見栄えになりがちです。
 今回、隈研吾建築都市設計事務所(以下:隈事務所)さんから提案があったデザインは、斬新かつ木の柔らかさや温かみが表現されたものとなっていました。

草ケ谷  耐火建築ゆえに木があまり感じられない。この問題は我々も念頭に置いていまして、ファサードの印象表現は木を全面に押し出したいということがスタートラインとしてありました。また、敷地の周辺が住宅地であるため、突出し過ぎたものではなく、住宅地との調和を実現させることも大切な検討要素のひとつでした。
 そうした中でも隈事務所ならではの独自性を挙げるなら、エントランスの大庇が象徴的です。
 エントランスは建物の顔でもあり、ゲストの方々を悠々とした庇を持って迎え入れる。これは隈事務所の普遍的な設計手法となっています。

綱川  この大庇は、木造ならではの自由度の高い表現手法を駆使した隈事務所さんらしいデザインでした。ただ、それゆえ、かなり複雑な多面体の構造でしたので、設計上それを具現化させるにあたっては、隈事務所さんの方で作成したモデルのデータを我々に頂いてBIMのシステムデータとして落とし込み、逆追いでトラスや下地の形状、雨水の処理方法などを決めて行くという我々にとっても初めての試みでした。設計段階でのBIMのメリットは、大庇だけでなくあらゆる設計プランを検証する上で、関係者(意匠設計・構造設計)の意志統一を3次元データの中で図ることだと認識しています。
 ただし今回は隈事務所さんもすでに3次元でものを考えることが当たり前の文化としてあったため非常に仕事がやりやすかったです。

草ケ谷  私も大変スムーズに仕事ができたと感じています。大庇の形状がつくりにくいとか、立体的に理解しにくいとか。そうした部分を一瞬にして共通認識として確立できるのでとても助かりました。
 ただし、これはプロジェクトの性質にもよりますし、パートナー企業がどういった思想やノウハウを持っているかでも異なります。ただ、このような建築の3次元化の波は大きくなってきており、今後、確実に増えていくと感じています。

人の息吹を感じるデザイン

草ケ谷  古い建物を壊して新しいものに建替える場合、すべてを新しくするのではなく、それまで流れていたものを伝統として残していくことも設計の大事な役割です。
 桐朋学園では学生たちが廊下のいたるところで楽器の練習をしており、その風景が非常に印象的でした。
 このような伝統を新しい建物でも残していけるように、地下階空間の廊下、そして2階から4階まではロッカーの形状を工夫することで大小異なるスペースを確保して、これまでと同じように廊下で練習が行えるよう設計しました。
 この建物の主役はあくまでも学生です。したがって、デザインもさることながら学生たちの学ぶ意欲を刺激するものでなくてはなりません。

綱川  当初から私が隈事務所さんのデザインに感銘を受けたのは、そこに人がいることを意識してデザインされていたことです。
 海外での音楽学校の実績と桐朋学園様の学びの伝統の双方から、全体のデザインを導きだされている。いわば「人がいる建物」を最初から強調されていたように感じています。単純に建物の器をデザインしているのではなく、使われている様をイメージすることがこの仕事をする上で大事なことだと改めて教えられました。

草ケ谷  そこにいるのは、学ぶ人なのか、働く人なのか、暮らす人なのかなど、それは建物の性質によって異なるはずです。
 建物の主役が違えば当然器の形も違ってきます。一番肝心なのは、まずそこを徹底的に考えることだと思います。その上で、器となる建物をデザインにブレイクダウンすることが肝心です。

 

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接合部取り合い・金物検討例

設計時に作成したBIMをデジタルモックアップとして施工時に用いることにより、デザインや納まり等を関係者全員で共有しながら施工を進めていくことができます。木造特有の接合部取り合いや金物の検討を3次元で行うことで高品質な施工を実現します。

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シミュレーションによる省エネ・安全の確認

BIMデータを利用し、従来は竣工しなければわからなかった光や熱や空気の流れを事前に予測し視覚化。お客様の必要な室内外環境を最も効率よく実現します。また災害時の避難シミュレーションを行い安全性の確認も行えます。

 

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