(仮称)桐朋学園音楽部門
仙川新キャンパス建設計画#2

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2016/3/15施工状況

適材適所に木を使い分け安全と品質を担保

 桐朋学園音楽部門の新キャンパス建設は、地上4階の大規模木造建築故に、地震時の耐久性を考慮した木材の選定が行われました。
 強度の面から、柱には高軸力を保有するサザンイエローパインと欧州赤松といった寒冷地で育った木材を採用。梁については国内産の唐松を使用して、耐震基準値Ⅱ(1.25)を実現させています。さらに、外観メインとなるファサードを形成する外装材には、風雨や紫外線による劣化防止、無垢な外観イメージを表現したいという意匠設計からの要望を実現させるため能登ヒバ材を使用。材質の特性を考えて、適材適所で木材を使い分けています。
 また、木造建築の品質担保の上で最も留意すべき耐火性能については、石膏ボードを耐火被覆材として使用するメンブレン工法を採用して1時間耐火を実現しました。
 鉄骨造建物建築の場合であれば、ロックウールの施工には、複合耐火工法が標準的な手法ですが、木造においてはまだ「複合」という考え方が存在しておらず、従来の方法で構成しても耐火認定を受けることができないため、各部分ごとに施工上の工夫が求められます。

多様な木材選定

多様な木材選定

耐震性と劣化しにくい意匠の実現に向けて選定された木材は、精工に加工された金物を伴い施工に向けて現場では段取りよく保管されています。

均一な釘打ち

均一な釘打ち

建物の堅牢性を支える構造用合板への釘打ちは、壁の浮き上がりを完全防止するために、50㎜ピッチの均一幅で打ち込まれています。

 

2016/4/11屋根部分施工状況

1800本のアンカーボルトを寸分違わずに打つ

 木軸建て方は余裕が1㎜もない製作誤差なしのゼロタッチであることが要求されます。柱が立って、そこに梁をつける場合には、わずかな誤差があっても収まりません。面と面がしっかり接していて、建てた時にはゆがみ直しをしなくても水平に部材が収まるようになっていなくてはなりません。
 今回の新キャンパス建設では、柱が240角あり、梁幅が120㎜で高さが600㎜、この梁面が全体で柱と接するよう、極めて高精度な構成条件となっています。その精度の土台を成すのがアンカーボルトの設置です。今回は1800本のアンカーボルトを設置しており、鉄骨造でいうスーパーハイベース工法と同等以上の精度が要求されました。ただしここの精度さえ確保できれば、施工はスムーズに進捗します。
 ゆえに、木軸の建て方を行う前のアンカーボルトの設置時が最も神経を使う作業となりました。
 さらに構造上の特徴としては、施工開始後のプラン変更が一切不可が条件となります。大規模木造建築の場合、地震に対する強度は耐力壁の量で決まります。したがって開口位置(設備貫通なども含む)が制限されるため、細部に渡って構造設計の計算通りに施工を進めていくことが要求されています。

木軸基礎ボルトへの設置

木軸基礎ボルトへの設置

木軸基礎ボルトへの設置

基礎となる木軸は、施工初期段階で打ちこまれた1800本からなるアンカーボルトに丁寧かつ慎重に施工されます。

高耐力ホールダウンシステム

高耐力ホールダウン
システム

地震時には横から力が加わり、筋交は浮き上がりの力が柱に加わります。耐力壁の反対側の柱は逆に土台に押さえ付けられる力が働きます。こうした引き抜き力に対応すべくホールダウンシステムを採用しています。

 

2016/3/30木軸建方施工状況

施工BIMで細部を可視化し検証時間を短縮

 新キャンパス新築事業は、一昨年の12月にコンペ参加を表明し、その3ヵ月後にはプレゼンテーションが行われました。他社も同じ条件であったにも関わらず、短期間でより完成度が高く、説得力のある提案が行えた背景にはBIMの活用があります。
 施工計画を進めていく上でも、早い段階で具体性を持って検討できる材料が揃うBIMの機動力は大きな武器になりました。
 当然ながら受注後も、意匠、構造、設備の図面検討は幾度となく行われましたが、最初の段階で実現性の高いプランがあったからこそ、細部に渡る検討がスムーズに行えました。
 木造であるがゆえに自由に設備貫通ができず、設備のスペースを別に設けなくてはならない。しかも制約がある中でいかにコンパクトに設備を収めていくことができるか。それらの検討もBIMの図面があってこそ早い段階での検討着手を可能にしました。木軸とBIM、そして施工の親和性を考えるならば、制約が多い中で、今まで以上に短い期間で、より多くの検証ができることが最大のメリットと言えるでしょう。
 今回の木軸建て方におけるBIM活用は、大きなノウハウの蓄積になり、今回の施工協力会社やメーカーなどもBIMの活用を大いに取り組むことを表明されています。

<写真>

現場でのBIMの活用

施工中の部材に時間軸を与えて、工事プロセスを可視化。これにより手順が明確化され、また学生たちや、学校関係者の動線と工事関係者の区画を明示する他、近隣へ最の終配工慮区にも役立ちます。

綿密な日々の打合せ

綿密な日々の打合せ

学生や学校職員が散在する中での工事ゆえ、作業の安全性堅守や施工手順の確認など日々、綿密な作業打合せが行われています。

前田建設の新境地を拓く

西川 秀則

仙川桐朋学園作業所
所長
西川 秀則

 私自身、木造建築はこれが初めての経験で、木造ならではの難しさを絶えず感じながら取り組んでおり、毎日が新しい発見の連続で新鮮です。  そうした意味では、これまで誰も経験したことのない分野に携わることができて良かったと思います。また当現場の工事課長は、前田建設に入社したときの夢が「いつかは木造建築物に携わりたい」というものだったようです。彼以外にも、そうした夢を持っている職員も少なからずいるのではないかと思います。若手の夢という点においても、いま前田建設は、新たな境地を開きつつあると言えるのではないでしょうか。

 

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