モビリティ、アパレル、そして建設の異業種コラボ「未来の百貨店」。
そんな夢の企画を実現させた各社の担当者に、製作過程や参加の意義などについてお聞きました。
果たして「未来の百貨店」とは?真剣な言葉の数々にその理想像が見えてきます。
50年後の百貨店の買い物は、どのように進化しているのでしょう?
柔軟な企画力に定評のある「前田建設ファンタジー営業部」プロデュースにより、複数の企業から「未来の百貨店」をテーマに、夢のある提案をいただきました。
本プロジェクトは、未来の百貨店のあるべき姿を、百貨店自身でなく、異業種クリエイターが創造するユニークな試みであり、その意味では近年話題になっているオープンイノベーションの適用事例と言えるかもしれません。
未来の百貨店を自由に創造した「わくわく」「驚き」の買い物シーンとそこに至るクリエイターの思いをお楽しみください。
藤田:「MOBU」を担当しました。私は就職活動を始めた時点では設備系を考えていましたが、途中で意匠設計に志望が変わったんです。学生のときは単にデザインを考えることに問題意識があり、“この部屋にはこれだけのきれいな空気が必要なのでこういう空調計画にする”といったような、分かりやすい設計の方が自分に合っていると思っていました。しかし今は意匠設計に与えられた采配の大きさを知りとても面白いですね。「未来の百貨店」については、最初に「未来」と「百貨店」というテーマで、さらに色々な企業とコラボできると聞き、とても楽しそうだなと思いました。学生から社会人になり、すぐにそういった体験できることにとてもワクワクしましたね。
綱川:普通の会社ではなかなか経験出来ないと思います。その道のプロの方々にタダ働きをして頂いているようなものですから。しかし実務では客先に出る機会もないような時期に、フィアロさんやオンワード商事さんといったお客さんを相手にプレゼンテーションをすることは貴重な体験になったのではないでしょうか。
松島:「ウォーターラビリンス」担当です。私は意匠・設備・構造の中なら、自分で形を決められる意匠を選びたいと考えていました。私は元々土木の勉強をしていたんですが、大学院に進んでやはり建築を勉強したい、就職するなら建築に行きたいと思ったんです。土木ならではの大きなスケールに対するイメージがあまり湧かず、もっと人間に近いものを扱いたいと思い、建築の道に進みました。「未来の百貨店」について最初に聞いたときは、私も楽しみだなと思いましたね。設備・意匠・構造のみんながひとつのチームとして同じプロジェクトに取り組むことで、どんなことが実現できるんだろうととても楽しみでした。
綱川:彼ら3人を含めてそれぞれのチームには4人の人間がいるんですが、みんな分野が違うんです。彼らは意匠設計ですが、構造や設備の人間と組み合わせることで、今後の実践業務と同じ組み合わせを体験してもらいました。「未来の百貨店」は空想ですが、実際の業務と同じ形でBIMを体験してもらうという裏コンセプトもあったんです。もちろん設備や構造の人間も1年生。その裏コンセプトについては、チーム編成時にも一切説明していません。
成富:「百貨繚乱」を担当しました。僕は最初から意匠設計希望でしたが、研修や今回の「未来の百貨店」でも、意匠・設備・構造の三者が一緒にものを作り上げていくことに面白さを感じていたんです。前田建設に入社したのもそういった組織になっていることが理由でした。僕は意匠のことしか勉強していなかったんですが、最近は設備と構造の面白さに気付き、そちらにも興味が湧いてきました。
綱川:彼は環境システム学科という単なる建築学科ではないところの出身。例えば部屋の形を決める場合にも“まず解析してみないと”いう切り口なんですね。建築デザイナーは同じような方向を向いている場合が多いんですが、組織には色々な人間がいなければダメだと思うので、彼のような人材も面白いと思いますね。
瀧田:私は入社15年目で、2003年に3D-CADチームが出来、途中でBIM推進グループに名前が変わりましたが、ずっと意匠設計に所属しています。「未来の百貨店」については、コーチ役として関わりました。CADの操作については研修で教えていたのでデータの入力は彼らに任せて、私は主にそれを3Dプリンタで出力する模型を担当しています。フィアロさんからは非常に完成度の高い内部イメージのレンダリングをいただき、建物全体のイメージを3Dモデルデータそのものでいただいたので、前田建設としてはそれを変換して出力し模型にしたりCGとしてまとめる作業を行いました。
綱川:フィアロさんが持ってきた螺旋状のスロープや内観のイメージを、前田建設では建築としてどのように構造的に成立させるのかを考えていきました。フィアロさんからもらったデータに、外装材や柱を追加し、ドームのように見える大屋根をどうやって構造的に支えるのか、ガラスで作られているイメージの外装をどのように実現するのかを検討していったんです。外周の柱をできるだけ細くし、センターを支える構造体を厚く強固にすることで屋根を支えるというスケッチを描いたこともありましたね。それを元にフィアロさんが考えた螺旋案を建築的に落とし込んだものが、今回の「フィアロ案」です。
綱川:その「フィアロ案」以外でもコーチというスタンスで、彼女(瀧田)は「未来の百貨店」全体に関わっています。
瀧田:あまりコーチはしていないです、ホーチ(放置)ですね(笑)。
綱川:彼が最初に描いてきたのは、電車の車両が一両まるごと店になっていてそれが走っていくというものでした。駅で待っているとホームに店舗となっている電車が入ってくる。そして次に入ってくる電車はまた違う店舗になっている。どの店舗が来るのかは時刻表で確認できるんですね。レストランなら移動食堂のように楽しめるし、目的地までカフェでコーヒーを飲みながら移動することもできる。
藤田:人が動かなくても、時間が経過すれば駅のホームに違う店がやってくるところが、ある意味少しスリルも感じられるかなと思います。ただ買物を楽しむだけではなく、エキサイティングな感覚も味わえるところを大事にしました。
瀧田:「MOBU」については、私は最初の案も好きでしたね。電車よりもバスに近いアイデアで、立体駐車場のような建物の周囲を店舗になっている車両がグルグルと回っているものでした。またオモチャのような原色配色の樹脂模型がとても良く出来たので、こんど別な模型を作るときにまた使えたらと思います。
綱川:グルグル回る車路は重力に逆らっていたので無くしました。50年後ではムリ(笑)。
綱川:実は彼女が最初に描いたアイデアでは、東京は水没していたんです(笑)。かなりインパクトがありましたが、それはやめてもらい、水路が上空に張り巡らされているような形に変えていきました。店舗と店舗の間を船に乗って移動し、そして船上で従業員が店内をナビゲーションしてくれる。華やかでいいのではないかと思いましたね。また面白かったのは、オンワードさんがミーティングで、水着のようなユニフォームと、イルカと戯れているようなイメージを提案してくださったんです。悪乗りをしたわけではないですが、そこからどんどん水族館のようなイメージになっていきました。水路があってゴンドラに乗るだけではなく、その水路に色々な生き物がいるという発想が生まれて、さらにその様子をお客さんが見ているといった形に変化していった。オンワードさんとのアイデアの交換で、当初のアイデアから水族館がデパートになったような新しい形の百貨店に変わっていくことが面白かったですね。
瀧田:しかしBIMのモデリングは、これが一番大変でした。彼らは新入社員研修で、壁と床と柱と梁を入れたら建物になるというところからソフトの操作方法を覚えていくんです。通常CADで入れるような、まっすぐな床、まっすぐな天井、まっすぐな壁などどこにもないんですね。しかも「ウォーターラビリンス」は水路なので、すべてに微妙な勾配がついていないといけない特殊な形なんです。
綱川:新入社員研修からそのままの流れで「未来の百貨店」に突入したので、彼女(松島)はCADの操作を習ってすぐに「ウォーターラビリンス」の作業を始めました。我々なら「こんな形は面倒くさいから絶対にやらない」というようなことをいきなり始めたので、これは大変だなと思いましたね。“知らないが故の暴走”というか(笑)。
松島:さらに基本的にすべて曲線なんです。曲線で勾配がついているので、とても大変でした(笑)。しかし理想として、百貨店というひとつの箱が街の中にあるのではなく、都市のあいだに百貨店が入り込んでいるようになれば店舗がより身近になり、また再び百貨店が盛り上がるのではないかという思いを込めました。オフィスやレストラン、マンションといった色々な建物の間を、百貨店が縫っているようなイメージですね。
綱川:分かりやすく言うと、例えば水着を売る“箱”は常夏のリゾート地のようなイメージを作り、そこでお客さんに水着を買っていただく。ウインタースポーツなら、雪山などの環境を実際に作り、そこでスキー用品などの商品を売る。花が咲いていて春が感じられる“箱”があり、同時に紅葉シーズンの“箱”もあるなど、この百貨店を訪れれば四季がすべて感じられる。そんな環境を閉じ込めた場所を作るというアイデアは、未来志向で面白いと思いましたね。機械的に照明や空調をコントロールすることで、今の技術でも実現できるところがあるかもしれません。テナントや商品ブランドの“箱”を作るというコンセプトなので、お客さんも店を選びやすいし、販売側としても面白い企画ができるのではないでしょうか。季節が訪れて初めて使い勝手が分かるものが、その季節に先駆けて実際に使い勝手を体験できる。販売時期を拡張できるという意味でも、かなり面白いと思いますね。
成富:そして中央を通っているエレベーターが柱となり、その周囲にこの“箱”が設置されているイメージです。今の百貨店のエレベーターやエスカレーターも、“体験”というテーマに基づいて組み立てなおしました。
綱川:しかし彼が最初に描いた絵は、まったく構造的な配慮がなされていなかったんです。移動の考え方もまったくない状態で、「これはどうやって上に上がるの?」と聞いたら唸っていましたね(笑)。それはプロとしてマズイので、最初はボタ山のような形だったものをアレンジし、構造的に柱や通路も考えてもらい、“箱”にエレベーターが通っているので移動するだけで次々と色々な体験できるという今のような形となりました。この辺りも建築の固定した考えを持っている人間では、現在の形に至らなかったと思います。学生から実務経験者なっていく微妙なタイミングで、「未来の百貨店」を体験させたのが今回の成果として面白いところですね。そこをみなさんにも楽しんでいただければと思います。それから模型ですね。これはガラス張りになっていることを想起するために、普段使っている白い樹脂の3Dプリンターではなく、新しい造型機を使って半透明で出力をし、東武百貨店池袋店での展示時は下からライトアップをして幻想的な雰囲気を作り出しました。
瀧田:「百貨繚乱」のチームはCADを使うことが好きな人間が集まっていたので、実は作るのが大変な形なのに自分たちで進めてくれていましたね。本当に放置していても作業を進めてくれていたので、とても助かりました(笑)。
綱川:最後に「未来の百貨店」が終わった感想を話してもらいましょう。
藤田:今だったら、もう少し構造のことを考えて作りますね(笑)。
松島:私の感想は、趣旨とは少し違うかもしれませんが、今回一緒に作業をさせていただいたオンワード商事のデザイナーである藤井さんとその後も個人的に色々と交流しています。同じデザインでも仕事の進め方がまったく違うんだなとか、そういう発見がありますね。今回の「未来の百貨店」はそんなきっかけになったので、非常に良かったと思っています。
綱川:我々もそうなんですが、自分の業界に染まってしまうと違う分野の方と接点がなくなってしまう。『ファンタジー営業部』は外部とのコラボレーションを仕掛けてくれるので、これをきっかけに視野やつながりが広がっていくのはとても面白いですね。
成富:僕はコンピューターをどう使うかをいつも考えているんです。中でも今回のような、楽しくてアナログチックな体験を生み出す手助けになる使い方をしたいと考えていました。「百貨繚乱」はそれを実現できたかなと思っています。
綱川:“箱”の形を決める際にも色々と解析しようとしていたんですよ。天井部分の膜に映像を投射する技術やその膜の構造なども、ある程度裏付けが取れるのではないでしょうか。
瀧田:気流解析の絵なども「百貨繚乱」のパネルに付けてあげられれば良かったんですが、時間的に難しく実現しませんでした。
綱川:しかしそういった実作業の時間ではなく、チーム内で意思疎通を図り、形を決めるまでが最も時間がかかるんです。今回はみんなひとりずつにエスキース(アイデア出し)を提出させて、その傾向からチームを決めて、その化学反応でどんなものが出来上がるのか確認するということがとても面白かった。今回達成したことは、おそらく一年生の今しか描けないこと、来年になったらこんなの絶対に描けないことなんです。実務を始めると「こんなものは出来ない」と理性が働くようになる。今回の「未来の百貨店」は、そんな貴重なアウトプットだと思いますね。
しかし今回は大変でしたね(笑)。今までの『ファンタジー営業部』はWeb上の展開だったので、実際に模型を一般に展示するということはなかったんですが、今回は初めてそれがあり、さらに4案も進めなければならなかった。実は『ファンタジー営業部』に対しては、社内外からの厳しい目もあるんです。そのような方々にはこれが一過性のお祭りで終わるのではなく、やったことを整理してその意味を対外的にも説明できるようにしなければなりませんし、今回のようにより多くの人に見ていただく機会を今後は増やしていきたいと思っています。
フィアロコーポレーションがコンセプトメイクした「SHOW CUBE」にインスパイアされ、前田建設の建築設計部若手が提案した作品。
車と電車を売場として活用、店舗を循環させることにより、常に新しい発見と展開を持つ流動性のある百貨店をデザインした。
マリンリゾートとITモールを融合した作品。
日常では味わえない、人が足を運びたくなる特別な場所(空間)。
百貨店は、駅やオフィス、集合住宅をつなぐ水路に姿を変え、船であるいは泳いで移動しながら・人・物・海・動物との出会い、交流手段を生み出す。
店員ユニフォームは、大手服飾デザイナーが作品のコンセプトにあわせて提案した水着である。
「体験」の提供に価値を置いた作品。
百貨店内に季節や地域性まで再現された産地・農地・工房など様々な「体験」を提供する多くの「箱」を用意し、商品に込められた真の価値を再発見していただく装置である。
店員ユニフォームは、大手服飾デザイナーが作品のコンセプトにあわせて提案したものである。