前田建設ファンタジー営業部

『宇宙戦艦ヤマト2199』×『前田建設ファンタジー営業部』 PROJECT 06 前田建設ファンタジー営業部 宇宙戦艦ヤマト2199 建造準備および発進準備工事

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第4回 表現の模倣

詳細検討にあたり、林と山内は新戦力を要求した。土木部トンネルグループの賀川である。賀川は、均等係数1.5〜2.9%(≦5%)、細粒分含有率0.2〜6.9%(≦10%)の未固結砂層、わかりやすく言えば「掘る傍からサラサラと崩れる、巨大な砂場のような地山」が全体の約7割を占めるという難しい現場を任されていた男である。

賀川は原案確認後、「地下空間の形状を考えると、ヤマトの後方も地盤改良する必要がある。形状全体も見直しさせてほしい。」とつぶやくと、黙々とホワイトボードにメモを書きはじめた。

それらメモの集大成が、このドラフト図である(図6)。

図6:地下大空間計画図(DRAFT) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図6:地下大空間計画図(DRAFT)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

まず1号立坑(ズリ出し用立坑:図6では1番立て坑)の位置が変更された、図1および図2では、波動エンジンノズル直下にあった立坑を、ヤマト後方、竣工時には大空間に取り込まれる位置に移動した。立坑は大空間掘削時の「土捨て穴」であるわけだが、掘削作業の効率化には、大空間内あらゆる場所から「土捨て穴」までの運搬距離を均一化し、かつトータル距離を最少化するのがよい。その試行錯誤の結果がこの立坑位置というわけである。

また第1トンネルは、本坑トンネル(第2および大空間)の先進導坑を兼ね、かつ堆積層との層境界を掘ることから、地盤変化に対応しやすいTBM工法を採用することとなった。
先進導坑とは、困難な地山(土質)でのトンネル掘削時に、地山の性質などを間違いなく把握するため、本坑に先行して掘削されるトンネルのこと。またTBM(Tunnel Boring Machine)とは文字通りトンネルを掘るための機械であり、トンネル断面とほぼ同じ形状および大きさの円筒状であることが多い。これの使用により地山(土や砂)をトンネル内側にあまり露出させない掘削が可能となり、土や砂や地下水の変化に関わらず安定した施工が可能になる。
そのTBMにも様々な定義および種類があり、第1トンネルにはトンネル内側に全く土や砂を露出させずにすむシールド工法(シールドマシン)を選択する。これによりトンネル本体も、工場製作の分割されたトンネル構築用ピース(セグメント)をシールドマシンの中で組み立てることになり、安定かつ効率的な構築が可能となる。

工期をさらに短縮するため、当初ヤマト艦尾方面にのみ向かうはずだった1番トンネルを、途中より1号立坑の工事開始位置へ分岐させることとした。以後、前者を1番−1トンネル、後者を1番−2トンネルと呼称する。
実はこのトンネルの途中分岐、トンネルの力学的安定が失われるため通常は選択しない。そこで、22世紀においても未だ施工事例の少ないH&V(Horizontal & Vertical variation)シールド工法を採用した。H&Vは円筒掘削機が平行に2機接続されたもので、前から見ると「ひょうたん」ないし「8」の字に見える。そして各円筒には別々に動く中折れ(首振り)装置が装備されている。
2機を接続したまま、中折れの角度を各々逆につければ、マシンには扇風機の羽根の如きひねりが生じるため、掘進(掘削し前進する)とともにトンネル軸方向を中心に回転してしまう。これを利用し、例えば地下鉄工事において、それまで横に配していた複線を、上の道路が狭くなる部分9で縦に積み上げ、縦二連に変更することが可能となる。そして、このマシンは分離も可能である。なお参考までに、一度分離したH&Vマシンの再合流は不可能である(図7)。

図7:第1−1・2トンネル断面検討図 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社 ※前田建設で便宜上、劇中と異なる戦闘機を図化しておりますが、ご容赦下さい。
図7:第1−1・2トンネル断面検討図
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
※前田建設で便宜上、劇中と異なる戦闘機を図化しておりますが、ご容赦下さい。

1番−1トンネルの大きさは、大昔の施工だが未だ最大級のシールド実績である東京湾アクアラインと同等のスペック、仕上り直径12.6mとした。この大断面によりトンネル内へ2連ズリ出し用ベルコン配置と資材搬入経路を確保する。既存工事の設計、計画、実績を正しく流用することは建設業界においても極めて有効なのである。また分岐する1番−2トンネルの大きさは、2番トンネル完成後に施工する1号立坑の施工機械(レイズボーリング工法)が通過・施工可能な断面から直径3mに設定した。
そして、ヤマトへの艦載機積込等の条件より断面を最大化すべき2番トンネルは、経済的で山岳トンネルの標準的工法といえるNATMを採用し、日本の最大級かつ大昔の事例、第2東名のトンネル断面である140m2とした。

大空間掘削時のズリ出しは、大空間の2段目掘削までは1番−1トンネル内の連続ベルトコンベアを使用。2段目掘削と同時に1号立坑も構築し、3段目以降は、直接1号立坑にズリを落下させ、2番トンネルにてベルトコンベア輸送する。一般的に大きな地下空間は崩落防止などの理由で、1段、2段、3段と深さ方向に何回も分けて掘削するのである。

地下大空間施工時の材料供給ならびに換気については1番−1トンネルを活用する。トンネル施工での換気は必要空気量を計算し、切羽付近まで必ず設置される風管を通じて行う。空気を送り込むことで、古い空気が切羽付近から徐々に、必要な流速で押し出される(循環する)。なお2段目掘削の頃には、1番−2トンネルも換気を担うことが可能である。

主要トンネルの検討が終わると、休む間もなく賀川と林は、ドーム空間構築の鍵を握る、ヤマト側方部『未固結堆積層』の地盤改良について検討を開始した。導坑は、使用するマルチジェット工法の機械高などから、下のような断面計画とされた(図8)。

図8:導坑断面検討図 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図8:導坑断面検討図
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

『未固結堆積層』のトンネル構築ゆえに、天端(てんば:上部)が崩れないよう、先に屋根状になるよう、パイプ形状の改良を複数実施したのち、機械掘削を行う。

この導坑を複数掘削し施工する改良範囲は次の通り(図9)。

図9:地盤改良と導坑 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図9:地盤改良と導坑
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

何より工期が優先されるため、マルチジェットの施工機械は10セットを同時投入、24時間の急速施工で対応する。図9の平面図で、長方形で示されているヤマトから良く見ると左右に複数、横に延びているのが導坑で、その下に描かれるいくつもの円が、マルチジェット一回の施工における改良範囲(直径8m)である。実際の改良体は深さ24mの円柱状となり、これが集まり巨大な改良体を形成する。その費用、約300億円。

以降、説明すると長くなるため、賀川と林が結論を出した「宇宙戦艦ヤマト 建造準備および発進準備工事」の施工ステップを図で示めす(図10・11・12)。

図10:施工ステップ図1 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図10:施工ステップ図1
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

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図10で注目すべきは、先ほど説明した1番−1トンネル位置が、検討の結果さらに変更されたこと。先ほどのドラフト図(図6)のヤマト直下から、最終的に大空間の構築範囲「外」へと移された。ドラフト(図6)案では大空間掘削後、1番—1トンネルのヤマト近傍部分は消滅する。すると1番—1トンネルとヤマトの間に橋(架台)が必要だが、それには時間もコストも非常にかかる。一方、最終案であれば、大空間掘削完了後も1番—1トンネルは変わらずヤマトへの資機材供給が可能である(図15)。なお図10で地盤改良までが終了となる。次に大空間施工のステップを示す(図11)。

図11:施工ステップ図2 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社 ※前田建設で便宜上、劇中と異なる戦闘機を図化しておりますが、ご容赦下さい。
図11:施工ステップ図2
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
※前田建設で便宜上、劇中と異なる戦闘機を図化しておりますが、ご容赦下さい。

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2番トンネルの施工完了と同時に1号立坑(図中では1番立坑)の施工を開始、地下大空間2段目掘削完了までに1号立坑も完成させれば、以降1番−1トンネルを通じてヤマト建造用資機材の搬入(=ヤマト建造)が開始できる(ステップ6)。

この後は、地下大空間の掘削を継続し、やがて第2トンネルと接続される(図12)。この時点で、全ての車両(モノの移動)を2番トンネル経由に変更。役割を終えた1番−1・2トンネルでは、ヤマト発進時の波動エンジン推進力の対策工事であるコンクリートによる閉塞工事に着手する。

図12:施工ステップ図3 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図12:施工ステップ図3
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

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当初は閉塞コンクリートでなく、1番−1・2トンネルにもヤマトの推進力や戦闘時の爆風等から地下都市を防御する圧力隔壁を採用予定であったが、最終的に第2トンネル以外はより安価で確実なコンクリート閉塞とした。ヤマトへの資機材搬入や車両通行は全て2番トンネルに集約し、コストを抑えている。当然2番トンネルの遮断壁は車両通行可能な構造を採用する。

これら工事が終了すれば、いよいよヤマトは抜錨・発進の時を迎える(図13)。抜錨・発進のプロセスにおいても、実はヤマトの動きと高度に連動した、前田建設の仕事が続くのだ。

図13:ヤマト発進順序図 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図13:ヤマト発進順序図
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

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さて、この施工・発進プロセスにある「アンカー」および「支保工」の規模や詳細はどのようなものか。仮にヤマトの重量を、偽装および艦載機、弾薬等の余裕も鑑み10万tとして検討した結果が下である(図14)。

図14:仮設アンカー工および支保工計画図 (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図14:仮設アンカー工および支保工計画図
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

全ての検討が終わり、やがて工事費と工期の算出が終わる。賀川は大きくため息をついた。全力を尽くしたにも関わらず、ヤマト建造開始まで、今から1年以上の期間が必要だったからである。

「要求がさらに高くなれば、また工夫をするまでですよ」

と林。メンバーは腹をくくると、早速、明日に迫った国連宇宙軍担当官へのプレゼンテーション準備に取り掛かるのであった。

国連宇宙軍担当官(中央)と下打合をする、前田建設の賀川(左)と林(右) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
国連宇宙軍担当官(中央)と下打合をする、前田建設の賀川(左)と林(右)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

殺風景な会議室に、国連宇宙軍担当者の声が響く
「ヤマト建造開始は410日後、というわけね。」
「はい。コストと安全性のバランスから、これがベストと考えます。」
「1207億3816万円、470日で工事完了・・・ギリギリね。」
ちょっと冷たい印象もうける担当官の女性は、上から言われている工期があるのか、搾り出すように声を出した。

表1:建造準備および発進準備工事 実施工程表 (C)2012 前田建設工業株式会社
表1:建造準備および発進準備工事 実施工程表
(C)2012 前田建設工業株式会社

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「これでも地下都市が現場近くにありましたから、1番−1トンネルの長さも900m弱。こんな額で済んでます。」

宇宙戦艦ヤマト 建造準備および発進準備工事 工事費内訳書

表2:建造準備および発進準備工事 工事費内訳書 (C)2012 前田建設工業株式会社表2:建造準備および発進準備工事 工事費内訳書
(C)2012 前田建設工業株式会社

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長い打ち合わせが終わり、担当官は国連宇宙軍上層部への最終プレゼンテーションを明日に決めた。それだけ全てにおいて余裕もないのだろう。

「この艦はどこを目指すのですか。移民先の惑星を探すとか・・・。」

念のため質問してみた林だったが、予想通り彼女は答えない。希望を見つけるためという主旨の言葉を残したが、それが前田建設スタッフへ、精一杯のサービスらしかった。

最終図面を仕上げながら林は思った。乗組員達がヤマトに乗り込むと、2番トンネルと1番(号)立坑は地下都市への被害防止に万全を期すため土砂で閉塞される。乗組員達はその瞬間に地下都市と隔絶され後戻りすることができない。その時、艦内でクルーはどのような気持ちなのだろうか。

「発進中止になれば、地表面を通って帰ってこられるじゃないか。」

いやトンネルと立坑が閉塞され、閉じ込められたような息苦しさを感じるのは逆に我々ではないか。取り残されてしまったという絶望感・・・。

図15:地下大空間計画図(最終PLAN) (C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社
図15:地下大空間計画図(最終PLAN)
(C)2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会/前田建設工業株式会社

「そのためにヤマト発進時も発進後も、我々の仕事が一層大事になるんだろ。」

その通りだな、と林は思った。ヤマト建造開始まで、あと411日。(完)

  • 9 道路周辺の土地所有者の関係で道路下からはみ出すことができないのです

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