台北地下鉄松山線CG590A工区
建設工事#3

TOP Report#2 Report#2 Report#3 Report#5 Construction REPORT 35


台北地下鉄初、駅の躯体に自己充填コンクリートを採用 難度の高い深さ35mの地下鉄駅も建設する

 前田建設は、松江南京駅、中山駅、北門駅の3駅を施工している。
 台湾の地下鉄駅の土留めには、連続壁が採用されていることが特徴だ。設計では駅の躯体に自己充填コンクリートの使用が指定されていたが、台湾では供給実績が少なく品質に問題があったので、前田建設は技術研究所の研究成果とこれまでの実績を活かし、現地のプラント会社と協力して安定した品質の自己充填コンクリートの製造を実現した。
 また、台湾は地下水位が高く、台風による大雨も多いので、過去の地下鉄工事では水との闘いで苦しんだ。そこで、トンネルや駅内への浸水を防ぐために、既設駅に松山線の駅を増設する松江南京駅と中山駅では、既設駅との接続部に新たな防洪壁を作ってから連続壁を壊す方法で施工をしている。

■金融街の松江南京駅
 銀行や証券会社などが建ち並ぶ金融街に位置する松江南京駅は、南北に走る台北地下鉄新荘線(間もなく開業予定)の既設駅に、東西に走る松山線の駅を増設する。すでに掘削を完了し、現在、鉄筋コンクリートで躯体を施工している。

■繁華街の中山駅
 中山駅は、東京で言えば銀座のような繁華街に位置する。南北に走る淡水線の既設駅に、松山線の駅を増築する躯体工事が進んでいる。駅の東側には2本のシールドトンネルが到達。駅の西側の立坑からシールドマシンが発進し、トンネルを施工している。

■遺跡を保存して建設する北門駅
 3駅の中で一番大きい北門駅は深さ35m。その掘削は2010年に完了した。
 台北は2mほど掘削すると水が出るほど地下水位が高く、掘削には危険を伴う。そこで、湧水や土留支保工構造の安定確保を目的として、ディープウェル工法を採用。地下90mの井戸を24本設置し、地下水位を下げている。
 北門駅の場所には、清時代の台北城の遺跡や明治時代に日本が建てた機関車整備工場(指定遺跡)があった。工事に先駆けて、機関車整備工場は移動され、台北城の遺跡は1年ほど学者による発掘調査が行われ、将来復元できるよう出土品に番号を付けて機関車整備工場内に保存された。前田建設は、駅の出入り口の位置を変更し、施工中は機関車整備工場を出土品の保管倉庫として管理し、工事完了後に機関車整備工場を元の位置に復元移動する予定である。

松山線中山駅と淡水線中山駅の間に設置された施工中の洪水に備えた防水扉

土留工連続壁のコンクリート打設

ディープウェル排水の中継用排水水槽
(24本のディープウェルを稼働

移動後の機関車整備工場内で大切に保管されている出土品

台北地下鉄松山線作業所 G17駅(松江南京駅) 松本祐司

入社したときから海外で仕事をしたいと思っていました。2002年12月に台湾に赴任し、高雄地下鉄と花蓮の海洋深層水施設を施工。台北地下鉄松山線には入札段階から取り組み、松江南京駅の施工管理を担当。開削現場の工程・安全・施工方法の検討をし、滞りなく施工しています。大規模で工種が多く難易度の高い現場なので、上司に相談したり参考書を読んだりして勉強するのは大変ですが、言葉も文化も違う台湾のスタッフとコミュニケーションをとりながら、仕事に真剣に取り組んでいます。

台北地下鉄松山線作業所 規劃設計組 神田隆真

初めての海外勤務で台湾に赴任して3年半です。この現場では3駅の開削関係の計画設計を担当。深さ35mという大規模な開削の計画などに取り組んで、力をつけることができました。また、台湾のやり方を尊重し、実績を作ったことで、発注者や設計コンサルタントとの信頼関係を築くこともできました。これまで、施工性やコストを考慮し、私の意図がしっかり伝わる図面を書くよう心がけてきました。これからは、コストや協力会社の管理もできるようになりたいと思います。

台北地下鉄松山線作業所 規劃部経理 王 文良

規劃部は計画設計を担当。仮設・免震・構造を安全に配慮して設計する計画設計組、設計図と施工図の検討をする図面組、リスクの高い工事の計画をする技術組という、3つの組に分かれています。この現場では、塔城公園の駐車場の既設の杭を取り除く部分や、台湾初のダクタイルセグメントの採用、新幹線の下を掘進するという難工事があります。特に新幹線下の掘進というリスクの高い難工事は、つくばエクスプレスの三ノ輪トンネルの施工法を参考にして慎重に検討しています。

台北地下鉄松山線作業所 施工工程師 高井達格

駅の施工を担当。主導的な立場で工事全体を把握し、施工関係者と情報・意思の統一を図り、きちんと施工することが私の役割です。そのために、わかりやすい図や工程表を作成して協力会社に説明しています。この現場では、供用中の北門高架橋の橋脚の部分に新しく杭を2本打って橋脚を盛り替え、既設の橋脚の杭を撤去するという工事に初めて取り組みました。また、駅本体が大規模なので、地下水対策には十分注意を払っています。シールドで実績を残した台湾パワーに、今後も期待しています。

台北地下鉄松山線作業所 水環経理(設備) 翁 啓?

地下鉄の空調、電気、エレベーター、エスカレーター、松山線環境制御監視システムなどの設備を担当しています。台北地下鉄の設備はすでに設計されているので、我々はその設計図及び仕様書に従い確実に施工しています。地下鉄の設計はどちらかというと保守的で特殊なことはありませんが、設備の取り付けでは取り合いが難しい部分があります。この現場では土木と設備を一緒に受注したので、施工しやすく、工期短縮にもつながります。台北は人口が多いので、多くの人々に地下鉄を利用してほしいと思います。

台北地下鉄松山線作業所 課長 (施工副経理)諫山明生

この工区では高技術30項目が指定されています。そのうち3項目は、第三者の安全確保のために前田建設が設計変更しました。ところがその提案から決定までに、中山駅シールド到達と台湾新幹線障害物撤去では2年、発注者も設計者も施工業者も異なる台湾桃園国際機場線のDOTシールドが到達する北門駅については1年半かかり、外国での交渉の難しさを痛感しました。こうして第三者の安全を最優先とし、他工区との境界面は特にきちんと施工して、品質確保に努めています。

台北地下鉄松山線作業所 施工経理 陳 建國

北門駅は、地下35mまで掘削して地下4階の躯体を建設し、台湾桃園国際機場線との取合部も施工する、全体で最も難しい工事です。台北は地下水位が高く、軟弱な砂層があるので、施工が困難です。そこで、発注者や設計コンサルタントと打ち合わせを重ね、安全対策を講じています。地盤改良に薬剤を注入する工法を採用し、ディープウェルを用いるなど、我々の創意工夫が主要地下鉄で評価されることは、技術と信頼の証だと思います。

台北地下鉄松山線作業所 課長(品質管理副経理) 謝 明宏 日本工学博士

2007年に技術研究所からこの現場に赴任し、施工の品質管理、材料の品質管理、コンクリートの配合の検査を担当。台北地下鉄の工事で、自己充填コンクリートが当工区で初めて採用され、3駅すべてで16万m3を使用します。工期短縮を目的として自己充填コンクリートの温度応力の検討書を作成し、発注者に提案しました。これにより、台北地下鉄では初めて、底版打設の長さが従来の15mから30mになりました。日本で得た知識を活かし、台湾の良い材料を使って高品質を確保するために、施工技術の指導に取り組んでいます。

■前のページへ▼次のページへ