建築事業本部 設備設計部 設備第3グループ 主任
芦谷 友美
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エクスチェンジ棟は、省エネ技術を用いて建物運用時の年間使用エネルギー・ゼロを目指すZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実証を視野にいれています。 ZEB認証を取得するためには、建築や設備の工夫によって基準建物より50%以上の省エネを行い、残りのエネルギーを太陽光発電などの再生可能エネルギーでまかなうことが求められます。 エクスチェンジ棟では、数々の技術の採用により約77%の一次エネルギー削減になると試算しました。その筆頭には、3階執務エリアのタスク&アンビエント空調が挙げられます。 アンビエント空調として、当該地域は井水が豊富であることから、井水を利用した放射空調を採用しています。凹凸のあるデッキスラブに放射パネルを組み合わせ、構造体と設備が一体化した放射空調により、温度ムラのない快適な空間を実現できる他、着脱が容易なアタッチメント方式であるためメンテナンスも簡単というメリットがあります。現在、特許権と意匠権をあわせて出願中です。 タスク空調には、床面にファン内蔵の吹出口を設け、外調機で処理された空調空気を供給。フットスイッチによる運転切替で個々の好みに合わせた空調が可能です。 この他、照明の省エネにもこだわりがあります。人が居る場所だけが点灯し、離れると消灯する画像センサーと連動したタスク&アンビエント照明の採用や、待機電力カットなど、大幅な省エネを目指した設計となっています。 また、南側の自動制御内外ブラインドも効果的な省エネ手法です。夏は外ブラインドで室内に入る日射を遮ります。内ブラインドは日射が当たるとブラインド自体が熱くなるため外で遮る方が効率的と考えました。逆に冬は内ブラインドを利用することで一度入った熱を有効に活用します。さらに、取り入れた日射を天井に反射させることで照明の補助としてのメリットが生まれます。こうした狙いから、外ブラインドと内ブラインドの両方を設置しました。 建築的な視点では自然換気が挙げられます。屋内外のシミュレーションを行い、建物の四隅に様々な方位からの自然風を効率的に取り込むウィンドキャッチャーとガラリを設置しました。これを使用することで、冷暖房のいらない中間期には自然換気だけで快適な室内環境を実現します。ZEBの観点からエクスチェンジ棟のデザインを見ると、自然換気は見逃せないポイントです。 |
電気容量が数十kW~1,000kWと様々な実験機器が設置され、計画的な実験運用でも構内のデマンド電力は1,400kW程度となります。ある程度、自由度を持った機器稼働のため、分散電源として、レドックスフロー電池750kWhとガスエンジン発電機370kWを導入し、デマンド電力の抑制を行う計画としました。実験稼働に応じて、効果的な分散電源の投入を行うと共に、エネルギーコストを削減するためにEMS(エネルギーマネジメントシステム)を採用しており、今後独自の『実験工程調整ツール』と連動することで需要予測精度を高め、最適な運転制御する機能を備えています。 また、長時間運転する実験機器のために『自立運転モード』を構築。急峻な負荷変動にはレドックスフロー電池が安定化電圧源となり、ガスエンジン発電機がバックアップ運転をすることで、停電時も実験を完遂させることが可能です。 災害時はエクスチェンジ棟、共用部照明、重要コンセントのバックアップができ、BCPや帰宅困難者対応なども可能となります |
EMS 装置の一部(レドックスフロー電池)
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※デマンド(電力)とは:電力会社が基本料金を決める30 分間の平均使用電力
建築事業本部 ソリューション推進設計部 BIMマネージメント センター(意匠担当)リーダー 谷 昌明
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エクスチェンジ棟は各フロアの目的に応じて異なる設計が施されています。1階はベンチャー企業のインキュベーションに寄与する施設に相応しく、天井の照明ボックスを、卵が孵化して新しい発想が生まれ出てくることをイメージして、卵がひび割れたようなデザインとしています。床は白を基調とした石貼りとタイル貼りとし、ガラスのスライディングウォールで囲われつつも奥の水景への抜け感を演出する透明感がある空間です。 2階は内外の垣根を超えて活発な意見交換が行える場となるよう、室内のコンセプトカラーを気持ちが高揚する赤色としました。 天井には吸音効果がある素材を赤く塗って設置し、床にはEPD認証に準拠した赤いカーペットを敷き詰めるなど、、視覚性と機能性が両立する設計を行いました。 また、北側に階段状のベンチを置いて、討論会を行ったり、工作エリアを設けて発想の具現化を図ったり。南側のミーティングスペースには室内に自然光を取り込む膜天井を採用し、中には放射空調を設置して省電力かつ和らいだ空調を実現しています。 3階は北側が当社職員の執務エリアとして、南側は外部の方を招いて業務がきるエリアに棲み分けています。 執務エリアには、複数のパターンに形を変える可動式の間仕切りを設け、ここにプロジェクターの画像を映すことで実験施設や全国の現場とリアルタイムにつながる設計を行っています。 外観の設計については実験棟との親和性を意識しつつガラス面を増やし、外部ブラインドを設置するなど特徴あるデザインを工夫しました。また自然換気を行うため、北側にウインドキャッチャーを設け、東からの風を室内に導入する機能設計も行っています。 活気に満ちた知的創造空間であるエクスチェンジ棟の南側には、一面に広がる水景が展望できます。このランドスケープは、オフィスワーカーにひと時の安らぎを与えるばかりでなく、壁面太陽光発電効率や空調負荷低減などの目的を持った設計意図が反映されています。 このように、建物の設備のみならず窓外の水景や人の動きまで含め、さまざまな角度から最高基準の環境先進施設を目指した設計を行っています。 |
取手MKT作業所 副所長 野島 伸一
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エクスチェンジ棟は、建物運用時のエネルギー消費量を、省エネや再生可能エネルギーなどを活用してゼロを目指すZEBの実現を視野に入れ、当社のさまざまな技術を結集させたオフィスビルです。 エクスチェンジ棟の施工に採用した特徴的な技術のひとつに、基礎免震の躯体を支える四隅の柱の200N/?の超高強度コンクリートがあります。施工手順は、ヒーティングケーブルを貼り、断熱材で囲った鋼板の型枠内にコンクリートを打設し、温度管理を行いながら約1週間養生させます。今回の施工で、コンクリート打設後に養生させる時間を短縮するよう改良できれば、より利用価値の高いコンクリートになります。今後、さまざまな場面で応用できる手応えを得ることができたのは大きな収穫でした。 また、柱と梁の接合部分にはRCS(柱が鉄筋コンクリートで梁が鉄骨)構法を採用。これは当社の「MaRCSⅢ構法」を用いています。H鋼を仕口内で交差させずに外側の鋼板を厚くして、上下にダイヤグラムのプレートを取り付け、そこに梁のH鋼を接続させ効率化を図るもの。他にも、免震装置に積層ゴム、すべり支承、免震ダンパーを併用するなど、細部にわたり、高い施工技術が施されています。 今回の採用技術をさらに品質を上げ、より使い勝手を改善してゆけば、効果的な施工技術として一般化されていくと思います。 またこのエクスチェンジ棟は、合意された施工BIMモデルにより鉄骨を製作し、鉄骨建方のシミュレーションにも施工BIMモデルを利用しました。 当社では、設計BIMは日常的なものですが、施工の方では拡大段階です。ただ流れとしては、3次元で理解を深めるBIMは、施工でも不可欠なツールになるはずであり、その意味でもこの現場でトータルでBIMを体験できたことは貴重な経験だったと思っています。 |
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