木のえんがわのシンボリックな屋根ができるまでの道程はマウントフジアーキテクツスタジオ(以下、MFAS)が描いた、数羽のカモメが飛んでいるようなスケッチから始まりました。
紙に折り目を入れると固くなる事を応用して15mのロングスパン木屋根を作れないかというアイデアです。それを実現するために導きだした答えが、厚さ50㎜のLVLとそれをV形に維持するための150㎜の鉄骨を組み合わせる「1%の架構体」でした。15mのスパンに対し、鉄骨だけの場合の梁せいは700㎜程度、スパンのおよそ1/20を要しますが、LVLを組み合わせることで鉄骨の梁せいをスパンの1/100(1%)にしています。この屋根構造はICIキャンプだけに留まらず、他の物件においても汎用的に活用できる技術として、MFASと共に特許申請しました。
現在、取り壊す地域財源もなく活用方法が未定の廃校数は国内で千を超えます。学校は地域社会の中心となる建物であり、それを失うことにより、地域は活気を失い、過疎化などの問題にも拍車がかかります。廃校を効果的に利活用することができれば、地域の活性化に結び付き、ひいてはCSVへと繋がります。
東・西の校舎では、「残す」「馴染ませる」「加える」の3つの操作に分けてルールを定めています。「残す」ものは古く汚れているものであっても、〈そのものが存在してきた時間〉というかけがえのない価値を持つものとして扱いました。「馴染ませる」ものは残した要素に対して主張しない色調やトーンを定めています。「加える」ものはメッキ塗装などで、残したものとのメリハリを付けています。
教室の雰囲気を残すためには工夫を要しました。法規上、学校は明るい時間に子供が使用する建物なので、求められる性能が他の用途と大きく異なります。そのため、用途変更に伴い、多大に手を加えなければなりませんが、ICIキャンプでは教室の窓を改造することなどにより、法的要件を整理し、教室を元のままの姿で残しています。
ICIキャンプではMFASと設計担当だけでデザインを完結させるのではなく、社内・社外問わずさまざまな人から技術やアイデアを募ってデザインに参加してもらうオープンな枠組みで設計を進めました。計画段階では設計部の若手職員を加え、シアターや卓球台など固有のテーマを持った宿泊室を点在させるアイデアや宿泊室のレイアウトなどを提案しました。
そのほかにもICI・作業所職員、職人や様々なメーカーの担当者などからのアイデアも積極的に取り入れています。西の校舎3階には普段仕上げで隠れてしまう建築資材にスポットを当てた「資材置Bar」があり、今後も学生などの手で更新していきます。さらには、音楽室や理科室の空間をそのまま活かした研修室や、昇降口にあった下駄箱を再利用した棚が印象的なワークショップルームなど、多様な個性を持った空間が展開されています。